フツウな日々―ぼくとあいつの夏休み―

神光寺かをり

文字の大きさ
52 / 78
夏休みの間

52.怒るより、泣くより、笑ったほうが良い。

しおりを挟む
 それでも龍にはまだすこし難しく聞こえた。
 それに「トラ」の説明には、何か重要なことが抜けているんじゃないか、という気もした。
 ところが龍神の龍が寅姫の「トラ」に声を掛けようと思ったより早く、「トラ」は次の話を始めていた。

「そこで、お前様にお願いがあります。この池のほとりの鬼門きもんの方角に、おやしろを造って下さいませんか?」

「その……そんなにご立派なお体の龍神様がお住みになる社でござんすか?」

 男の人龍を見た。目玉はものすごく高いところから池の水面まで、とても長い距離をなぞって動いている。

「そりゃぁとんでもなく大きくて立派なお宮を建てねばなんねぇでございますな」

 かなり不安そうな声で男の人は訊ねた。
 寅姫の「トラ」は微笑して首を横に振った。

「心配ありません。
 龍というモノは、川よりも長い身体をよりも小さくすることができます。
 ですからお社はとても小さな物でよいのです。小さくても、屋根があって、壁があって、出入り口があればよろしい。
 そう、庄屋しょうや殿の家の立派な仏壇ぶつだんよりも二回りほど小さい物を建ててくださいな」


 寅姫の「とら」が言うと、男の人はまだちょっとだけ不安の混じっている安心顔をした。そうして、地面に膝と両手を突いて、おでこも地面に突くぐらいに深々と頭を下げると、

「では早速、村の大工でぇくに頼んで、立派で小さちんまいおやしろを作ってもらいます」

 と言って、すぐはねね起きて、もう一度、こんどは立ったまま頭を深々と下げてから、どこかへ駆けて行った。

 男の人の背中が見えなくなった頃、寅姫の「トラ」の身体はゆっくりと空中から下り始めた。
 龍神の龍は慌てて後を追いかけようとした。でも、どうやったら空中をすすめるのか判らなくて、とりあえずプールでクロールするみたいに手足をバタバタと動かしてみた。
 龍が動かそうと考えた通りに龍神の身体が動いたのかどうか判らないけれども、龍人の龍の身体もゆっくりと池の端の地面に向かって下りてゆく。

 先に地面に付いた寅姫は、後から来る龍の顔を見上げて、にっこりと笑った。それはとても可愛らしくて、とても綺麗な笑顔だった。
 釣られて龍も笑いそうになった、のだけれども、

「笑ろうてなど、おられぬ」

 遠くから聞こえる雷みたいな声が自分の口から出て、その不機嫌さに自分自身が驚いた拍子に、笑おうとする気持ちが引っ込んでしまった。

「怒るより、泣くより、笑ろうたほうが良いではありませんか」

 寅姫は笑顔を益々大きくして言う。

「うむ。怒るより、泣くより、笑ろうたほうが良い」

 龍は――龍神は相変わらずの不機嫌声で答えて、寅姫の隣にトンと立った。
 途端、大きくて長い蜥蜴カガミッチョみたいだった龍神の身体が、大人の男の人ぐらいにシュっと縮んだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...