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2章

13.英雄Ⅱ

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 命令を受け、ルティアという街へ向かう。
 馬車で半月くらいだろうか、長い旅になる。
 俺ははしゃぐ彼女と会話をしながら外を眺める。彼女は花畑にある三日月湖を相当楽しみにしているようだ。

 「気を付けてくださいね、ここら辺に最近魔物が出るって噂があるので」
 そうだ。俺のところにも話は来ているが、最近この辺りに魔物の目撃情報が多々あり、ここを通行する馬車には護衛が同行することが推奨されている。
 今回は俺が護衛ということになっている。
 勇者ほどの力があれば護衛を付ける必要はない。これが上の判断だ。
 あたりは森があり、広大な平地が広がっている。
 周囲には魔物等の気配はない。
 
 「お前」
 「お前じゃない!***だよ!」
 彼女は頬を膨らましながら自分の名前を口にする。
 「すまない***」
 「なにかな」
 自分の名前を呼ばれてうれしいのか食い気味に反応する。
 「そんなにはしゃいで疲れないのか?」
 「全然大丈夫だよ!ところでルティアまでどれくらいかかるの?」
 「詳しい日数はわからないがあと10日ほどだ」
 「え~そんなにかかるの!?」
 「仕方ないだろ、ルティアはこの国の東の端の方にある街なんだから」
 「そっかぁ、でも楽しみだなぁ」
 「出発した日からずっと言ってるじゃないか」
 「だって楽しみなんだもん!セレーネ様は楽しみじゃないの?」
 「まあ、楽しみではあるが、それ以前にやることがあるからな」
 「そっかぁ、お仕事のために行くんだしね、でも用事が終わったら私と湖に行くんだよね?」
 「もちろんだ」
 「約束だよ?」
 「ああ」

 そんな会話をしていると御者が大声を上げた。
 「勇者様!魔物です!こちらに向かっています!」
 「わかった!すぐ出るから安全なところに向かってくれ!」
 「わかりました!」
 「セレーネ様!頑張ってね!」
 「あぁ!」

 俺は目の前にいる魔物、とても大きな影の魔物に刃を向ける。
 影の魔物とは魔王軍が喜んで用いる魔物だ。
 その力は強大で、さらに厄介な力を持っている。

 しかし、俺には魔法がある。
 奴は聖魔法が弱点だ。だからかつて、エリィ・ボーハールツが打ったこの最高の剣に付与して戦うか。
 「エリィ、共に戦おう」
 「我・光ヲ求ム・汝ノ光ヨ・彼ノ闇ヲ打チ消ス力トナレ・聖付与セイント・エンチャント
 よく鍛えられた剣は眩く光りだし、影の者を切りつけると一瞬で消え去った。
 俺は馬車の向かった方向に歩みを進める。
 後方に視線を感じたので振り向くとその視線は消え去った。

 馬車につくと***は心配そうにこちらを見ていた。
 「セレーネ様大丈夫ですか!?」
 「あぁ、大丈夫だ。心配かけたな」
 「まぁ、無事ならいいのです!」
 「何様だ」
 「えへへ」
 そう彼女は微笑む。
 そうしてまたルティアへの旅に戻った。
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