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序章
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「ドキュメンタリー小説」
稀有な出生、特異な家庭環境、戦後間もない時代を生き、人生半ばから
再び波乱の人生へと落ちながら、天性の気の強さと、つちかわれた正義感で
周囲の人々に慕われ、力強くよく生きる一人の女性のドキュメント小説。
「母として、妻として、祖母として、人間として。」創刊号
「生い立ち}
1944年2月、和歌山県北部の山村で彼女は生まれた。
彼女が生まれる半年前、太平洋戦争末期に、父親長一は出征した。
海軍の輸送船団に乗り組んだのだ。
そして、1944年12月敵陣へ向かう途中、輸送船は攻撃を受け、沈没した。
こずえの、まだ見ぬ父は帰らぬ人となった。
父親長一の戦死は、翌年1月公報に発表され、母ゆきのは、こずえを背負い、
大阪まで、夫の遺骨を引き取りに行った。
戦争が終わり、近所の父親達が復員してくる中、
自分の父親ももうすぐ帰ってくるだろうと、子供心に
待っている彼女の元に、帰って来たのは、新しい父親であった。
もちろんその当時は、自分の本当の父親が帰ってきたと思っていた。
新しい父親は、そのとき、2歳になる前妻との間に出来た長女がいた。
その後、新しい父親と母の間に一男二女が生まれ、
父母違いで5人兄弟姉妹という、複雑な家庭ができあがった。
こずえはその中で、一番年上ということになる。。
戦後の混乱期はこういう形は珍しくなく、世間も特に
違った目で見ることもなく、もともと、地元では名の通った
旧家であったので、こずえは、なに不自由なく、育った。
実の祖母たねは、母以上にこずえを大切にしてくれた
こずえは、祖母たねの優しさを何度も繰り返し話すのが自慢だった。。
幼い頃から学生時代、それから、こずえが結婚してから
たねが亡くなる1985年まで、母以上にこずえを愛したたねの
思い出話をくりかえし、くりかえし。
こずえの父親は、元憲兵で、終戦時満州にいて戦犯として
ソ連軍に捕まったが、すきを見て逃げた。
民家の屋根裏生活をしながら身を隠し
九死に一生をえて、日本に帰ってきたのだった。
父良太郎は、こずえをわが子以上に愛し、我が子以上に
厳しく育てた。それが将来、こずえをまれに見る正義感と
度胸を持ち合わせた人間にする原動力になった。
こずえにとっては、父の厳しさは、本当の父ではないからと
思う時代もあったが、年を追うごとに父良太郎の偉大な人格を
知り、血のつながりのない自分を育ててくれた父に感謝するようになった。
「サラ金の取立て」
「あんたら何や、土足であがりこんで、警察呼んだろか!」
こずえはサラ金のチンピラに食ってかかる。
夫浩二の実の父親が借りた借金の、取立てに来たチンピラに
怒ったこずえは、夫を守るために猛然と立ち向かった。
当時(昭和50年代半ば)日本国中で第一期「サラ金地獄が
荒れ狂っていた。夫浩二の父親もその渦中にいた。
そのとき、こずえは
浩二との間に出来た子供をお腹にかかえていた。
アパートの2階の続きの部屋を、夫の両親のために借りていたため
サラ金地獄に至っている夫の両親を、
知らんふりはできなかった。
浩二はその頃自宅近くのらが焼肉屋で働いていたが、
食ってかかるこずえに業を煮やしたチンピラが、
浩二の職場を母親から聞きだし、電話をかけてきたのだ。
「ごちゃごちゃ言うてるんはお前の嫁か、今日のところは
黙って帰るが、金はちゃんと払ってもらうで!」
チンピラがわめく向こうから、こずえの大声が聞こえる。
あまりのこずえの剣幕に、チンピラもあきらめたらしく、
捨て台詞を吐いて帰っていった。
浩二は妻こずえの思いもよらぬ強さに驚き、そのとき以来
痛快で、心強いこずえが、浩二の人生の
大きな支えとなっていったのである。
「 こずえと浩二の出会い」
こずえは19歳で結婚し、二人の女の子の母となったが、
もともと、いなかの見合い結婚だったこともあり、
いわゆる、性格の不一致で、夫婦仲はうまくいっていなかった。」
こずえは、二人娘の姉が小学6年、妹が4年になり、
手がかからなくなったのと、もともと働き好きの性格から
当時成長著しかった某持ち帰り寿司のチェーン店に働きに出た。
そこで、本社のスタッフとして、店の応援に来ていた
浩二と出会った。浩二はそのころ、世の中に対して、
不満と怒りいっぱいの生活だった。
そんな浩二の殺伐とした心を、全く異なる自信に満ちた
人生を生きてきたこずえが癒したのだ。浩二は、こずえと
出会い、初めて、「家庭」の暖かさに触れた。
浩二がそれまでねたんでやまなかった中流階級の「家庭」に
初めて触れた。
家庭の暖かさに飢えていた浩二と、
夫の暴力と冷たさに愛想つかせていたこずえの仲は急速に深まり、
お互いがその関係にのめりこんでいった。
父親がサラ金地獄で、毎日毎日サラ金の取立てに
追われ、浩二は心休まる日が無かった。サラ金は執拗で
本人が弁済不能とわかると、法律上義務の無い
身内に借金の肩代わりを強制してきた。
義務がないといっても、血のつながりは争えず
結局は、うまく丸めこまれて、肩代わりを約束させられる
パターンが多い。
浩二も例外ではなかったが、そんな浩二に、不条理なサラ金
と真っ向から闘う強さを与えたのが、こずえだった。
「義父の自己破産」
夫、浩二の父親は、浩二が高校生の頃、当時努めていた鉄鋼大手を退職し
自宅で小さな食品店を営む傍ら、好きな商売に励んだ。
毎朝、市場に出かけ、新鮮な魚を仕入れ自宅近くを売りに廻るのだ。
当時、浩二の父親も、母親も「新興宗教」に入信していて、
幹部であった父親は、それを当てにした商売を始めたのだ。
しかし、宗教では繋がっていても、いざ、商売が絡むと
そう簡単にいかない。
最初は、愛想で買ってくれていた人も、そうそう付き合いで
金を浪費できない。ごく当たり前の感情により
浩二の父親の商売は見る見る下火になっていった。
裏切られたと勝手に思い込んだ浩二の父は、やけになり、
前後の見境をなくし、ギャンブルにのめりこんでいった。
「あいつ等が悪いんや。あれだけ、世話して色々教えてやったのに
裏切られた。」浩二の父の口癖だった。
恩をあざで返しやがって!本人が思っているほど
相手は感謝していないのが世の常だ。
母親は、学もなく考えることもできず、ただ、日に日に
やけになっていく夫を、不安そうにに眺めているだけだった。
何の為に生まれてきたのか?浩二は今でも自分の母親の人生を
そう思わずにいられないのである。
つづく・・。
稀有な出生、特異な家庭環境、戦後間もない時代を生き、人生半ばから
再び波乱の人生へと落ちながら、天性の気の強さと、つちかわれた正義感で
周囲の人々に慕われ、力強くよく生きる一人の女性のドキュメント小説。
「母として、妻として、祖母として、人間として。」創刊号
「生い立ち}
1944年2月、和歌山県北部の山村で彼女は生まれた。
彼女が生まれる半年前、太平洋戦争末期に、父親長一は出征した。
海軍の輸送船団に乗り組んだのだ。
そして、1944年12月敵陣へ向かう途中、輸送船は攻撃を受け、沈没した。
こずえの、まだ見ぬ父は帰らぬ人となった。
父親長一の戦死は、翌年1月公報に発表され、母ゆきのは、こずえを背負い、
大阪まで、夫の遺骨を引き取りに行った。
戦争が終わり、近所の父親達が復員してくる中、
自分の父親ももうすぐ帰ってくるだろうと、子供心に
待っている彼女の元に、帰って来たのは、新しい父親であった。
もちろんその当時は、自分の本当の父親が帰ってきたと思っていた。
新しい父親は、そのとき、2歳になる前妻との間に出来た長女がいた。
その後、新しい父親と母の間に一男二女が生まれ、
父母違いで5人兄弟姉妹という、複雑な家庭ができあがった。
こずえはその中で、一番年上ということになる。。
戦後の混乱期はこういう形は珍しくなく、世間も特に
違った目で見ることもなく、もともと、地元では名の通った
旧家であったので、こずえは、なに不自由なく、育った。
実の祖母たねは、母以上にこずえを大切にしてくれた
こずえは、祖母たねの優しさを何度も繰り返し話すのが自慢だった。。
幼い頃から学生時代、それから、こずえが結婚してから
たねが亡くなる1985年まで、母以上にこずえを愛したたねの
思い出話をくりかえし、くりかえし。
こずえの父親は、元憲兵で、終戦時満州にいて戦犯として
ソ連軍に捕まったが、すきを見て逃げた。
民家の屋根裏生活をしながら身を隠し
九死に一生をえて、日本に帰ってきたのだった。
父良太郎は、こずえをわが子以上に愛し、我が子以上に
厳しく育てた。それが将来、こずえをまれに見る正義感と
度胸を持ち合わせた人間にする原動力になった。
こずえにとっては、父の厳しさは、本当の父ではないからと
思う時代もあったが、年を追うごとに父良太郎の偉大な人格を
知り、血のつながりのない自分を育ててくれた父に感謝するようになった。
「サラ金の取立て」
「あんたら何や、土足であがりこんで、警察呼んだろか!」
こずえはサラ金のチンピラに食ってかかる。
夫浩二の実の父親が借りた借金の、取立てに来たチンピラに
怒ったこずえは、夫を守るために猛然と立ち向かった。
当時(昭和50年代半ば)日本国中で第一期「サラ金地獄が
荒れ狂っていた。夫浩二の父親もその渦中にいた。
そのとき、こずえは
浩二との間に出来た子供をお腹にかかえていた。
アパートの2階の続きの部屋を、夫の両親のために借りていたため
サラ金地獄に至っている夫の両親を、
知らんふりはできなかった。
浩二はその頃自宅近くのらが焼肉屋で働いていたが、
食ってかかるこずえに業を煮やしたチンピラが、
浩二の職場を母親から聞きだし、電話をかけてきたのだ。
「ごちゃごちゃ言うてるんはお前の嫁か、今日のところは
黙って帰るが、金はちゃんと払ってもらうで!」
チンピラがわめく向こうから、こずえの大声が聞こえる。
あまりのこずえの剣幕に、チンピラもあきらめたらしく、
捨て台詞を吐いて帰っていった。
浩二は妻こずえの思いもよらぬ強さに驚き、そのとき以来
痛快で、心強いこずえが、浩二の人生の
大きな支えとなっていったのである。
「 こずえと浩二の出会い」
こずえは19歳で結婚し、二人の女の子の母となったが、
もともと、いなかの見合い結婚だったこともあり、
いわゆる、性格の不一致で、夫婦仲はうまくいっていなかった。」
こずえは、二人娘の姉が小学6年、妹が4年になり、
手がかからなくなったのと、もともと働き好きの性格から
当時成長著しかった某持ち帰り寿司のチェーン店に働きに出た。
そこで、本社のスタッフとして、店の応援に来ていた
浩二と出会った。浩二はそのころ、世の中に対して、
不満と怒りいっぱいの生活だった。
そんな浩二の殺伐とした心を、全く異なる自信に満ちた
人生を生きてきたこずえが癒したのだ。浩二は、こずえと
出会い、初めて、「家庭」の暖かさに触れた。
浩二がそれまでねたんでやまなかった中流階級の「家庭」に
初めて触れた。
家庭の暖かさに飢えていた浩二と、
夫の暴力と冷たさに愛想つかせていたこずえの仲は急速に深まり、
お互いがその関係にのめりこんでいった。
父親がサラ金地獄で、毎日毎日サラ金の取立てに
追われ、浩二は心休まる日が無かった。サラ金は執拗で
本人が弁済不能とわかると、法律上義務の無い
身内に借金の肩代わりを強制してきた。
義務がないといっても、血のつながりは争えず
結局は、うまく丸めこまれて、肩代わりを約束させられる
パターンが多い。
浩二も例外ではなかったが、そんな浩二に、不条理なサラ金
と真っ向から闘う強さを与えたのが、こずえだった。
「義父の自己破産」
夫、浩二の父親は、浩二が高校生の頃、当時努めていた鉄鋼大手を退職し
自宅で小さな食品店を営む傍ら、好きな商売に励んだ。
毎朝、市場に出かけ、新鮮な魚を仕入れ自宅近くを売りに廻るのだ。
当時、浩二の父親も、母親も「新興宗教」に入信していて、
幹部であった父親は、それを当てにした商売を始めたのだ。
しかし、宗教では繋がっていても、いざ、商売が絡むと
そう簡単にいかない。
最初は、愛想で買ってくれていた人も、そうそう付き合いで
金を浪費できない。ごく当たり前の感情により
浩二の父親の商売は見る見る下火になっていった。
裏切られたと勝手に思い込んだ浩二の父は、やけになり、
前後の見境をなくし、ギャンブルにのめりこんでいった。
「あいつ等が悪いんや。あれだけ、世話して色々教えてやったのに
裏切られた。」浩二の父の口癖だった。
恩をあざで返しやがって!本人が思っているほど
相手は感謝していないのが世の常だ。
母親は、学もなく考えることもできず、ただ、日に日に
やけになっていく夫を、不安そうにに眺めているだけだった。
何の為に生まれてきたのか?浩二は今でも自分の母親の人生を
そう思わずにいられないのである。
つづく・・。
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