わたしを救った私の英雄

よつ丸トナカイ

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9 光り輝く、とどかぬ星

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一年の中で僕は、クリスマスから正月までの時間が好きだ。
街中が派手で賑やかだったクリスマス。翌日になると世の中が一瞬に静かになる。昨日までの賑やかさが嘘のように街中静まり返る。「祭りの後」その言葉がぴったりの時期だ。

そして、正月までの時間は正月という賑やかなイベントの為に準備期間。特に仕事も年末は重要な事は終わっているので挨拶周りや身の回りの整理など忙しさから解放されのんびりできる。その後、仕事も本格的に正月休みに入り自由に出来る時間が増えるのだけど、なぜだか忙しい。特に何かをしているというわけでないのだが。世の中も正月に向けた準備を静かに行っている。「嵐の前の静けさ」という時だ。

僕の大晦日は年越しそばを食べながら、しんみりとした時間を一人で過ごす。
一人暮らしだとおせち料理は食べないので、年越しそばが唯一、年越しを感じさせる瞬間でもある。

でも本当のことを言うとこの大晦日は嫌いだ。あと数時間で今年も終わるとなると、いやでもその年の事を振り返ってしまう。事故後、僕の生活は一変した。それまでは順調に人生を歩んでいると思っていたが、上手くいかない事ばかりになってしまっている。

悪いことは忘れるのが一番。その時に忘れようとしていても、いつもこの大晦日で思い出してしまう。一体世の中の人達はどの様に嫌な事を忘れたり乗り越えたりしているのだろうか。心が弱い僕には難しい問題だ。



静かだった世の中は、新年を迎えた瞬間、一気に賑やかになる。年が明けるだけで、なぜこんなに雰囲気が変わるのかいつも冷めた気持ちでみている。僕自身も世の中も、ほんの十秒前と全く変わっていないのに。

今年こそ良い年にするぞと心機一転と思っていても、ほんの数時間前に振り返って思い出してしまった嫌な事を忘れることなどできない。そしてそのまま新しい年に引き継がれてしまう。これが事故後、僕の年末年始である。


体が不自由なってから初詣には行かなくなった。人混みが多いと危ないし、周りで楽しくしている人たちを見ると、心がざわめいてしまう。以前は初詣で健康を祈願していたのに、体がこんなになってしまったので神様の存在を疑問視してしまう。いや、違うな。神様がいたからこれ位で済んだのだろう。これからはちゃんと初詣には行くべきなのかな。




時が経ち、早くも一月も中旬だ。特に最近は変化のない毎日をすごしている。だから気分転換にでもなればと、いつもと違う事をする為、夜の公園へ通い始めたのもこの頃からだ。

夜は星が綺麗に見える。いつもこのベンチに座って夜空を眺めている。
ぼんやりと星空を眺めていると思う事がある。僕の生活行動範囲は案外狭い。だけど住んでいる街、日本、世界は広い。さらに今見えている月や星、宇宙全体を眺めるとはるかに広く遠い。僕の中の感覚では理解できないくらい、広いのだろうな。
この広い宇宙と比べれば僕の悩みなんて、海岸の砂粒如くたいした事ないのだろう。

そして夜空で一番輝いている星を眺めてみる。とても綺麗に瞬いている。
僕のすぐ目の前で輝いているこの星には、手を伸ばしても届かない。
どれくらい近づけばあの星に手が届くのだろうか。
本当に近づいたら手が届くのか。
そして、あの星を自分の気持ちに重ねてしまう事もある。
もし、あの星が僕の希望だったらやはり手に届かない存在なのだろう。
僕の希望は・・・。一体何だろう。

なぜ、そんな気持ちになり始めているのかというと、彼女と再会してからだ。彼女と接していくうちに僕の気持ちも変わり始めていた。僕を見つめてくれる存在。気にかけてくれる存在。そして僕が気にしてしまう存在。今の生活ではなかった存在だ。ひょっとすると僕が感じている閉塞感から抜け出すきっかけになるのかもしれない。僕は星空を見上げながら自分自身の気持ちを整理してみた。




以前から胸に引っかかってた感情の正体が、ようやくわかり始めた気がする。
それは「彼女の幸せを願う気持ち」である。
昔の事故で死んでいたかもしれない少女が奇跡的に生き延び、夢に向かって歩いている。そしてその途中で友達や家庭を築き、きっと幸せな人生を歩んでいくのだろう。

僕はあれだけの犠牲を払ってたのだから、彼女には幸せな将来を迎えて欲しい。いや、幸せな未来でなければ僕が事故で怪我までしてまで彼女を救った意味、そして今後僕が生きていく理由がなくなってしまう。

だけど、そんな気持ちは本心でもない。単に恰好つけて思っているに過ぎない。誰に向けて格好つけているのかもわからない。人生が上手くいかないからと八つ当たりでもしているのか。それじゃ、単なる子供の我がままと変わらない。彼女の幸せを願う気持ちは間違いでない。ただ、僕の幸せはどうなんだ?

もちろん今後、彼女には素敵な人と結ばれるのだろう。そして彼女の横に立ち幸せな人生を共にしていくのだろうな。横に立つ人は一体どんな人なんだろう。光莉さんが好きになる人だから、きっと優しく周りに手を差し伸べていくような人なんだろうな。その横に僕は・・・。ないな。僕ではない。僕が横に立つと彼女は幸せになれないし、似合わない。
それを思うと心臓に針が刺さったように痛みが走る。その痛みを止める為、さっきの様な格好つけた気持ちを無理やりに思い続けているのだ。

事故後、職場復帰して一年が経たないうちに僕は退職した。
身体的に今までと同じ内容の仕事をするのが難しくなっていた。ほんの少しでいいからペースを落とせば何とかやれたのだろけど会社は事故前の僕の能力を知っていて同じ結果を求めてきている。
職場の人達は表面上、僕に対して笑顔を見せてくるのだが裏でため息をついてることも知っている。あんなに僕の周りに集まってきていた人達が、事故後、急に僕から離れて行ってしまった。仕事が以前よりスムーズに出来なくなっただけで、やんわりと邪魔者扱いしてくる職場に居たら本心で笑顔を向けてくれていても、偽りの笑顔にしか見えなくなってしまっている。
・・・だから退職したのだ。

次の仕事もなかなか決まらなかった。どの会社も僕を採用するのは及び腰らしい。
内定が決まった今の会社も実は昨年末で退職している。
理由は・・・説明する必要はない。想像通りだ。

日常生活だと何とか工夫をすればやっていけるのだが、それが仕事となると話が違う。事故の後に見えてしまった人間の二面性で他人が怖く感じてしまっている。
また、事故当時にお付き合いしていた女性もいたが、入院中数回お見舞いに来てくれたが、退院する頃にはすでに心が離れていたようだ。こんな僕を支えていくのは簡単な事でないし、自信が無かったのだろう。僕は何度も以前と変わらないよと訴えかけるが聞く耳を持ってくれなかった。その後別れる事となる。

退院直後は身体的な機能低下は日常生活でも大変である。しかし何とか工夫すればやっていける。だからそれほど苦痛とは思えない。
実際に苦痛を感じているのは精神的な分が大きい。みんな仕事が忙しくギリギリで余裕がない事は僕も理解している。だからこそ僕の様な人間に関わってしまうと余計な仕事が増えてしまい敬遠されてしまう。たとえ部署が違っていても、会社の仕事とは全部が繋がっている。顔も知らない他の部署の人までも白い目で見られてしまうのは辛すぎる。
僕がやれるだけの事をする。それが許されない世の中になっている気がする。

そんな僕が彼女の隣に立ったら苦労ばかりで幸せにはなれない。素敵な彼女の事だろう好きになる男性も多いはずだ。将来有望な男性と今ギリギリを生きている僕。どちらが彼女にとって幸せかを考えると、答えは直ぐに出る。

そう思うと彼女の親切が重荷に感じてしまう。恩返しと言っているが別に毎日何かしてもらっているわけでもなく、時々話をするだけだ。僕が遠慮して支援を断っているというのもあるが。もし、支援をお願いしたとしても、大学を卒業したらどうなる?僕の人生はその先も続くのだからそんな中途半端な支援なら最初からしないで欲しい。かえって迷惑だし彼女が目の前から居なくなった時、今以上に落ち込みつらい。

心の奥底で芽生え始めている彼女に対する恋心を、無理やりに押さえつけている。どうせ僕には振り向く訳ないのだから、勝手に思いを寄せてこの恋が終ってしまったらますます立ち直れなくなる。どう考えても今の僕には明るい未来がイメージできないのだ。


そう考え始めたら涙がこぼれてきた。人間の二面性に嫌気がさしていたはずなのに、いつの間にか僕自身にも二面性が出てしまっている。
彼女の親切を重荷に感じてしまうなんて最低だ。
自分に合った環境に飛び込めばいいのだか、
そんな環境何処にある。
そんな会社何処にある! 
どんなに壁を乗り越えようと努力しても僕の様な心が弱い人間なんてすぐに挫折して諦めてしまう。


考えたくもないのだが、このような人生になったのは、事故によって生じた障害や、周りが僕を避けている事が原因でないという事だ。僕よりも重い障害を持っている人でさえ輝いた人生を歩んでいるし、いろんな人と繋がりを持って活き活きと生活している。僕が周りから避けられているのでなく、僕が周りを遠ざけていしまっているのでないか。

上手くいかない事でも他人や環境のせいにしてしまう。自分は障害があるからとか、心が弱いからとかすぐにその場から逃げてします。以前の会社でももっと素直に気持ちを伝えたのか?もっと他人の話を聞いたのか?


――― どちらもしていない ―――


自分ではわかっているが出来ない。ならば今後それらを行おうと思ってもやれない。自分を変えるという事はこれほど恐ろしく恐怖なのだろうか。自分を変えても結果が思う事と異なれば、すぐに逃げる。
そして前向きに物事を考えようとしても直ぐに卑下な考えになっている。
そんな自分は嫌いだ。
これからどうすればいいのか。
僕はどんな希望を持てばいいのか。
誰も助けてくれないのか・・・。
もう、このように思っている段階で駄目だと自分でも理解している。

けど、動けない。




僕は夜空で一番明るく輝く星に手を伸ばした。でも、その星は目の前で輝いているのにどんなに手を伸ばしても届かない。希望の星には届ない。
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