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夏休みの間
52.怒るより、泣くより、笑ったほうが良い。
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それでも龍にはまだすこし難しく聞こえた。
それに「トラ」の説明には、何か重要なことが抜けているんじゃないか、という気もした。
ところが龍神の龍が寅姫の「トラ」に声を掛けようと思ったより早く、「トラ」は次の話を始めていた。
「そこで、お前様にお願いがあります。この池のほとりの鬼門の方角に、お社を造って下さいませんか?」
「その……そんなにご立派なお体の龍神様がお住みになる社でござんすか?」
男の人龍を見た。目玉はものすごく高いところから池の水面まで、とても長い距離をなぞって動いている。
「そりゃぁとんでもなく大きくて立派なお宮を建てねばなんねぇでございますな」
かなり不安そうな声で男の人は訊ねた。
寅姫の「トラ」は微笑して首を横に振った。
「心配ありません。
龍というモノは、川よりも長い身体をわらしべよりも小さくすることができます。
ですからお社はとても小さな物でよいのです。小さくても、屋根があって、壁があって、出入り口があればよろしい。
そう、庄屋殿の家の立派な仏壇よりも二回りほど小さい物を建ててくださいな」
寅姫の「とら」が言うと、男の人はまだちょっとだけ不安の混じっている安心顔をした。そうして、地面に膝と両手を突いて、おでこも地面に突くぐらいに深々と頭を下げると、
「では早速、村の大工に頼んで、立派で小さいお社を作ってもらいます」
と言って、すぐ跳ね起きて、もう一度、こんどは立ったまま頭を深々と下げてから、どこかへ駆けて行った。
男の人の背中が見えなくなった頃、寅姫の「トラ」の身体はゆっくりと空中から下り始めた。
龍神の龍は慌てて後を追いかけようとした。でも、どうやったら空中をすすめるのか判らなくて、とりあえずプールでクロールするみたいに手足をバタバタと動かしてみた。
龍が動かそうと考えた通りに龍神の身体が動いたのかどうか判らないけれども、龍人の龍の身体もゆっくりと池の端の地面に向かって下りてゆく。
先に地面に付いた寅姫は、後から来る龍の顔を見上げて、にっこりと笑った。それはとても可愛らしくて、とても綺麗な笑顔だった。
釣られて龍も笑いそうになった、のだけれども、
「笑ろうてなど、おられぬ」
遠くから聞こえる雷みたいな声が自分の口から出て、その不機嫌さに自分自身が驚いた拍子に、笑おうとする気持ちが引っ込んでしまった。
「怒るより、泣くより、笑ろうたほうが良いではありませんか」
寅姫は笑顔を益々大きくして言う。
「うむ。怒るより、泣くより、笑ろうたほうが良い」
龍は――龍神は相変わらずの不機嫌声で答えて、寅姫の隣にトンと立った。
途端、大きくて長い蜥蜴みたいだった龍神の身体が、大人の男の人ぐらいにシュっと縮んだ。
それに「トラ」の説明には、何か重要なことが抜けているんじゃないか、という気もした。
ところが龍神の龍が寅姫の「トラ」に声を掛けようと思ったより早く、「トラ」は次の話を始めていた。
「そこで、お前様にお願いがあります。この池のほとりの鬼門の方角に、お社を造って下さいませんか?」
「その……そんなにご立派なお体の龍神様がお住みになる社でござんすか?」
男の人龍を見た。目玉はものすごく高いところから池の水面まで、とても長い距離をなぞって動いている。
「そりゃぁとんでもなく大きくて立派なお宮を建てねばなんねぇでございますな」
かなり不安そうな声で男の人は訊ねた。
寅姫の「トラ」は微笑して首を横に振った。
「心配ありません。
龍というモノは、川よりも長い身体をわらしべよりも小さくすることができます。
ですからお社はとても小さな物でよいのです。小さくても、屋根があって、壁があって、出入り口があればよろしい。
そう、庄屋殿の家の立派な仏壇よりも二回りほど小さい物を建ててくださいな」
寅姫の「とら」が言うと、男の人はまだちょっとだけ不安の混じっている安心顔をした。そうして、地面に膝と両手を突いて、おでこも地面に突くぐらいに深々と頭を下げると、
「では早速、村の大工に頼んで、立派で小さいお社を作ってもらいます」
と言って、すぐ跳ね起きて、もう一度、こんどは立ったまま頭を深々と下げてから、どこかへ駆けて行った。
男の人の背中が見えなくなった頃、寅姫の「トラ」の身体はゆっくりと空中から下り始めた。
龍神の龍は慌てて後を追いかけようとした。でも、どうやったら空中をすすめるのか判らなくて、とりあえずプールでクロールするみたいに手足をバタバタと動かしてみた。
龍が動かそうと考えた通りに龍神の身体が動いたのかどうか判らないけれども、龍人の龍の身体もゆっくりと池の端の地面に向かって下りてゆく。
先に地面に付いた寅姫は、後から来る龍の顔を見上げて、にっこりと笑った。それはとても可愛らしくて、とても綺麗な笑顔だった。
釣られて龍も笑いそうになった、のだけれども、
「笑ろうてなど、おられぬ」
遠くから聞こえる雷みたいな声が自分の口から出て、その不機嫌さに自分自身が驚いた拍子に、笑おうとする気持ちが引っ込んでしまった。
「怒るより、泣くより、笑ろうたほうが良いではありませんか」
寅姫は笑顔を益々大きくして言う。
「うむ。怒るより、泣くより、笑ろうたほうが良い」
龍は――龍神は相変わらずの不機嫌声で答えて、寅姫の隣にトンと立った。
途端、大きくて長い蜥蜴みたいだった龍神の身体が、大人の男の人ぐらいにシュっと縮んだ。
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