イグナイテッドネーム

萩原豊

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第三話 サイクロプス

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巨人の生み出した岩は、轟音を立てながら崩れ、元の大地に還った。その瞬間のことだった。

「お前は誰だ。」

崩れた岩の砂塵の中、一つ目の巨人が、こちらを見ながら言った。

「お前と同じ存在だ。」

「俺には、どう見てもお前がイグナイテッドには見えねえ。」

「後天的にイグナイトが与えられたんだよ。」

「俺はそんな事、聞いたことがない。」

「私はイレギュラーの中のイレギュラーだからな。イグナイトが与えられているが、厳密に言うとイグナイテッドではない。」

「お前、どこのユートピアから出てきたんだ?」

「キョウト ユートピアだ。」

「随分と長旅してきたんだな。」

巨人はそう言うと、大地に人差し指の先端が掛けた左手をかざし、一瞬で竈を創った。

「まあ休めよ。その様子じゃ何時間も歩きっぱなしだろ?」

「随分と鋭いようだな?」

「こう見えて頭は回る方でなあ・・・俺はサイクロプス。お前のイグナイトは何だ。」

「ニュートラル。」

「ニュートラルねぇ・・・イグナイトらしくねえイグナイトだ。」

「私は『どちらでもない』という理由でイグナイトを与えられたからな。」

「まあ少し待ってな・・・今、火を起こすからよ・・・」

「その必要はない。」

私は、その辺の木を高周波ブレード日本刀で斬り分け、それを組み立て、そこに手をかざした。

「ほう・・・火属性魔法か。」

「向こうじゃ重宝されてたんだけどねえ・・・」

「ユートピアの世界を知るイグナイテッド。初めて見るぜ。普通じゃありえねえからな。」

「ああ、私は普通だった。後天的に他の能力が覚醒し、染色体に異常がないにも関わらず普通から普通じゃないものにされたんだ。」

「災難なこった。・・・その能力ってのは何だ?」

「物に触ると、その性質を知ることができる。」

「ところでさっきの猿は何だ?」

「あれはゴリラだ。ガニメデにテラフォーミングされたと聞いていたが、休めそうな場所を見つけて飯の準備をしようとしたら、いきなり威嚇しながら近付いてきやがった。」

私の予想は正しかったらしい、だが、彼の方が知識に関しては私よりも優れているように見える。

「ゴリラのことを知っているのか?」

「そうか・・・イグナイテッドが本来どう言うものなのか、お前は後からイグナイトが与えられたから詳しく知らないんだな。」

サイクロプスは、私にイグナイテッドについて詳しく教えてくれた。

イグナイテッドは、産まれた瞬間からユートピアを追い出される訳では無い。

ユートピアにおいても、イグナイテッドはきちんと「人間」として扱われる。だが、イグナイテッドがユートピアの人間に会うことは基本的に無い。
イグナイテッドは産まれて直ぐ、専用の場所に移送されるからだ。

イグナイテッドに接触できるユートピアの人間は、検査をする者、世話をする者、協議するもの、イグナイトを与える者、そしてイグナイテッドを産み出した者だ。

イグナイテッドの両親にあたる人物は、産まれた人間がイグナイテッドだと認識された瞬間、ユートピアから追放される。

ユートピアの存在意義は、正常な遺伝子を残していく事だからだ。染色体に異常のある可能性がある者は、徹底的に排除される。

そうして、ユートピアの中で、いずれは人類の染色体が最終的に全てがFになる。

異常のあると判断された人間は隔離され、一定量の教育を施され、ユートピアが何の為に存在し、そしてなぜ自分自身はユートピアに居られないのかを教えられる。

そうして産まれて十七年経過すると、正式にイグナイトを「焼き付け」られ、外の世界に放たれる。

故に、ユートピアの外にいるイグナイテッド達は、生きて行く術を知っている。だが、イグナイテッドは染色体に異常を持つただの人間に過ぎず、ほとんどの場合外の世界で生き長らえることは出来ない。

ユートピアの外は、治安という概念は存在しないに等しい。自然が満ち溢れており、魔物やクリーチャー、アンドロイドのように人間以外の種族も数多く生息している。

この世界に生きているイグナイテッドのほとんどは、属性の力を操れる能力者達か、外の世界の集落の人間達と上手くやり取りできる賢い者くらい。そうでなければ、朽ち果てるのみ。

私は、「普通の」イグナイテッドに会ったことがない。

サイクロプスは一通り話し終わると、鞄から食料を取り出した。

「せっかくだから一服しようぜ、ニュートラル。」

そう言うと、サイクロプスは先端の無い指先で、岩の鍋を創り出した。
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