わたしを救った私の英雄

よつ丸トナカイ

文字の大きさ
13 / 16

13 わたしの光が消える時

しおりを挟む
大学を卒業して三年が経った。とある夕方、仕事を終え帰宅中のわたしは横断歩道で信号待ちをしていた。隣には見知らぬ小学生の女の子も待っている。ふと昔の光景を思い出した。


わたしも今年で25歳かぁ。
あの事故でわたしを助けてくれた時の谷崎さんと同じ年齢だな。


あの頃のわたしにとって、25歳というのはとても頼りがいがあり、大きくて安心ができる存在だった。わたしも同じ年齢になったけど、あまりにも頼りない。わたしがイメージする25歳はもっと大人のはずだ。



信号が青になり歩き始めると横からはトラックが走ってくる。わたしは全身に緊張を感じた。昔の事故の事を思い出してしまう。トラックはそのまま・・・、ゆっくりスピードを落とし、停止線で停まった。

何も変わらない日常の風景。隣を歩いている小学生も何もなく普通に歩いている。


もし、このトラックが突っ込んできたら、わたしはこの見知らぬ小学生を助けられるだろうか・・・。いや、絶対に無理だ。わたしだけでも逃げてしまうかもしれないし、体がうごかない。改めてあの日の谷崎さんの勇気に敬意を抱いていた。



しばらく歩いていると友人の琴音が笑顔で手を振っていた。

「仕事お疲れ!」
「久しぶり!琴音も今終わり?」

卒業してからも、友達としての関係は続いていた。時々食事や買い物に行くこともあったが、お互い仕事が忙しくなったせいで、この一年は全く連絡を取っていなかった。久しぶりの偶然の再会に、心の中で喜びがこみ上げた。

「光莉も仕事忙しいんでしょう?」
「うん、今年は新入社員の世話係をしているの。やっと仕事を覚えた思ったら今度は教える側に回ってしまつたよ」
「新入社員に変な事教えたら駄目だよ」
「それ、課長にも同じこと言われた!」

笑いながら歩いていく。久しぶりの親友との談笑に光莉の心も楽しさで満ち溢れていた。

「そういえば光莉。彼氏とはどう?」
「実は・・・1年前に別れたんだ」

琴音はやっぱりという表情で光莉を見ていた。

「光莉には物足りなかったんでしょう」
「物足りないというか、何だか自分の事ばかり押し付けて全然周りの人に思いやりが無いというか、・・・。あっ、でも悪い人ではないよ」

慌ててフォローする光莉に、微笑む琴音。

「光莉は優しいね。他人の悪口言わないもの。元彼は誰から見ても普通にいい人だよ。ただ・・・。」

琴音は言葉を止めてしまった。
「ただ、なに?」
「ただね、光莉には似合わなかったかなと」
「えっ、なんで?いつから、そんな事を思っていたの?!」

琴音は悪戯っぽい微笑みをしながら話続けた。
「最初からだよ」

光莉は目を丸くして言った。
「えっ!そんな前から?言ってくれればよかったじゃない!」
「だって、光莉が好きになった人でしょう。なら、見守るのもいいのかなと」

光莉は口をとがらせた。
「琴音とは、幼稚園からの付き合いでしょう。恋愛の時も相談したのに、その時ちゃんと言ってくれれば、わたしの人生も変わっていたのかも・・・。」

琴音はその光莉の一言を聞いて、心がざわついた。そして話始めた。
「で、でもね、光莉は頼りがいがあり優しい人が好きなんでしょう。一般的に言う優しい人と、光莉が求める優しさはレベルが違うのよ。なんていうか映画でいう命がけで恋人を守るヒーローみたいな感じ?」

その言葉を聞いて光莉は言葉失った。思い当たる節がある。
だから、それを否定するように光莉は答えた。

「そ、そんな事ないよ。わたしは別に彼から何かしてもらおうって思ってないし・・・。」
「光莉は責任感が強いから、自分から親切にするタイプだもんね」
「みんなが喜んでくれば、わたしはそれだけで十分なんだよ」
「ほら、優等生!」

琴音はからかう。二人は笑いながら歩いてはいるが、お互い心の中で締め付けられる思いもあった。



しばらく並んで歩いていると、琴音の表情が急に変わった。

「ねえ、光莉」
「なに?」
「谷崎雄大さんって知ってる?」

その名前を聞いて光莉の心臓が強く脈を打つ。

「うん、知っているよ。わたしを助けてくれた人。琴音も以前スーパーで少し話したよね。谷崎さんがどうしたの?」


「ほら、あれ」

指さした道路脇の看板を光莉が見た瞬間、顔から血の気が引いていった。

「これって、葬儀場の看板」
「同姓同名の別人かもしれない」
「・・・どうしよう」


光莉は強烈な吐き気と胸を刺す痛みに耐えていた。



琴音は冷静に
「行って確かめよう。人違いだったらそれでいい。でも、今行かなければ今後一生後悔すると思う。私も一緒について行くよ。」

琴音は、小さく震える光莉の肩をだき、優しく寄り添っていた。
光莉はうなずき葬儀場へと向かった。


葬儀場の受付で事情を説明し中に通してもらった。歩いている途中、最悪の事を考えてしまい震えが止まらない。わたしの肩を抱いてくれている琴音の手も震えている。人違いであって欲しいと何度も願い続けてた。

そして遺影のある部屋の前まで来たが、どうしても中に入れない。勇気が出ない。琴音は光莉を見つめて、背中を優しく震えた手で押してくれた。
中に入った瞬間、光莉はうずくまり号泣した。


「た、谷崎さん・・・。」

琴音は言葉を失い、優しく肩を抱いてくれた。

「嘘だ、絶対に嘘だ!わたしの英雄がこんな若さで・・・。」

現実を受け止めきれず泣き続ける光莉。暗い表情の谷崎の父親が光の元に近づいた。光莉は自分の事を説明すると。父親は驚き、優しい笑顔で話しかけた。

「あの時の小学生が、こんなに元気に大きくなられたんですね。本当に良かった。事故の後遺症とかはないですか? 息子もきっと喜んでいますよ。」

谷崎さんの父親の優しさで、わたしも少し落ち着いてきた。あの時の谷崎さんの優しさを思い出しながら、父親の話を聞き続けていた。

「息子は平凡な男だったのですが、光莉さんの命救った事は、親としても嬉しかった。褒めてやりたいよ。でも、光莉さん。本当に無事に生きていてくれてありがとう。」

その言葉を聞いた瞬間、スーパーで谷崎が最後に言った言葉がよみがえる。

「生きていてくれて、本当にありがとう」

止まりかけていた涙が、また溢れた。



父親が近況を話してくれた。自宅アパートで料理中、不注意により沸騰した鍋のお湯をひっくり返し全身に大火傷をしたらしい。左目と左腕の不自由があっても生活しているのだが、慣れた行動による油断だったのかもしれないと。

しかも悪いことは重なるようだ。たまたま、スマホの充電が切れていて救急車への連絡が遅れてしまい、さらに数日前から体調を崩して体力と免疫が落ちていたとのこと。それらも重なって合併症にて帰らぬ人となった。



光莉は強い後悔に胸が潰されそうになっている。

「わたしが側にいたら」



二人は葬儀場を後にした。
月も星もない夜空。走る車の音や遠くのビルの明かりさえ光莉には届かない。
わたしをいつも照らしていた「英雄」というの光が消えた時、光莉の瞳からも光が消えていった。


暗い歩道を二人は無言で歩いていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

国宝級イケメンとのキスは、最上級に甘いドルチェみたいに私をとろけさせます♡ 〈Dulcisシリーズ〉

はなたろう
恋愛
人気アイドルとの秘密の恋愛♡コウキは俳優やモデルとしても活躍するアイドル。クールで優しいけど、ベッドでは少し意地悪でやきもちやき。彼女の美咲を溺愛し、他の男に取られないかと不安になることも。出会いから交際を経て、甘いキスで溶ける日々の物語。 ★みなさまの心にいる、推しを思いながら読んでください ◆出会い編あらすじ 毎日同じ、変わらない。都会の片隅にある植物園で働く美咲。 そこに毎週やってくる、おしゃれで長身の男性。カメラが趣味らい。この日は初めて会話をしたけど、ちょっと変わった人だなーと思っていた。 まさか、その彼が人気アイドル、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバーだとは気づきもしなかった。 毎日同じだと思っていた日常、ついに変わるときがきた。 ◆登場人物 佐倉 美咲(25) 公園の管理運営企業に勤める。植物園のスタッフから本社の企画営業部へ異動 天見 光季(27) 人気アイドルグループ、dulcis(ドゥルキス)のメンバー。俳優業で活躍中、自然の写真を撮るのが趣味 お読みいただきありがとうございます! ★番外編はこちらに集約してます。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/693947517 ★最年少、甘えん坊ケイタとバツイチ×アラサーの恋愛はじめました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/408954279

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

#秒恋9 初めてのキスは、甘い別れと、確かな希望

ReN
恋愛
春休みが明け、それぞれに、新しい生活に足を踏み入れた悠里と剛士。 学校に向かう悠里の目の前に、1つ年下の幼なじみ アキラが現れる。 小学校時代に引っ越した彼だったが、高校受験をし、近隣の北高校に入学したのだ。 戻ってきたアキラの目的はもちろん、悠里と再会することだった。 悠里とアキラが再会し、仲良く話している とき、運悪く、剛士と拓真が鉢合わせ。 「俺には関係ない」 緊張感漂う空気の中、剛士の言い放った冷たい言葉。 絶望感に包まれる悠里に対し、拓真は剛士に激怒。 拗れていく友情をよそに、アキラは剛士をライバルと認識し、暴走していく―― 悠里から離れていく、剛士の本心は? アキラから猛烈なアピールを受ける悠里は、何を思う? いまは、傍にいられない。 でも本当は、気持ちは、変わらない。 いつか――迎えに来てくれる? 約束は、お互いを縛りつけてしまうから、口にはできない。 それでも、好きでいたい。 いつか、を信じて。

処理中です...