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軍形篇 第四

軍形篇1・勝てると判ってから戦うっす。

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 これ、オレの考えなンすけどね。

 昔の「センソーが上手かった先輩パイセン方」が、どうしてスルッと勝っちゃえたのかって話なんですけど。
 先輩パイセン方は、まず敵さんチームがこっちを攻撃しても絶対勝てないぐらいまで準備万端に整えて、敵さんチームがボロ出すのを待つ。
 待ち構えて、
「よっしゃ、今ここ突けば勝てる!」
 ってふうに、勝機チャンスを絶対見逃さないで、一気にズバッと突いちゃう。
 だから当たり前な感じで勝てちゃったんですよね。

 それでですネ――コレ重要なんで、しっかり覚えておいてくださいよ。
 こっちが
「敵は絶対ウチには勝てない」
 って確信出来るチーム状況にのは【自分達のお仕事】なんすけど、こっちが
「今だ、チャンスだ」
 って確信出来る戦況を作ってくれるのは【敵さんチームの】なんすよ。

 これ、どういうことかって言いますと。
 マジモンでセンソーが上手い人なら
「敵が絶対勝てないイーコル自分達は絶対
 ってな状況を自分達で作るコトはできちゃうんです。
 でも、どんな戦上手テクニシャンでも大天才でも
「自分達は絶対
 って状況をお膳立セッティングするのは無理。出来ないンす。
 戦争には必ず相手があるワケで、相手には必ず相手の都合ってモンがありますからね。

 そー言う訳ですから、たとえこのオレであっても、
「この調子なら、勝てちゃいますよ」
 っては言えちゃうけど、
「いつ勝つの?」
 って訊かれても、
「今でしょ」
 って断定的にお答えしたりはできません。
 そこまのでお約束はムリっす。勘弁してちょーだい、ですよ。

 ところで、「敵に負けない」っていうのは、守備力ディフェンスの堅さで決まるコトなんですけど、「敵に勝つ」ってのは攻撃力オフェンスの強さで決まるコトなんですよ。
 え? 当然だろう、ですって?
 いやいや、ツッコミは最後まで我慢して下さいよ。

 守備の上手いチームが守備デイフェンスに回ってる時って、チームに余裕が出来るもんなんですよ。
 何でかって言うと、こっちが守ってるときの戦線ってーのは「敵が攻めてくるライン」だけだからです。ぶっちゃけ、敵さんと対峙してる「前面」の、狭い範囲だけに集中しさえすれば良い訳ですよ。
 つまり、直接ドンパチやる兵力はあんま要らないってーことになります。
 そしたらほら、人員に余裕が出来るでしょう? その余った人員で、最前線で戦う以外のコトがやれちゃいますよ。

 ところがいざ攻撃オフェンスに出ると、その余裕はなくなっちゃうんですよねー。
 例えば陣地から出て攻めに行っちゃったとしましょうよ。
 自分チームの前は全部敵。
 隊列が横に広がっちゃったら広がった分だけ全部が「最前線」になる。
 伏兵なんかいたら、横とか、ヘタすると後ろも戦線になっちゃう。
 そうすると、守備なら充分の筈の兵力でも、全然足りなくなっちゃうんです。

 そうそう。昔の、守備ディフェンス上手だった先輩パイセン方は、敵軍相手チームの中の人が、
「地面の下まで兵が隠れてるんじゃね? 攻めるポイントがねーぞ、これ」
 って嘆くイラっとしちゃうぐらいガッチリ守ってたそーですよ。
 んで攻撃オフェンス上手な先輩パイセン方は、敵軍相手チームの中の人が、
「え? どっから来たの? てか、速過ぎね? もしかして飛んで来た?」
 って慌てパニくっちゃうぐらいの速さスピードで、敵の考えもつかないとこから攻めちゃったそーですよ。
 そうやって、自分とこの兵隊メンバーに被害が出ないようにしてたからこそ、完璧な勝利パーフェクト・ビクトリーってヤツをゲットできた、ってな訳です。

 あ、それから、将軍リーダーは当然として、軍隊周りでお仕事してる皆さんは、センソー玄人プロな訳ですよね?
 そんな玄人プロの皆さんですから、素人アマである民間人パンピーが、
「アレをソウして、コウしたら勝つ」
 なんて「お茶の間でごひいき球団の監督ぶった事を訳知り顔で語っちゃう」的な、誰でも思い付くような作戦なんかで勝っちゃったんじゃ、ベスト・オブ・ベストな勝ち方って言えないっすよね。

 それと、みんなが、
「イヤすげー格好カッコいい勝ち方だったよねー」
 って超絶褒めてくれちゃったりするような勝ち方も、もしかしたらベストなやり方じゃなかったのかも知ンないですよ。

 だってそーでしょ?

 例えば、
「髪の毛をちょっとつまんで、高々と持ち上げられます」
 っていう腕力の人を【力持ち】っていいます?

 晴れた空を見上げて、
「太陽が見える、月が見える」
 っていう人は【き】ですかね?

 それから、耳穴に指突っ込んじゃいたくなるような大音量のゴロゴロドシャーンを、
「今、雷が鳴ったのが聞こえたよ」
 という人を【みみさとい】っていっちゃいます?

 いわないでしょ?
 だってそれ、【常人フツーのヒト】ですもん。

 すごい人、っていうのは、常人フツーのヒトにはどれくらい凄いことなのかさえ判らないくらい凄いことをやる人のことっすよ。

 例えば、常人フツーのヒトが普通の暮らしの中で思いついちゃったのと同程度レベルの作戦で戦争センソーをしたら、どうなっちゃうとおもいます?

 もし、敵さんチームの将軍リーダーさんもまた常人フツーのヒトだったとしたら、だいたい同じようなこと思い付いちゃいますよね。で、それがどーんとぶつかっちゃう。
 こういう場合は、どっちも普通の人で、両方普通の作戦なんだから、結果、好くて引き分けで終了ですわ。

 それじゃあ、もしも、こっちチームに常人フツーのヒトしかいなくて、向こうチームには達人フツウじゃないヒトがいたら、どーなりますかねぇ……。

 こっちは普通の作戦で攻めるけど、向こう様は普通の人には常人フツーのヒトできないような作戦で攻め返してくる。
 ヒュー。考えただけで震えが来ちゃいますよ。あー、コワイコワイ。

 そういうことですから、常人フツーのヒトが思い付いちゃうようなコトしか思い付けないんじゃダメなんですよ。
 っていうか、常人フツーのヒトが凄いなと思う程度の凄さじゃ、まだ全然足りない位なんですよ。
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