竜頭――柔太郎と清次郎――

神光寺かをり

文字の大きさ
53 / 63
清次郎と鷹女

大凡七万円強

しおりを挟む
 赤松弘はチラリと娘の鷹女の顔色を見た。
 複雑な顔をしている。きんきんぜんとしているのか、感動しているのか、なにがしかの困惑があるのか、ともかく何か言いたそうではある。
 ただ、赤松家は小禄とはいえ武家なのだ。家長である弘の許可なくして、むすめに発言権――特に「自発的」なもの――はない。全員が家父長制度に縛られている。

「おう鷹、ってみるじゃねぇか」

 父親に促されるまで鷹女は堪えていた。堪えていた分、口調が強い。

「清次郎殿はどうして、どのようにしてこの品を手に入れられたのでしょうか?」

 一瞬、鷹女の意図を察しかねた清次郎だったが、

「どうして、とは……」

 問い返しの言葉を中絶して考えを巡らした。

『鷹女殿とは今日初めて会ったのだから、妙に裏を読もうとしたり腹を探ったりせずに、言葉通りの意味だと思うて答えた方が良いのではなかろうか』

 下手に穿うがってみて、話がこじれても困る。

「あなたに贈るために良い品だと考えた、それだけのことです。あなたは剣術を大変に好まれると聞いていましたので。
 そしてどのようにしてかというと、丁度その時にその場にいたからですよ」

 事実をそのままに述べた。鷹女はまだ納得が行かないらしい。

「その時その場、とは、彼の浪人者が刀を買い叩かれた折りに、その買い叩いた刀剣かたなの店にいたということにございますか?」

『ははぁ、どうやらはあの浪人者に同情してござるな』

 それぐらいは裏から透かして見るまでもなく、清次郎にも察せられる。
 俸禄がもらえるだけ浪人よりは幾らかマシな貧乏侍の家に生まれ育った身だ。家財や着物をしちぐさにしたり売り払ったりするくちしさも情けなさも悲しみも、それこそ身にみて解る。
 鷹女だけではない。清次郎にも、だ。

「ええ、おれはその場に居合わせた。
 実はその日その時、鷹女殿への土産物を刀剣かたなに探しに行っていたのです。そこに件の浪人者が来ていていて、刀を買い叩かれていた。
 そのお陰でというかそのでというか、あなた宛ての土産物は、最初におれが考えていた刀のつばから、その刀に変更になった次第で……」

 清次郎の言葉の端に被せるようにして鷹女が訊く。

「おいくらで、お求めになったのです?」

 語気の強い、短い言葉の陰に、薄らとした怒りのような感情が見え隠れする。
 鷹女は何に対して怒っているのか。
 彼女の心の深い所まで探る気を起こしていない清次郎の答えは簡潔だった。

「銀一枚」

 それは刀剣かたなが浪人者に払った金額そのままの金高だ。
 鷹女は目を見開いた。彼女が何かを言い出す前に、清次郎は言葉を続ける。

刀剣かたなとしても、この刀で利益もうけを出すことには気後れがしたんでしょうよ。
 たしかにてつとしては偽物であっても良剣ではあるし、きよ麿まろの本物の可能性だって高い。
 その清麿だって安い刀じゃない。少なくとも銀一枚では済まない。こうかずちを注文するにも、一口が金三両はする。銀に両替くずしたとして百八十もんめになる。
 それでも値踏みは商売人としてきょうを持ってしたことだ。同時にあの浪人殿に対してはれんびんのようなものを覚えたのでしょうな」

「それでは刀剣かたな殿は益を得ていないことになります」

 鷹女の声から怒りの色が消えていた。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

物置小屋

黒蝶
大衆娯楽
言葉にはきっと色んな力があるのだと証明したい。 けれど、もうやりたかった仕事を目指せない…。 そもそも、もう自分じゃただ読みあげることすら叶わない。 どうせ眠ってしまうなら、誰かに使ってもらおう。 ──ここは、そんな作者が希望や絶望をこめた台詞や台本の物置小屋。 1人向けから演劇向けまで、色々な種類のものを書いていきます。 時々、書くかどうか迷っている物語もあげるかもしれません。 使いたいものがあれば声をかけてください。 リクエスト、常時受け付けます。 お断りさせていただく場合もありますが、できるだけやってみますので読みたい話を教えていただけると嬉しいです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

改大和型戦艦一番艦「若狭」抜錨す

みにみ
歴史・時代
史実の第二次世界大戦が起きず、各国は技術力を誇示するための 「第二次海軍休日」崩壊後の無制限建艦競争に突入した 航空機技術も発達したが、それ以上に電子射撃装置が劇的に進化。 航空攻撃を無力化する防御陣形が確立されたことで、海戦の決定打は再び「巨大な砲」へと回帰した。 そんな中⑤計画で建造された改大和型戦艦「若狭」 彼女が歩む太平洋の航跡は

処理中です...