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しおりを挟む森を抜けると、すぐに街道が分岐しているのが見えた。
パーシーは街道の分岐点で馬車を停止させる。石畳の本道から外れる脇道は均された土の道で、かろうじて道の脇に守り石の杭が打たれているだけだった。道の先はまた森に向かっている。その奥には一際巨大な木が、他の木々の上に頭を出しているのが見えた。
馬車が完全に停止したのを確認し、ユーダレウスはサラ達に声をかけ、馬車を降りる。続けて、馬車の高さに尻込みしているティニを抱えて降ろしてやった。
乗せて貰った挨拶をするために馬車の脇に回ると、丁度、御者席から降りたパーシーと鉢合わせた。
パーシーは被っていた帽子を脱ぐと、ユーダレウスに深々と頭を下げる。白い包帯が髪の隙間から見え隠れしていた。
「……ユーダレウスさん、このご恩は一生忘れません」
ずれた眼鏡を直しながら、パーシーは顔を上げる。ユーダレウスは、またパーシーが金貨袋を出してくるのではないかと警戒するように目を細める。案の定、懐に手を入れようとしたパーシーの腕を掴んで止めた。
「……いつか、お前たちの住むところに行くこともあるだろう。その時まで、達者でな」
その時が来るかどうか、それはユーダレウスにもわからなかった。まったくその気がなかったのに、近くを通りかかっただけで気が向くときもあれば、訪れる気で近くまできたのに、直前でやめることもある。基本的にユーダレウスの旅路は気まぐれだ。
そうとは知らぬパーシーは、にこりと人懐こい笑みを浮かべた。
「では、その時はぜひ、我が家にいらしてください。精一杯おもてなしさせていただきます」
再会を確約しない代わりに、ユーダレウスはパーシーの肩をぽんと叩いた。
「じゃーな、ティニ」
馬車の後ろで、ヒューゴが馬車から勢いよく身を乗り出した。勢いあまって前のめりに落ちかけ、すんでのところでサラに中に引き戻される。
しかめっ面をするサラに軽い調子で謝ると、ヒューゴはまたティニの方へと身を乗り出した。さすがに今度は注意しているのか、勢いは控えめだ。
「街に来たら、絶対俺んち来いよ!」
「はい! その時はまたいっぱい遊びましょう」
馬車の上からヒューゴが手を伸ばし、年上ぶってティニの頭にぽんと乗せる。
まだ、出会ってたった一日だけのはずなのに、ずっと昔からの知っていた人との別れのような気がして、ティニは涙ぐむ。こぼれてしまわないように、慌てて上にあるヒューゴの顔を見ると、そこにあった友人の顔もこれまた泣き出しそうで、さらに視界が滲んだ。
「そうだ! いーこと思いついた!」
上ずった声でわざとらしく宣言をしたヒューゴは、後ろを振り返る。袖で乱暴に目元をこすると、木箱の中を覗いてガサゴソとやり始めた。
戻ってきたヒューゴは、何かを包んでいる両手をティニに差し出した。
「これ、やるよ」
何も疑うことなく、ティニはヒューゴの手の下で手のひらを広げる。
ぱっと開いた手のひらからは、色のついた石がいくつか転がり出てきた。その中には、宝物だと言っていた淡い緑色の石も含まれていた。
「わあ……!」
「これなら鞄に入れててもししょーに怒られねーだろ!」
感極まっている様子のティニに、ヒューゴは無邪気に笑いかける。
「トモダチのしるしだ」
驚くほど鮮やかな青い瞳がヒューゴを見た。瞳の中に、小さな銀の粒が散ったようにきらめく。それはまるで、天を流れる星の川のようだった。
それからあまり間をあけず、人形のように動きのない表情がゆるりと綻んでいく。
ティニの瞳がこの世のものとは思えないように見えて、言葉をなくしていたヒューゴだったが、その微笑を見て、すぐに嬉しさいっぱいの太陽のような笑みを浮かべた。
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