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20 王宮親衛隊長ガスパール
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穏やかな可愛いポニーに乗馬しただけで私のなけなしの体力は尽きてしまった。
普段使わない筋肉を使ってヘロヘロになった私は、馬庭の片隅で休憩していた。
「そう簡単に体力はつかないからな。無理するなよ」
アルベールに慰められながら疲労回復ジュースを飲む。
「せっかく自由な時間が出来たのに、休憩ばっかりしていたらもったいないわ。もう少し付き合ってください」
ここでもう鍛錬を終えてしまうのが名残惜しくてアルベールにわがままを言っていると、騎士団の訓練場の方角から一人の騎士がやって来た。
アルベールが立ち上がって礼を取るので、それなりの立場の方らしい。
私も立ち上がろうとすると手で制止される。
「王宮親衛隊の隊長、ガスパールと申します。王妃様の命により様子伺いに参りました」
「王妃様が?」
「はい。騎士なら目立つことないだろうという事で、僭越ながら私が拝命賜りました」
「まぁ」
王宮親衛隊とは、王族に直接忠誠を誓った、王の騎士団である。
王立騎士団の中で生きているブルージュ公爵家とは少し立場が違う。
こちらは公設、あちらは私設であり、より私生活に密着しているのが王宮親衛隊だ。
「わざわざありがとうございます。私は元気にしているとお伝えください」
にこにこにこ。王妃様好みの美丈夫な隊長と私はひとしきり笑顔を交わした。
「・・・・・」
はい。何かお話があるそうです。
人払いをご所望ね。
ここはあちこちに騎士団の方が行き来しているから場所を変えよう。
「アルベール、私、馬に乗って少し遠くまで行ってみたいわ」
わざとらしく席を外す理由を付ける。
「・・・お1人では無理ですよ。一緒に乗りましょうね?」
アルベールも解ったもので、話を合わせてくれる。
「それでいいわ。ガスパール隊長もご一緒しません?」
「よろこんで」
こうして私はアルベールを共に、王妃の使いを連れて、私有地である裏山へ遠乗りに出た。
遠乗りは私の希望です!
「凄い! 気持ち良いですね! こんな高い位置から湖を見たのは初めてです」
遠乗りも幼い頃以来、久しぶりだ。
乗馬した高い位置で湖を見渡すと、木陰と水上を渡る少し冷えた風が夏の暑さに清々しい。
「半径50メートルに人はいませんよ」
従者も全て遠ざけた状態でガスパール隊長に先を促す。
「王宮に来て頂きたいそうです。ヴァレリー王太子殿下にお礼という形で」
ハンサム騎士はしれっと言う。
「!!」
「ブフッ!」
今朝の我が家の会話を聞いていたのか?
私の今の鬼門を知っているアルベールは噴き出している。
「王宮ではヴァレリー王太子殿下が、突然の訪問に王子宮のガーデンに席を設けます」
ハンサム騎士はしれっと続ける。
「王子宮のガーデンは第二王妃の宮と接していますので、そこで偶然お昼の散歩に出かけたリリア妃と出くわす事になります。ルイーズ様には一悶着起こしていただきたいのです」
ええ!? 嫌だ!
接しているといっても、散歩コースとはそれなりに離れている。
侵入しなければ先ず会えないじゃない。
「リリア妃は今、体調不良を理由に宮に立てこもっています。テオドリック殿下が大公殿下に預かりの身になって、聞き出したい事が山ほどあるのに、です。騒ぎが起きれば我々が押し入る条件が揃うのですが、いま、リリア妃に強引に接触して害のない方が王宮にはいないのです。ルイーズ公爵令嬢でしたら、強引に迫る事が出来ます」
そうですけどね!
婚約破棄を理由に何とでも押し掛ける事が出来ますけどね!
「王は?」
一縷の望みをかけて聞いてみる。
「リリア妃の母国、ルルヴァル王国と今は均衡状態ですので、強引な事はできません」
明確なガスパール隊長の答え。
「・・・全てはそこですね」
解っていますよ、はい。王妃教育受けていますから。
リリア妃の母国ルルヴァル王国は物資が少ないが兵力が高い。
我がラマティア王国は物資は豊かだが三国との国境があり兵力はいくらあっても足りない状態。
だから物資と兵力を補充し合う間柄なのだが、ここ数年ルルヴァル王国は災害続きで物資の要求は増え、兵力も災害復興に割かれるので我が国への派遣を渋っている状態だ。
ルルヴァル王国との軋轢により我が国の兵力が落ちる隙を、隣国の三国は虎視眈々と狙っている。
そんな時に王がリリア妃の機嫌を損ねたら、
「酷いわ! ラマティア王がわたくしを蔑ろにするのよ~」
なんて報告がルルヴァル王国に行ってしまう訳だ。
あ、ヴァレリー王太子のご婚約者もルルヴァル王国の公女様よね。
うん、複雑。
ぱっかぱっか。アルベールを背もたれに、馬に揺られて私は考える。
宮殿に立てこもるリリア妃。
大公家お預かりのテオドリック様。
エルミナ様はテオドリック様を唆している様子だった。
エルミナ様の利害って何?
「交換条件があります」
私はガスパール隊長に提案した。
普段使わない筋肉を使ってヘロヘロになった私は、馬庭の片隅で休憩していた。
「そう簡単に体力はつかないからな。無理するなよ」
アルベールに慰められながら疲労回復ジュースを飲む。
「せっかく自由な時間が出来たのに、休憩ばっかりしていたらもったいないわ。もう少し付き合ってください」
ここでもう鍛錬を終えてしまうのが名残惜しくてアルベールにわがままを言っていると、騎士団の訓練場の方角から一人の騎士がやって来た。
アルベールが立ち上がって礼を取るので、それなりの立場の方らしい。
私も立ち上がろうとすると手で制止される。
「王宮親衛隊の隊長、ガスパールと申します。王妃様の命により様子伺いに参りました」
「王妃様が?」
「はい。騎士なら目立つことないだろうという事で、僭越ながら私が拝命賜りました」
「まぁ」
王宮親衛隊とは、王族に直接忠誠を誓った、王の騎士団である。
王立騎士団の中で生きているブルージュ公爵家とは少し立場が違う。
こちらは公設、あちらは私設であり、より私生活に密着しているのが王宮親衛隊だ。
「わざわざありがとうございます。私は元気にしているとお伝えください」
にこにこにこ。王妃様好みの美丈夫な隊長と私はひとしきり笑顔を交わした。
「・・・・・」
はい。何かお話があるそうです。
人払いをご所望ね。
ここはあちこちに騎士団の方が行き来しているから場所を変えよう。
「アルベール、私、馬に乗って少し遠くまで行ってみたいわ」
わざとらしく席を外す理由を付ける。
「・・・お1人では無理ですよ。一緒に乗りましょうね?」
アルベールも解ったもので、話を合わせてくれる。
「それでいいわ。ガスパール隊長もご一緒しません?」
「よろこんで」
こうして私はアルベールを共に、王妃の使いを連れて、私有地である裏山へ遠乗りに出た。
遠乗りは私の希望です!
「凄い! 気持ち良いですね! こんな高い位置から湖を見たのは初めてです」
遠乗りも幼い頃以来、久しぶりだ。
乗馬した高い位置で湖を見渡すと、木陰と水上を渡る少し冷えた風が夏の暑さに清々しい。
「半径50メートルに人はいませんよ」
従者も全て遠ざけた状態でガスパール隊長に先を促す。
「王宮に来て頂きたいそうです。ヴァレリー王太子殿下にお礼という形で」
ハンサム騎士はしれっと言う。
「!!」
「ブフッ!」
今朝の我が家の会話を聞いていたのか?
私の今の鬼門を知っているアルベールは噴き出している。
「王宮ではヴァレリー王太子殿下が、突然の訪問に王子宮のガーデンに席を設けます」
ハンサム騎士はしれっと続ける。
「王子宮のガーデンは第二王妃の宮と接していますので、そこで偶然お昼の散歩に出かけたリリア妃と出くわす事になります。ルイーズ様には一悶着起こしていただきたいのです」
ええ!? 嫌だ!
接しているといっても、散歩コースとはそれなりに離れている。
侵入しなければ先ず会えないじゃない。
「リリア妃は今、体調不良を理由に宮に立てこもっています。テオドリック殿下が大公殿下に預かりの身になって、聞き出したい事が山ほどあるのに、です。騒ぎが起きれば我々が押し入る条件が揃うのですが、いま、リリア妃に強引に接触して害のない方が王宮にはいないのです。ルイーズ公爵令嬢でしたら、強引に迫る事が出来ます」
そうですけどね!
婚約破棄を理由に何とでも押し掛ける事が出来ますけどね!
「王は?」
一縷の望みをかけて聞いてみる。
「リリア妃の母国、ルルヴァル王国と今は均衡状態ですので、強引な事はできません」
明確なガスパール隊長の答え。
「・・・全てはそこですね」
解っていますよ、はい。王妃教育受けていますから。
リリア妃の母国ルルヴァル王国は物資が少ないが兵力が高い。
我がラマティア王国は物資は豊かだが三国との国境があり兵力はいくらあっても足りない状態。
だから物資と兵力を補充し合う間柄なのだが、ここ数年ルルヴァル王国は災害続きで物資の要求は増え、兵力も災害復興に割かれるので我が国への派遣を渋っている状態だ。
ルルヴァル王国との軋轢により我が国の兵力が落ちる隙を、隣国の三国は虎視眈々と狙っている。
そんな時に王がリリア妃の機嫌を損ねたら、
「酷いわ! ラマティア王がわたくしを蔑ろにするのよ~」
なんて報告がルルヴァル王国に行ってしまう訳だ。
あ、ヴァレリー王太子のご婚約者もルルヴァル王国の公女様よね。
うん、複雑。
ぱっかぱっか。アルベールを背もたれに、馬に揺られて私は考える。
宮殿に立てこもるリリア妃。
大公家お預かりのテオドリック様。
エルミナ様はテオドリック様を唆している様子だった。
エルミナ様の利害って何?
「交換条件があります」
私はガスパール隊長に提案した。
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