弱き光の夜

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 数年前のある日、東京から仙台に戻るため、私は常磐道を車でずっと北上していた。
 初夏独特の、少し湿っているがまだまだ涼しい、さわやかな風の吹く日であった。
 曇ってはいなかったが、少し薄もやのかかったような空の下、光は柔らかく高速道の周りの緑の丘陵を照らしていた。
 優しい感じがする景色であった。
 次々に通り抜ける高架の作る影。
 小気味よく、リズミカルに繰り返されるその繰り返しは、単調になってしまいそうな長いドライブに心地よい変化を与えてくれた。
 気持ちの良いドライブであった。
 良い気候、穏やかな景色。
 楽しかった。
 私は、この気持ちの良い自然の中を、何のストレスもなく車を走らせていた。
 周りに車はほとんどいなかった。
 私は自分のペースでこの高速道をずっと走れていた。
 東京を出発してから目立った渋滞ももないまま、もうすぐ福島県の中通りに向かう磐越道との分岐点にまで到着する。
 まれにみるような順調な道のりだった。
 分岐点から、そのまま磐越道に行き、その後に東北道に移って仙台へ。
 長くみても三時間程度の道のりだった。
 初夏の日の長い季節ではあったが、さすがに夕暮れまでに仙台につくのはもう不可能だが、それほど遅くない時間までには家にたどり着くことができるだろう。
 そんな時間だった。
 明日には会社もあった。
 なるべく早く自宅にたどり着いて休んだ方が良い。
 このまま高速道路を走ってゆけば、帰り着いた後に少し休んで本でも読んで、シャワーでも浴びてから寝ても明日まで十分な睡眠がとれそうだった。
 そんな時間だった。
 そうした方が良かった。
 さっさと家に帰って休んだ方が良かった。 
 それは間違いはなかった。
 このまま高速道路に乗り、早めに家に帰って明日の仕事の為に休息を取る。
 私は何度もそうしていたのだ。
 当時仙台に住み、しかし東京に頻繁に用事のあった私は、実際何度もそうやってこの先の道を走っていたのだ。
 今日もそうやってこの後の道を走っていこうと思っていたし、その時までは、いつものようにこのまま高速を走っていこうと思っていたのだった。
 そして、そんなことを考えていると、タイミング良く、もうすぐ分岐点であることを知らせる標識がでた。
 私はそれを見て、そうするつもりだった。
 私は標識を見つめながら、分岐した先の別の高速道へ車を向かわせようと ハンドルを握り直し、手に少し力を入れてアクセルを踏み直したのだった。
 ——しかしなぜか私はそのまま分岐点を越えた。
 私はそのまま高速を降りたのだった。
 私はそのまま福島県の海際を走り出したのだった。
 ——なんでそうしたのかは覚えていない。
 きっと、この良い気候の中、海際の景色でも眺めて走ってみようとかふと思いついたのがのがきっかけだったのではないかと薄らと思い出す。 
 たぶん、夕闇の海岸を眺めながらゆっくりと走ったならば、道のりが楽しく過ごせるのではとか思っていたのだったと思う。
 今となってはちゃんとは覚えていない、その程度の、さしたる理由も計画もない行動だった。
 ふとした思いつき以上のものではない、たいした意味は無い、その程度の話であった。
 だまって高速を走れば半分の時間で到着するだろう道のりをノロノロと走る。
 もう夕暮れ間近の時間では、途中の観光地もあらかた閉まってしまっていて、何か途中に寄れるようなところがあるわけでもない。
 よく考えればあまり良い判断ではないが、引き返して高速に戻ろうという気には微塵もならなかった。
 分かれ道の終わった後、もう戻れなかった。
 そういう気分だった。
 走り始めた後——走り始めてみれば——半ば神託めいた何か不思議な衝動に私は捕らわれていた。
 今日ここを走らなければいけない。
 (今は走れないこの道を)
 何故か確信があった。
 今日ここを走らなければならない。
 転勤が決まり、こうして仙台へと向かうのが最後になっていたこの日に。
 美しい海岸線を眺めながら車を走らせる。
 何も考えずに、右手に穏やかな海を眺めながら、左手の、心地よく変化する山の稜線を目の端で追う。
 何も目的も無いが楽しい道のり。
 夕暮れも深まる、美しい光景。
 その中を私は走り続けなければならなかった。
 走り続けなければならなかった。
 感じなければならなかった。
 窓を開け涼しい風を入れ、頬を心地よく揺らしながら、目の前にあるすべてをそのままに。
 感じる。
 この世界を。
 全き世界を。
 感じる。
 何もかもがその中にある、全てがその中で通じているように私は感じた。
 それは、世界そのままの、世界そのものであった。
 それは素晴らしかった。
 赤く染まった空の下、道のりは長く、しかし楽しかった。
 次々に移り変わる光景。
 それは外に有るのではなく、自分の内側で動いているかのようだった。
 移り変わる景色は自分の心の移り変わりであった。
 それは今、とても楽しく、それが世界であった。
 長く、海を臨み、道は何処までも続く。
 その上を走る心は何処までも伸びる。
 高く、深く、世界がそのように有るのならば、自分もそのように有る。
 自分は、空であり、海であるような、その中にあるような、何物かであり、その歴史の中にある。
 つまり柔らかな自然に包まれて、潮の匂いのする初夏の空気を吸い込んで、穏やかな心になる。
 少しずつ暗くなる辺りの風景とともに心はますます落ち着いて、何時のまにか辺りが真っ暗になった頃、心は全く世界にとけ込み、その流れとともにあった。
 街灯もまるで無い暗い道だったが、満天の星の照らす道であった。
 時々通り過ぎる小さな港以外には灯りの無い、長い長い海沿いの道だった。
 私はその道を、急ぐでもない、止まるでもない、自分のリズムに従うがままに、何も考えずに車を走らせていた。
 同じような暗い道がずっと続いていた。
 さっきまで見えていた風光明媚な風景も闇の中に飲み込まれまるで見えなくなってしまっていた。 
 私は、この時、ただこの道を走る為にこそこの道を走るような状態であった。
 何も見えない暗闇の中をただ通過する為にここにいる。
 それ以上のものはここには何も無かった。
 この海岸通を通ってその時に住んでいた仙台へ帰る。
 その移動だけがあった。
 それだけだった。
 ずっと高速に乗っていたならばもう仙台の近くまで行っていたであろうそんな時間に、まだゆっくりと星の下を走っている。
 この事が、私には、なぜかは分からないが、この時、とても意味深い事のように思われた。
 良くは分からなかった。
 単に始めての道を行くことに単純に好奇心を感じていただけかもしれない。
 あるいは、ずっと高速道路に乗っていてスピードに疲れた心にこのゆっくりとしたペースが気持ちよかっただけなのかもしれない。
 しかしそれ以上の何かを感じていた、今日此処を私は通らねばならないのだと言う予感めいた考えが。
 周りが何も見えない暗闇でも、嫌、暗闇でこそ、そこには見えない何物かが隠れているかもしれない。
 それは不思議な感情だった。
 感じるのだ。
 この道を走るのは今しかないような、それは、焦燥感に似た、期待とは違う、恐怖ともちがう、余計な解釈を許さない衝動。
 それに従い、私は車を走らせる。
 暗闇の中。
 沖に浮かぶ船と思われる灯りだけが唯一見える光。
 それはゆらゆらと揺れ、心地よい。
 穏やかな海、眠気に似た、落ち着いた、しかしそれとは違う、不思議な気持ちだった。
 ゆらりゆらり、大きなうねり、星が見えた。その回転が、この地と、合する。
 風が、波が、天と、もし世界が、宇宙が一つにつながっている物ならば、歴史が、今とつながっている物ならば、ここにあるすべてが揺れる。
 私の中映る世界は、揺れる。
 ゆったりとした夜だった。
 すれ違う車もまばら。
 真っ暗な自然の中、その歴史の積み重なった地の上を、滑るように車は進む。
 まるで時が流れるように。
 車はとぎれなく進む、夜。
 さわやかな気候の夜だ。
 私は窓を開けて、心地よい風を感じながら、微かな波の音を聞く。
 ゆっくりとうねり、くだける黒い波。
 より大きな暗闇の中へ、この地の果てしない歴史の中に溶けて行く波
 次から次へと繰り返し訪れる、波。
 だんだんと高くなり、次に低くなっては、また高くなる、波。
 太古から同じようにこの地に押し寄せては引いていった波。
 今は穏やかな波。
 まるで無意識の大海のような暗黒の中、なにが隠れているのかと自分の心の奥に問いたくなるような。
 海、それは過ぎ去った過去をすべて飲み込んで波打つ。
 この道、暗闇の中に消える。
 ヘッドライトだけが照らす。
 波。
 何も見えない暗闇の中で、そのリズムを感じる。
 古代、自然を前にして祈る、暗闇に畏怖する人々の、一言では言い表せられないだろう感情。
 時代がうねる。
 その波が、この日までやってくる。
 押し寄せる文明に自然は牙をむくがその中でしか生きられない我々。
 それはこの現代でも同じなのだ。
 乗り越えたと思っても必ずもっと大きな波がやってきて我々を飲み尽くす。
 かつても、今も、荒ぶる神。
 それは何を崩し、何を押し流したのだろうか。
 今は通れないこの地は、暗闇の中、無意識の大海の中に沈んで行ってしまったと言うのだろうか。
 その場所。
 私は、あの夜、あの場所を走った。
 今はもう通れない道。
 思い出すのは、暗闇と、通り過ぎる民家の暖かい灯り、通り過ぎる小さな街。
 幾多の繰り返す運命を、押し寄せる奔流を、やり過ごしたであろうこの地。
 人々の、生きる場所。
 黒い海、無意識の大海に浮かぶ、小さな泡ような、通り過ぎる灯り。
 暗闇の中、照らされるのは、穏やかな港。
 出港を準備する、明るく、爛々と電気をつけて、 漁師達は忙しく働き、小気味よいエンジンの音が聞こえる。
 気持ちのよい海。
 ——包み込む暗闇。
 港を通り過ぎ、また民家の見えない自然の中に車は入る。
 いつの間にか曇ってしまったのか星も消えた漆黒の闇。
 ヘッドライトの照らす灯りにつぎつぎと飛んで来てフロントガラスで潰れる蛾。
 それは私を少し不安にさせる。
 飛んできては潰れる蛾の姿はまるで亡者の魂のように理由もなく思われたからだ。
 自らをこの世界の輪廻から外してくれるものを求めて走る車に身を投じる魂に。
 潰れても、潰しても、次から次へと蘇り、また潰れる。
 続く暗闇の中、世界から魂がわき出してくるようなこの道。
 しかしその不安をも溶かし込み、あるように、それはある。
 自然は我々を包み込む。
 優しく、しかし無慈悲に。
 人間の感情など越えた、そこにある、ただあるものとして。
 暗闇。
 それはすべてを包み込む。
 喜びも悲しみも、生も死も。
 それは全てであり、何もかもがある。
 その律動に身を任せれば、全てであるそれになれるのに。
 人は一つになれるのに、その中から不安を、闇を、消し去ってくれる灯りを求めてしまう。
 暗闇を照らす灯りを求めて。
 次から次へと飛び込んでくる蛾と同じように、我々は暗闇を照らす文明を求め、飛び込んでゆく。
 驕慢がつけた火が燃え広がり地を焼き尽くすその中へ。
 強く、激しい一面の光。
 影さえも焼き尽くす光の中へ。
 地を覆い焼き尽くす光へ。
 光。
 それは広がり、空に昇り輝き、
 暗闇の中、海の方角に、そびえる
 ——私は、車の進む方向に、暗闇の中で爛々と地を照らす光を見た。
 ずっと走った暗闇の中それは突然現れた。
 海に向かう平地の中こつ然と現れたそれ。
 過剰な程地を照らす、その灯りに私は思わず目を奪われた。
 禍々しくも神々しく輝くその光。
 私はそれから目を離す事ができなくなったのだった。
 外灯もあまりない福島の国道をずっと走る中で、非現実的なばかりに光るそれは、何か、逆らいがたく私を引き寄せる力があった。
 一度見ると目を離せなくなるような魔力がそれにはあるように思えた。
 その光。
 自然の秘密を砕き引き出されたその光は、かつて遠く首都を照らし、今、怒りを地に満たしている。
 その中心地。
 そこでは、光と物が同じであることを指し示す方程式を介して、物質に秘めた力が解放しているのだった。
 その光は私のさっきまでの妄想の中での光と同じ輝きをしていた。
 それは野を焼き尽くす光に見えた。
 それは、
 そう、
 我々は、本当はすでに知っていたのではないか。
 ——止まらない事を。
 ——始まったならばそれは際限なく燃え広がる事を。
 炎は、このままでは、文明が燃え尽きるまで、地球が、灰に覆われるまで止まらないのだ。
 今、その光は、空に飛び、地に降りて、その見えない光は、我々の身体の中を通り抜けて行く。
 力が、弱い力が、崩すドミノのひと欠片がその力を作り続ける。
 燃やし尽くす。
 世界を、人を、未来を。
 それは、止まるのか、止める事ができるのか。
 いまだ崩れ続けるドミノ。
 我々は、見つめ続ける、ただ、波が襲うのを、炎が波となり、暗闇の中で野に広がるのを。
 我々は見る。
 焼き尽くされた野を捨てて、炎はさらに、密かに、地に広がって行くのを。
 我々は知る。
 それを止められ無い事を、嬉々として喜び続ける我が半身がある事を。
 地を炎が焼き尽くすまでの饗宴を楽しむ半身を。
 ——それは、見えない炎となって世界に広がって行く。
 不在の大地を、あり得た世界を、殺す。
 焼き尽くす、燃える奔流となって、自らが不在の津波に巻き込まれたのに気づかない人々を包み込む。
 過分な光に照らされた都は、不在の中で崩れ落ちる。
 この国、この国の現代が燃えて行く。
 この国、日本。
 日本。
 その言葉が荒野に響く。
 日本、かつては日の昇るこの東国を示したと言う言葉。
 響き、こだまして、音節が分かれ、次第に崩れて行くその言葉。
 日本。
 もう一度唱えてみよう。
 日本。
 それは、ゆっくりと崩れている。
 光が無いだけではない、暗闇さえも無いこの虚無の中で、言葉は弱い力により、分裂させられながら、断末魔のエネルギーを放っている。
 日本。
 言葉は魔を孕み虚無に浮かぶ。
 モノは、生命は、泡の様に、浮かぶ、照らされて七色に輝く。
 それが崩れるモノならば、世界が波ならば、降る雨が光なら、揺れるのが生命ならば。
 世界がそのようにある物ならば、光を浴び焼き尽くされる我ら。
 テレビに映る爆発を見つめながら、恐怖に固まりながら、聞こえる。
 甘いささやきは、逃げ道を用意する。
 集められ、降り注ぐ、整列し安心した人々は、包まれる、不安を、ガイガーカウンターは検出する。
 予言者は薄笑いを浮かべる。
 羊は捧げられる、あらざる神が笑う。
 私は何に祈る。
 自分の中の、光の届かぬ、暗闇に。
 光から逃げて、永遠の虚無に向かって叫ぶ。
 不安は叫びを作る。
 叫びは不安を作る。
 我々は、放射能事故のニュースを聞きながら、確率から逃げ、確率に追いつかれる。
 恐れることはない、ずっと光はその内にあり、ずっと生命を焼き尽くし、我々はその度に蘇りながら生きて来た。
 安心してはいけない、過分の光は地に満ちて、我々はまだその中にいる。
 確率から逃げて、確率に追いつかれる。
 我々は、当惑しながら、一パーセントの悪がやってくるのを、呆然と眺める。
 確率の悪に身体が慣れるのを。
 いつか歴史が消え、全ては動かぬ零度となり、意味が消えるまで。
 何もかもが同じ、全てが終わるその時まで。
 きっと我々はいつまでも同じように悩みながら、瞬間にあせる。
 宇宙の歴史に比べれば、あまりにも短き生にいつまでもこだわってゆく。
 あまりにやすやすと、この地に横たわる生などに。
 それはたやすく波に飲み込まれたのに、我々はそれをまだかけがえのないものと思う。
 ——それでよい。
 海辺の集落、店も無く、狭く入り組んだ路地を抜け、見えた湾では海面が光り輝く。
 それはどこなのか思い出せないのだが、私はその記憶の中を走り続けることができる。
 もやの中に浮かぶ幽玄な島々を見下ろして走ったその道。
 それは何処だったのか。
 白い花の降る、林の中の道、波の音を聞きながら、藤の匂いが漂ってくる木漏れ日の照らす、樹木の作り出すトンネルの中を歩いたのは。
 涼しい風の吹く、海岸のそばを、赤く熟したサクランボが輝くのを見ながら、鳴く鳥の声を聞いたのは。
 それは今はそこにはない。
 海に飲み込まれ、打ちのめされ、横たわる、思い出。
 打ち捨てられた田んぼの中に、流された車が点在し、持ち主の取りに戻る事も無いその場所に。
 太陽に照らされた墓石は散乱し、それを直すものもいないそこで。
 しかし生きる、我々は、あるように、ある。
 思い出の地が消えていたとしても、それが時が過ぎれば消えてしまう、瞬間でしかなかったにしても、いや瞬間だからこそ、なにしろ、ここが永遠でないのなら、我々が瞬間ならば、それでこそ永遠を作り出せる。
 永遠などと言うものがもし無いのなら、積み重なる瞬間こそが世界なら、我々の瞬間は必ず何かを変えるのだから。
 ——この瞬間。
 私は数年前の福島の海岸沿いの道のりを思い出しながら、自分を逆らい難く魅了した、あの光の事を今でも覚えている。
 忘れない。
 いつのまにか光が消え、再び私を包んだ暗闇に不安になりながらも、緊張の解けたような感情が心の奥からわき上がってきたことを。
 漆黒の長く伸びる大地を、ゆっくりと車を走らせていたあの時。
 暗闇の中、失われた言葉が、私に、静かに語りかけてくるのを聞いたことを。
 私は夜を抜け、その中に言葉となって溶けて行く。
 そして過去は記憶の中に消え、そして私は残された希望へと走り出して行くのであった。
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