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04 私、前世は狂戦士だったのです
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「皆、早く部屋から出ろ!」
お父様が皆をせかすが、私はガバッと布団を剥いだ。
乱れた髪が顔を覆った。
ドレスはぐしゃぐしゃだ。
か細い腕で布団を握りしめるがブルブル震えは止まらない。
なのにドクンドクンと血圧は上がるばかりで、折れそうに細いと心配される首には、きっと血管が浮き出ているだろう。
そして顔はいつにも増して青白いはず。
涙で化粧は剥げ、きっと頬はまだらに涙の跡を描いている。
自分の最悪に情けない様に、ますます心が荒んでくる。
つい先程までの私の輝きを見ていた皆は、その乱れっぷりに声を失くしていた。
「勝手に婚約破棄して、勝手にまた婚約したのね」
ものすごい怒りの感情が沸き上がり、私は低い声を発した。
「私を子供も産めない、家庭を築けない女と蔑んでおいて、その実お幼馴染みのエルミナ様と一緒になりたかっただけなのね。ふふふふふ」
怒りの割に細くか弱い声しか出で来ないのが納得いかない。もっと怨念籠った低く恐ろしい声で呪ってやりたいのに。いや、私に人を呪うような力はないのだが。
「そして逃げたのね・・・」
逃げるのは嫌いだ。どんな状況でも最善を尽くそうと、あんなに語り合ったのに。
「ルイーズ、落ち着け」
一番近くにいるアルベールが、私を刺激しないように静かに後ずさりを始める。
「ルイーズ、深呼吸だ。興奮しては体に良くない」
お父様も後ずさりながら私を気遣う声を掛ける。
集まった親戚一同が静々と、開いたままのドアの方へと向かっていく。
「お父様、今こそ、解放の時ではないでしょうか?」
ぎろり。
と、へっぴり腰で後ずさる父を睨む。
睨むつもりはないのだが、怒りに行動が抑えきれない上に、表情まで感情に乗っ取られる。
こんな事は久しぶりだ。
「まて、今は待て、せめて避難させろ」
お父様の言葉の間にも、私の怒りバロメーターはグングンと上がり続ける。
私の額は熱くなる。
ぴしっと空間に雷が走るような音。
ぴししっ!
「すげー、俺、初めて見た」
呑気などなたかの声がする。
いけないと分かっていても抑えきれない。
「もう我慢なりません! 抑えるのは無理っぽいです! 皆さま早く避難なさってー!!」
私は精一杯の細い声で叫んだ。
「逃げろ!」
父の掛け声で室内にいた者が駆け足で外へ出て行く。
熱い熱い、おでこがやけどしそうに熱い。
私は両手でおでこを抑えたが、こみ上げる怒りという感情は治まらない。
私の華奢な体に抱えきれない感情は、みるみるうちに外へと飛び出す。
空間を割く音がぴしぴしからバリバリになり、ああもう、無理、と思ったら、むしろ感情を盛大に爆発させたくなった。
「ふざけんな! テオドリックーーー!!!」
こんな事態なのに相変わらず蚊の鳴くような叫び声で、私は生まれて初めて、思いのままに感情を発露した。
こんな事態でも、声は突然野太くなったりはしない。
叫び声は相変わらずの細い声だった。
だが、私にとっては8年前、前世の記憶がもどってからは初めての感情の発露。
空気が爆ぜた。
この部屋から通ずるドアというドアは吹っ飛び、窓という窓からはガラスが粉々に吹き飛び、家具は倒され、カーテンは千切れた。
バーン!
ガシャーン!
ドゴォ!
ガラガラガラ!
同時に様々な音が鳴り響き、カランカラン、コロコロ、と余韻を残して、やがて静けさがやって来る。
見渡すと、私を中心に放射状に瓦礫の山が築かれ、空間に千切れたカーテンが舞っていた。
「ふう、スッキリしましたわ」
晴れやかにベッドの上で息を吐くと、びしっと壁に亀裂が入る。
「ふふ、私は病弱じゃないのよ、テオドリック様」
ぴしぴしぴしっ!
呟くたびに壁が鳴り亀裂が入る。
そう、私は病弱なのではない。
こんなに華奢で可憐ななりをしていますが、実は私、前世は狂戦士だったのです。
お父様が皆をせかすが、私はガバッと布団を剥いだ。
乱れた髪が顔を覆った。
ドレスはぐしゃぐしゃだ。
か細い腕で布団を握りしめるがブルブル震えは止まらない。
なのにドクンドクンと血圧は上がるばかりで、折れそうに細いと心配される首には、きっと血管が浮き出ているだろう。
そして顔はいつにも増して青白いはず。
涙で化粧は剥げ、きっと頬はまだらに涙の跡を描いている。
自分の最悪に情けない様に、ますます心が荒んでくる。
つい先程までの私の輝きを見ていた皆は、その乱れっぷりに声を失くしていた。
「勝手に婚約破棄して、勝手にまた婚約したのね」
ものすごい怒りの感情が沸き上がり、私は低い声を発した。
「私を子供も産めない、家庭を築けない女と蔑んでおいて、その実お幼馴染みのエルミナ様と一緒になりたかっただけなのね。ふふふふふ」
怒りの割に細くか弱い声しか出で来ないのが納得いかない。もっと怨念籠った低く恐ろしい声で呪ってやりたいのに。いや、私に人を呪うような力はないのだが。
「そして逃げたのね・・・」
逃げるのは嫌いだ。どんな状況でも最善を尽くそうと、あんなに語り合ったのに。
「ルイーズ、落ち着け」
一番近くにいるアルベールが、私を刺激しないように静かに後ずさりを始める。
「ルイーズ、深呼吸だ。興奮しては体に良くない」
お父様も後ずさりながら私を気遣う声を掛ける。
集まった親戚一同が静々と、開いたままのドアの方へと向かっていく。
「お父様、今こそ、解放の時ではないでしょうか?」
ぎろり。
と、へっぴり腰で後ずさる父を睨む。
睨むつもりはないのだが、怒りに行動が抑えきれない上に、表情まで感情に乗っ取られる。
こんな事は久しぶりだ。
「まて、今は待て、せめて避難させろ」
お父様の言葉の間にも、私の怒りバロメーターはグングンと上がり続ける。
私の額は熱くなる。
ぴしっと空間に雷が走るような音。
ぴししっ!
「すげー、俺、初めて見た」
呑気などなたかの声がする。
いけないと分かっていても抑えきれない。
「もう我慢なりません! 抑えるのは無理っぽいです! 皆さま早く避難なさってー!!」
私は精一杯の細い声で叫んだ。
「逃げろ!」
父の掛け声で室内にいた者が駆け足で外へ出て行く。
熱い熱い、おでこがやけどしそうに熱い。
私は両手でおでこを抑えたが、こみ上げる怒りという感情は治まらない。
私の華奢な体に抱えきれない感情は、みるみるうちに外へと飛び出す。
空間を割く音がぴしぴしからバリバリになり、ああもう、無理、と思ったら、むしろ感情を盛大に爆発させたくなった。
「ふざけんな! テオドリックーーー!!!」
こんな事態なのに相変わらず蚊の鳴くような叫び声で、私は生まれて初めて、思いのままに感情を発露した。
こんな事態でも、声は突然野太くなったりはしない。
叫び声は相変わらずの細い声だった。
だが、私にとっては8年前、前世の記憶がもどってからは初めての感情の発露。
空気が爆ぜた。
この部屋から通ずるドアというドアは吹っ飛び、窓という窓からはガラスが粉々に吹き飛び、家具は倒され、カーテンは千切れた。
バーン!
ガシャーン!
ドゴォ!
ガラガラガラ!
同時に様々な音が鳴り響き、カランカラン、コロコロ、と余韻を残して、やがて静けさがやって来る。
見渡すと、私を中心に放射状に瓦礫の山が築かれ、空間に千切れたカーテンが舞っていた。
「ふう、スッキリしましたわ」
晴れやかにベッドの上で息を吐くと、びしっと壁に亀裂が入る。
「ふふ、私は病弱じゃないのよ、テオドリック様」
ぴしぴしぴしっ!
呟くたびに壁が鳴り亀裂が入る。
そう、私は病弱なのではない。
こんなに華奢で可憐ななりをしていますが、実は私、前世は狂戦士だったのです。
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