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10 私の決心
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二月のある平日の午後、外は寒い風が吹き木々も寒そうに震えながら揺れていた。
僕は公園の横にあるカフェの窓際で本を読んでいた。このような日には暖かいカフェでゆっくりと本を読むのが心地よい。
特に最近は僕の心も揺れてしまっている。
進みたいのか、止まりたいのか。希望へ目指したいのか、逃げたいのか。
自分でもどうしていいのか分からないし、心が痛い。少しでもこの気持ちを忘れる為に、ここで過ごしているのだ。
ドアが開く音と共に冷たい風が本のページをめくる。その冷たい風は今の僕には心に響く。ふと視線を上げると光莉が笑顔で立っていた。
「寒いですね、こんにちは。お店の外から谷崎さんが見えたので!」
いつもの元気な声で、心を温め始める。だがその温かさに痛みも感じている。
「学校、終ったの?」
「はい、今日は午前中までです。わたしもご一緒させてください。お話ししましょう!」
笑顔で返事すると嬉しそうに同じテーブル席腰を下ろし、鞄の中から紙袋を取り出した。
「バレンタインのチョコです。受け取っていただけますか?」
僕は驚いた。バレンタインのチョコなんてここ数年もらった記憶が無い。
礼を言ってチョコを眺める。
「そのチョコですね、数種類を混ぜて作ったんです。それぞれのチョコの割合で味が変わるので何度も試作しました」
「本格的ですね。ところで本命のチョコは渡せました?」
と思わず探りを入れるように質問してしまった。彼女はどのような反応をするのだろうか。答え次第では聞かなかった方が良かったと後悔もしてしまう。
光莉は少し俯きながら、照れたように微笑えんだ。
「はい、彼氏に渡せました。とても喜んでくれて。人生で初めての手作りバレンタインチョコなので緊張しましたが、作ってよかったです」
「それは良かったじゃないですか。苦労した甲斐がありましたね」
明るい笑顔で答えたが、僕の心は一気に暗闇に沈んだ。
そりゃそうだ。
彼女は素敵な男性とこれから幸せな人生を歩むのだから。
何を僕は期待をしていたんだ?
夜の公園で答えは出ていただろう!
これもの想定の範囲だ。
笑顔で光莉の話を聞きながら、僕の心臓は針で刺される痛みを感じていた。テーブルの下では右手を力いっぱい握って気持ちを抑えている。
彼女が楽しそうに、そして照れくさそうに話をしているが、あれ?話の内容が耳に入らない。僕の内側から何かの闇が侵食する感触が気持ちわるい。僕は彼女に恋をしていたのか?それで振られて心が苦しいのか? いやそんな事ない、もともと彼女にとって僕は単なる恩人なんだ。男性としての興味などないはず。しかも彼女が幸せな未来へ歩むのが僕の希望なんだろう。なら僕の希望通りなので喜んでいいんだ。
やっと光莉の言葉が耳に入ってきた。
「それで、大学の春休みは長いので、その間は谷崎さんをしっかりサポートできます。お部屋の掃除や料理でもいいです。何でもします。」
だがもう決心している。僕は彼女にとっては足を引っ張る存在なんだ。だからもっと彼女自身の為に時間を使ってもらいたい。
僕は慎重に言葉を選んで話し始めた。
「いいえ、大丈夫ですよ。私はちゃんと日常生活不便なく行えます。人より時間がかかりますが、大丈夫です・・・大丈夫です。昨年末で私は退職したので、今は時間が十分にあります。ゆっくり時間かけられるので問題ありません。
それに30歳越えた独り暮らしの男性の部屋に、光莉さんがひとりで来られるのは、彼氏さんは心配されるでしょう? もしこれが原因で喧嘩されたら申し訳ないですから」
全く心にも思っていない恰好つけた言葉って不思議なほどスムーズに出るもんだな。でも決心し伝える事を言えたので心が少しだけ軽くなった。そして、もう後には引けない。
光莉からは笑顔が消えて寂しそうに言った。
「彼氏の件は大丈夫です。ちゃんと話しているので理解してくれていると思います。やっと恩人の谷崎さんにお会いできたのです。だから、どんなことでもいいので、わたしはお手伝いしたいのです」
うーん。困ったな。どう説明したら彼女は納得してくれるのだろうか。実際、サポートしてもらった方が快適な事はいくらでもある。でも工夫して時間をかければ行えるし、どうしてもできない事はもうあきらめている。今必要なのは僕へのサポートではない。彼女自分の為に時間を使うことだ。しかも僕も決心して彼女への想いを断ち切ろうとしているのに・・・。
「お気持ちは本当にありがたいのですが、サポートは必要ないです。
それより私の願いは、事故から奇跡的に生き延びた光莉さんが、ご自身が目指す目標に進んで幸せな人生を歩んでいただく事。それが達成されるのが、私の一番の願いであり、今、生きている理由です。」
「そうなんですか・・・。」
光莉は寂しそうに返事する。かわいそうだが、きちんと伝えなければならない。さらに僕は続ける。
「私に手助けして頂くのは嬉しいですが、光莉さんは今、目標に向かう一番大切な時だと思います。だからこそ自分の為にその時間を使ってください。お願いします」
光莉に対して頭を下げた。お願いの為に頭を下げたのだが、彼女の目を真っすぐ見れない。見てしまうと泣いてしまいそうなのだ。
気が付いてしまった。自分の言葉が「僕」から「私」に変わっている。無意識に彼女から距離を取ろうとしているのだろう。それが正しい。間違いないはずだ。その決意とは裏腹に、膝の上で握っているこぶしには、一滴の涙が落ちてきた。
「わかりました。でもあまりご無理はされないでください。いくらご自身出来るといっても限界はあるかと思います。その時はお声がけください」
「はい、その時は頼らせていただきます。せっかくのお気持ちに添えられず申し訳ないです」
といい、僕は彼女の顔を見ないように席を立ち店から出た。
納得と後悔、決心と悲しみなど複雑に混ざったか感情を抱えながら道を歩いていた。
これが、僕の決心だ。これでいいんだ。もっと胸を張れ、前を向け。そして笑顔で歩け!
そう自分に言いきかせ冷たい風の中を歩いて帰路へつく。
特に頬がつめたい。涙が頬を一層つめたくしている。
僕は公園の横にあるカフェの窓際で本を読んでいた。このような日には暖かいカフェでゆっくりと本を読むのが心地よい。
特に最近は僕の心も揺れてしまっている。
進みたいのか、止まりたいのか。希望へ目指したいのか、逃げたいのか。
自分でもどうしていいのか分からないし、心が痛い。少しでもこの気持ちを忘れる為に、ここで過ごしているのだ。
ドアが開く音と共に冷たい風が本のページをめくる。その冷たい風は今の僕には心に響く。ふと視線を上げると光莉が笑顔で立っていた。
「寒いですね、こんにちは。お店の外から谷崎さんが見えたので!」
いつもの元気な声で、心を温め始める。だがその温かさに痛みも感じている。
「学校、終ったの?」
「はい、今日は午前中までです。わたしもご一緒させてください。お話ししましょう!」
笑顔で返事すると嬉しそうに同じテーブル席腰を下ろし、鞄の中から紙袋を取り出した。
「バレンタインのチョコです。受け取っていただけますか?」
僕は驚いた。バレンタインのチョコなんてここ数年もらった記憶が無い。
礼を言ってチョコを眺める。
「そのチョコですね、数種類を混ぜて作ったんです。それぞれのチョコの割合で味が変わるので何度も試作しました」
「本格的ですね。ところで本命のチョコは渡せました?」
と思わず探りを入れるように質問してしまった。彼女はどのような反応をするのだろうか。答え次第では聞かなかった方が良かったと後悔もしてしまう。
光莉は少し俯きながら、照れたように微笑えんだ。
「はい、彼氏に渡せました。とても喜んでくれて。人生で初めての手作りバレンタインチョコなので緊張しましたが、作ってよかったです」
「それは良かったじゃないですか。苦労した甲斐がありましたね」
明るい笑顔で答えたが、僕の心は一気に暗闇に沈んだ。
そりゃそうだ。
彼女は素敵な男性とこれから幸せな人生を歩むのだから。
何を僕は期待をしていたんだ?
夜の公園で答えは出ていただろう!
これもの想定の範囲だ。
笑顔で光莉の話を聞きながら、僕の心臓は針で刺される痛みを感じていた。テーブルの下では右手を力いっぱい握って気持ちを抑えている。
彼女が楽しそうに、そして照れくさそうに話をしているが、あれ?話の内容が耳に入らない。僕の内側から何かの闇が侵食する感触が気持ちわるい。僕は彼女に恋をしていたのか?それで振られて心が苦しいのか? いやそんな事ない、もともと彼女にとって僕は単なる恩人なんだ。男性としての興味などないはず。しかも彼女が幸せな未来へ歩むのが僕の希望なんだろう。なら僕の希望通りなので喜んでいいんだ。
やっと光莉の言葉が耳に入ってきた。
「それで、大学の春休みは長いので、その間は谷崎さんをしっかりサポートできます。お部屋の掃除や料理でもいいです。何でもします。」
だがもう決心している。僕は彼女にとっては足を引っ張る存在なんだ。だからもっと彼女自身の為に時間を使ってもらいたい。
僕は慎重に言葉を選んで話し始めた。
「いいえ、大丈夫ですよ。私はちゃんと日常生活不便なく行えます。人より時間がかかりますが、大丈夫です・・・大丈夫です。昨年末で私は退職したので、今は時間が十分にあります。ゆっくり時間かけられるので問題ありません。
それに30歳越えた独り暮らしの男性の部屋に、光莉さんがひとりで来られるのは、彼氏さんは心配されるでしょう? もしこれが原因で喧嘩されたら申し訳ないですから」
全く心にも思っていない恰好つけた言葉って不思議なほどスムーズに出るもんだな。でも決心し伝える事を言えたので心が少しだけ軽くなった。そして、もう後には引けない。
光莉からは笑顔が消えて寂しそうに言った。
「彼氏の件は大丈夫です。ちゃんと話しているので理解してくれていると思います。やっと恩人の谷崎さんにお会いできたのです。だから、どんなことでもいいので、わたしはお手伝いしたいのです」
うーん。困ったな。どう説明したら彼女は納得してくれるのだろうか。実際、サポートしてもらった方が快適な事はいくらでもある。でも工夫して時間をかければ行えるし、どうしてもできない事はもうあきらめている。今必要なのは僕へのサポートではない。彼女自分の為に時間を使うことだ。しかも僕も決心して彼女への想いを断ち切ろうとしているのに・・・。
「お気持ちは本当にありがたいのですが、サポートは必要ないです。
それより私の願いは、事故から奇跡的に生き延びた光莉さんが、ご自身が目指す目標に進んで幸せな人生を歩んでいただく事。それが達成されるのが、私の一番の願いであり、今、生きている理由です。」
「そうなんですか・・・。」
光莉は寂しそうに返事する。かわいそうだが、きちんと伝えなければならない。さらに僕は続ける。
「私に手助けして頂くのは嬉しいですが、光莉さんは今、目標に向かう一番大切な時だと思います。だからこそ自分の為にその時間を使ってください。お願いします」
光莉に対して頭を下げた。お願いの為に頭を下げたのだが、彼女の目を真っすぐ見れない。見てしまうと泣いてしまいそうなのだ。
気が付いてしまった。自分の言葉が「僕」から「私」に変わっている。無意識に彼女から距離を取ろうとしているのだろう。それが正しい。間違いないはずだ。その決意とは裏腹に、膝の上で握っているこぶしには、一滴の涙が落ちてきた。
「わかりました。でもあまりご無理はされないでください。いくらご自身出来るといっても限界はあるかと思います。その時はお声がけください」
「はい、その時は頼らせていただきます。せっかくのお気持ちに添えられず申し訳ないです」
といい、僕は彼女の顔を見ないように席を立ち店から出た。
納得と後悔、決心と悲しみなど複雑に混ざったか感情を抱えながら道を歩いていた。
これが、僕の決心だ。これでいいんだ。もっと胸を張れ、前を向け。そして笑顔で歩け!
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