44 / 53
44 悪い計画
しおりを挟む
「はい、テオドリック終了~。次、ヴァレリーね」
ビクトリア様は私が感慨に耽らないようにサクサクと話を進めていく。
「ルイーズ令嬢。私との結婚の話だが、前向きに検討……」
「はい、終了~」
ヴァレリー王太子の話の趣旨が見えて来た所で、ビクトリア様の駄目出しだ。
「なんでだよビクトリア」
「結婚の話はここではしないで。ムードも何もないわ。ヴァレリーにとっては政治判断でしょうけど、女性にとってはそう割り切れることじゃないのよ。本気でエルミナが不憫になてきたわ」
はっきりビクトリア様にデリカシー問題を指摘されて、ヴァレリー王太子も二の句を告げられない。
ビクトリア様の気遣いが私にはありがたい。
「はい次! テオドリックどうぞ」
先程の話を途中で断ち切られてシュンとしていたテオドリックが、再び回って来た順番に勢いよく顔を上げた。
「厚かましいのは解ってる。けど、ルイーズにお願いがあります」
私のお向かいで正座したテオドリック様は、今日初めて私の目を、真っ直ぐに見つめて来た。
「なんでしょう?」
「お母様の事です。アイアンゲートで黙秘を続けています。ルイーズ、お母様と面会してくれないか?」
「なんでルイーズが面会しなきゃならないのよ!」
またしても怒ったのはビクトリア様だ。
「だって、俺は面会させてもらえないんだもん。それにルイーズ相手にお母様が黙秘を続けられるとは思わないし。黙秘しなければ何とかしてやれるのにって、叔父上も言っていたんだ」
テオドリック様はモジモジと言う。
都合の良い事を言っているのは解っているらしい。
だが、確かに大公様が言うのなら、なにか良い決着点があるのかもしれない。
「お前ね、釈放されただけでもありがたいのに余計な画策するなよ。大人しく謹慎しておけ。表面だけ見れば、リリア妃とバルリ家と一緒になって、ルルヴァルの血族で王家乗っ取りを計画していたって疑われても、おかしくない立場なのだからな」
ヴァレリー王太子はどこまでいっても王太子だ。
王室の負担になってしまったテオドリック様を牽制している。
「よく疑われませんでしたわね」
ビクトリア様が素朴な疑問を口にする。
「こいつ、調べれば調べるほどシロなんだ。五歳で王子宮に移ってからはリリア妃とは形式的な関りしか無かったしな。関りの強さで言ったらブルージュ公爵家の方が断然強い。それにルルヴァル王国に行ったことも無ければ、かの国の王家に連なる名前すら覚えていない馬鹿だ。どう考えても……バルリ候と王家乗っ取りを考えられるような知能はないという結論に達した。結果、一年間の宮廷内謹慎で収まったところなんだよ」
頭をカキカキしているテオドリック様をビクトリア様は呆れた顔で見ていた。
「どうする? ルイーズ」
心配そうなビクトリア様の声。
「面会に行ったとしても、リリア様は拒否なさるでしょう。私、嫌われてましたから」
にっこり笑ってテオドリック様に顔を向けると、大型犬はまたもシュンと耳を垂らした。
「はい、次ヴァレリー。くだらない話はなしよ」
二人の王子にあくまでも強気なビクトリア様が、話題を転じる。
「はい。私もリリア妃とバルリ候の尋問に、ルイーズ嬢が立ち会ってくれると非常に助かると」
「はい終了~。その話は終わったでしょう?」
ビクトリア様、お強い。
「あ、じゃあね、『ブルージュ公爵家の伝統の焼き菓子』、すっごく美味しかったよ」
ヴァレリー王子はにこにこと違う話題を出した。
「まぁ。ちゃんと近衛さんたちにもお分けしてくれました?」
「近衛にも大好評だったよ。彼らにはなかなか食べられない人気のお菓子なんだって? ブルージュ公爵家も手広いね」
「気に入って頂けたなら良かったです」
「ええ~。『ブルージュ公爵家の伝統の焼き菓子』食べたの? 羨ましい」
ビクトリア様とテオドリック様がお菓子の話で盛り上がる。
賑やかさの中、ヴァレリー王太子は俯き加減でぼそりと言う。
「また、お菓子が飛んで行ってくれたら、……」
私は目を凝らす。
「正直、手間取ってる」
ごく小さく言うと、ヴァレリー王太子は私の目をじっと見た。
私も逸らさず見つめ返す。
綺麗な青い目が試すように私を見ている。
風は池の向こうから流れて来る。
そこには貴族が収容される宮廷牢獄がある。
ヴァレリー王子はなぜここで、今日、私と会おうとしたのかしら?
「殿下、少し歩きましょうか」
私は敷かれたシートの横に山積みされているお菓子を一つ手にして、ヴァレリー王太子を誘った。
「そう来なくっちゃね」
王太子は美しい笑顔で答えたが、私はその裏の悪いお顔を見逃さなかった。
私はため息が出る。
皆で立ち上がって靴を履く。
「では行きましょうか」
ビクトリア様もテオドリック様も一緒にお散歩だ。
ビクトリア様は私が感慨に耽らないようにサクサクと話を進めていく。
「ルイーズ令嬢。私との結婚の話だが、前向きに検討……」
「はい、終了~」
ヴァレリー王太子の話の趣旨が見えて来た所で、ビクトリア様の駄目出しだ。
「なんでだよビクトリア」
「結婚の話はここではしないで。ムードも何もないわ。ヴァレリーにとっては政治判断でしょうけど、女性にとってはそう割り切れることじゃないのよ。本気でエルミナが不憫になてきたわ」
はっきりビクトリア様にデリカシー問題を指摘されて、ヴァレリー王太子も二の句を告げられない。
ビクトリア様の気遣いが私にはありがたい。
「はい次! テオドリックどうぞ」
先程の話を途中で断ち切られてシュンとしていたテオドリックが、再び回って来た順番に勢いよく顔を上げた。
「厚かましいのは解ってる。けど、ルイーズにお願いがあります」
私のお向かいで正座したテオドリック様は、今日初めて私の目を、真っ直ぐに見つめて来た。
「なんでしょう?」
「お母様の事です。アイアンゲートで黙秘を続けています。ルイーズ、お母様と面会してくれないか?」
「なんでルイーズが面会しなきゃならないのよ!」
またしても怒ったのはビクトリア様だ。
「だって、俺は面会させてもらえないんだもん。それにルイーズ相手にお母様が黙秘を続けられるとは思わないし。黙秘しなければ何とかしてやれるのにって、叔父上も言っていたんだ」
テオドリック様はモジモジと言う。
都合の良い事を言っているのは解っているらしい。
だが、確かに大公様が言うのなら、なにか良い決着点があるのかもしれない。
「お前ね、釈放されただけでもありがたいのに余計な画策するなよ。大人しく謹慎しておけ。表面だけ見れば、リリア妃とバルリ家と一緒になって、ルルヴァルの血族で王家乗っ取りを計画していたって疑われても、おかしくない立場なのだからな」
ヴァレリー王太子はどこまでいっても王太子だ。
王室の負担になってしまったテオドリック様を牽制している。
「よく疑われませんでしたわね」
ビクトリア様が素朴な疑問を口にする。
「こいつ、調べれば調べるほどシロなんだ。五歳で王子宮に移ってからはリリア妃とは形式的な関りしか無かったしな。関りの強さで言ったらブルージュ公爵家の方が断然強い。それにルルヴァル王国に行ったことも無ければ、かの国の王家に連なる名前すら覚えていない馬鹿だ。どう考えても……バルリ候と王家乗っ取りを考えられるような知能はないという結論に達した。結果、一年間の宮廷内謹慎で収まったところなんだよ」
頭をカキカキしているテオドリック様をビクトリア様は呆れた顔で見ていた。
「どうする? ルイーズ」
心配そうなビクトリア様の声。
「面会に行ったとしても、リリア様は拒否なさるでしょう。私、嫌われてましたから」
にっこり笑ってテオドリック様に顔を向けると、大型犬はまたもシュンと耳を垂らした。
「はい、次ヴァレリー。くだらない話はなしよ」
二人の王子にあくまでも強気なビクトリア様が、話題を転じる。
「はい。私もリリア妃とバルリ候の尋問に、ルイーズ嬢が立ち会ってくれると非常に助かると」
「はい終了~。その話は終わったでしょう?」
ビクトリア様、お強い。
「あ、じゃあね、『ブルージュ公爵家の伝統の焼き菓子』、すっごく美味しかったよ」
ヴァレリー王子はにこにこと違う話題を出した。
「まぁ。ちゃんと近衛さんたちにもお分けしてくれました?」
「近衛にも大好評だったよ。彼らにはなかなか食べられない人気のお菓子なんだって? ブルージュ公爵家も手広いね」
「気に入って頂けたなら良かったです」
「ええ~。『ブルージュ公爵家の伝統の焼き菓子』食べたの? 羨ましい」
ビクトリア様とテオドリック様がお菓子の話で盛り上がる。
賑やかさの中、ヴァレリー王太子は俯き加減でぼそりと言う。
「また、お菓子が飛んで行ってくれたら、……」
私は目を凝らす。
「正直、手間取ってる」
ごく小さく言うと、ヴァレリー王太子は私の目をじっと見た。
私も逸らさず見つめ返す。
綺麗な青い目が試すように私を見ている。
風は池の向こうから流れて来る。
そこには貴族が収容される宮廷牢獄がある。
ヴァレリー王子はなぜここで、今日、私と会おうとしたのかしら?
「殿下、少し歩きましょうか」
私は敷かれたシートの横に山積みされているお菓子を一つ手にして、ヴァレリー王太子を誘った。
「そう来なくっちゃね」
王太子は美しい笑顔で答えたが、私はその裏の悪いお顔を見逃さなかった。
私はため息が出る。
皆で立ち上がって靴を履く。
「では行きましょうか」
ビクトリア様もテオドリック様も一緒にお散歩だ。
10
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる