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他愛のない話をしていくうちに時間は過ぎ、柱時計が再び定時の鐘を鳴らす。
ユーダレウスの旅先の話に夢中になっていたマーサが、時計の針を確認しながら腰を上げる。
「そろそろ開店の時間だね。ミア、看板頼めるかい」
ミアは頷くと早足で店のドアに向かい「準備中」の看板を裏返す。すると、すぐにミアとすれ違うようにして薄毛の男が店に転がり込んで来た。
男は月の色の銀髪の魔術師の姿を見るやいなや喜色満面となり、自身の広めの額にぺたりと手のひらを当てた。
「怪しげな見てくれの男がマーサんとこに入ったきり出てこねえっつーから、まさかと思って来てみりゃあ……ユーダレウス!」
喜びを表すように両腕を拡げた男を見て、正確には、その頭部を見てユーダレウスは曖昧な顔をした。
「久しぶりだな。親父さんそっくりになったな。その、なんだ……頭が」
「うるっせえ! 久々に会って一発目に言うことがそれか!」
嬉しそうな笑顔のままに怒る男に、くく、と喉を鳴らしていると、挨拶もそこそこに、男は何か思い至ったように両手を叩いた。
「そうだ、ユーダレウス、今晩の宿はどうすんだ?」
この食堂の二階に泊まる旨を伝えると、男は表情を和らげた。ほっとしたように残り少ない髪をかき上げる。
「いやなあ、ウチの店の通りにある宿屋のじいちゃん、覚えてんだろ? 『ユーダレウス様が来てるのに部屋の空きがねえ』って気ぃ揉んでてなあ」
「げ、あのお節介じいさん、まだ生きてんのかよ」
「おう、ヨボヨボの癖にぴんぴんしてんだよなあ。お節介にも磨きがかかってるぜ!」
ぐっと親指を立てて、気持ちよく笑った男にげんなりとしながら、ユーダレウスはできる限りあの通りには近寄らないようにしようと心に決めた。
件の宿屋の老爺に掴まれば最後、日が暮れてもあれやこれやと世話を焼かれるのが目に見えていた。悪意や下心が混じるものならば厳しく突っぱねればそれで終わるのだが、老爺のお節介は完全な善意だ。それゆえに無下にもできず、毎度逃げるのに苦労する。
ましてや、今回は子連れだ。あの老爺は子供には心底甘い。それこそ砂糖より甘い。さらに時間が長引くことは間違いない。
陽が落ちていくにつれ、来訪の噂を聞きつけた客が次々に集まり、いつしか店は満席となっていた。集まったのは近所に住むマーサと同世代の者が一番多いようだ。
近所と言えど、夕食時に集まることもそうそうないようで、あちこちのテーブルからは、まるで祭りの日の宴のようにジョッキがガツンと突き合わせる音が聞こえていた。ユーダレウスのかけるテーブル付近に固まった婦人方など、本人そっちのけで料理をつついては世間話に興じている。ひょっとすると、集まるための口実にすぎないのかもしれない。
「ったく、年寄りばっかり集まりやがって」
店内に集まった面々を、いつもの顔でぐるりと見まわしたユーダレウスが、軽口をたたいてやれやれと首を振る。
「誰より一番年食ってるあんたが言うことじゃないだろう!」
マーサの言葉に集まった客達からは「違いない!」と喝采が起こった。
その賑わいを聞きながら、ユーダレウスは心なしか眉間の皺を薄くして、手にしたジョッキを満たす泡の立つ酒をぐいと飲み干した。
ユーダレウスの旅先の話に夢中になっていたマーサが、時計の針を確認しながら腰を上げる。
「そろそろ開店の時間だね。ミア、看板頼めるかい」
ミアは頷くと早足で店のドアに向かい「準備中」の看板を裏返す。すると、すぐにミアとすれ違うようにして薄毛の男が店に転がり込んで来た。
男は月の色の銀髪の魔術師の姿を見るやいなや喜色満面となり、自身の広めの額にぺたりと手のひらを当てた。
「怪しげな見てくれの男がマーサんとこに入ったきり出てこねえっつーから、まさかと思って来てみりゃあ……ユーダレウス!」
喜びを表すように両腕を拡げた男を見て、正確には、その頭部を見てユーダレウスは曖昧な顔をした。
「久しぶりだな。親父さんそっくりになったな。その、なんだ……頭が」
「うるっせえ! 久々に会って一発目に言うことがそれか!」
嬉しそうな笑顔のままに怒る男に、くく、と喉を鳴らしていると、挨拶もそこそこに、男は何か思い至ったように両手を叩いた。
「そうだ、ユーダレウス、今晩の宿はどうすんだ?」
この食堂の二階に泊まる旨を伝えると、男は表情を和らげた。ほっとしたように残り少ない髪をかき上げる。
「いやなあ、ウチの店の通りにある宿屋のじいちゃん、覚えてんだろ? 『ユーダレウス様が来てるのに部屋の空きがねえ』って気ぃ揉んでてなあ」
「げ、あのお節介じいさん、まだ生きてんのかよ」
「おう、ヨボヨボの癖にぴんぴんしてんだよなあ。お節介にも磨きがかかってるぜ!」
ぐっと親指を立てて、気持ちよく笑った男にげんなりとしながら、ユーダレウスはできる限りあの通りには近寄らないようにしようと心に決めた。
件の宿屋の老爺に掴まれば最後、日が暮れてもあれやこれやと世話を焼かれるのが目に見えていた。悪意や下心が混じるものならば厳しく突っぱねればそれで終わるのだが、老爺のお節介は完全な善意だ。それゆえに無下にもできず、毎度逃げるのに苦労する。
ましてや、今回は子連れだ。あの老爺は子供には心底甘い。それこそ砂糖より甘い。さらに時間が長引くことは間違いない。
陽が落ちていくにつれ、来訪の噂を聞きつけた客が次々に集まり、いつしか店は満席となっていた。集まったのは近所に住むマーサと同世代の者が一番多いようだ。
近所と言えど、夕食時に集まることもそうそうないようで、あちこちのテーブルからは、まるで祭りの日の宴のようにジョッキがガツンと突き合わせる音が聞こえていた。ユーダレウスのかけるテーブル付近に固まった婦人方など、本人そっちのけで料理をつついては世間話に興じている。ひょっとすると、集まるための口実にすぎないのかもしれない。
「ったく、年寄りばっかり集まりやがって」
店内に集まった面々を、いつもの顔でぐるりと見まわしたユーダレウスが、軽口をたたいてやれやれと首を振る。
「誰より一番年食ってるあんたが言うことじゃないだろう!」
マーサの言葉に集まった客達からは「違いない!」と喝采が起こった。
その賑わいを聞きながら、ユーダレウスは心なしか眉間の皺を薄くして、手にしたジョッキを満たす泡の立つ酒をぐいと飲み干した。
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