イグナイテッドネーム

萩原豊

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第四話 グルメな巨人

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サイクロプスの手には、肉の塊があった。

「何の肉だ?」

「鹿だ。この辺じゃ大量に居るからな。塩を揉みこんで味付けと防腐がしてある。」

「美味そうじゃないか。」

「お前の能力、見せてもらおうじゃねえか。」

「なんだ、火属性魔法をたった今見せただろう?」

「どれくらい使えるかが気になるのさ。火属性魔法って言ったって多岐にわたるだろう。好きな時にマッチ棒のような火を出せたり、森を焼き払う業火を生み出したり・・・」

「火属性の人間に会うのは初めてじゃなさそうだな。」

「今まで何人か会ってきたさ。殆どか集落における重要人物だった。」

「お前も長旅してきたんだな。」

「ああ・・・だがイグナイテッドが生きてくには、やっぱり辛い世の中だぜ。」

「大地を司る一つ目の巨人、だからな。」

「ああ、どの集落も俺の事をクリーチャーだと思いやがる。結局十七で放り出されてから、今までずーっと一人旅さ。」

私は、鍋の上に置かれた鹿の肉の様子を見ながら、火力を調整した。

すると、サイクロプスはなかなかに鋭い一言を放った。

「火ってのは、物が高速で酸化する現象・・・物質じゃあねえだろう?」

物質が高速で酸化する際に発生する「現象」、それが火だ。だが、火属性を操るものの中には火を生み出すきっかけを自ら作る事が出来るものも居る。

私にはそれが出来ない為、火を生み出すきっかけをアナログに生み出さなければ火を操れない。その分、私は他の火属性魔法使いよりも、火を器用に操る事が出来る。

「ああ、そうさ。私はその度合いを自在に操れる。」

「火はどうやって生み出したんだ。」

「このバッテリーをちょいとショートさせて火花を生み出しただけさ。」

私は、数時間前にアンドロイドから奪った、重力無視手裏剣搭載装置の残骸に搭載されていたバッテリーを見せた。

「なるほど、お前の『後から出た能力』ってのを利用した訳だ。これは・・・重力無視手裏剣か?お前、アンドロイドを破壊したのか。」

「ああ、アンドロイドの盗賊だったよ。」

「アンドロイドも落ちぶれたもんだな。」

「私たちが食っていくのと同じように、アイツらも電力が必要だからな。」

「余程器用な木属性が居るか、安定した電源が無い限り無限に稼働するのは無理だな。」

「電気さえあればワイヤレス充電が可能な全固体電池・・・便利なもんだぜ。」

「なのにメインバッテリーは奪わなかったのか?」

「高周波ブレードで微塵に斬っちまったし、容量の大きいバッテリーを持ち歩くとアンドロイド盗賊や電源を欲する盗賊から狙われ易くなるからな。私は面倒事は避けたい。だから前腕部の武装部分のスクラップだけ貰ってきたって訳さ。」

「いずれにしたって、重力無視手裏剣はアンドロイドかサイボーグじゃないと使えねえからな。」

サイクロプスは、見た目に反し随分と博識なようだ。やはり、私が知らない事も沢山知っているに違いない。

「サイボーグも重力無視手裏剣を使えるのか?」

「ああ、生体電気を専用コンデンサに圧縮すれば、瞬間的だがアンドロイドに匹敵する能力を持つ。」

「生体電気・・・物理エネルギーに出力する場合、エネルギー効率は悪いと聞いているが。」

「ああ、サブバッテリーを搭載していない場合、生体電気を使った後のサイボーグはバテちまう。実質的にこいつは、アンドロイドの特権って訳だな。」

「だが何故そんな事を知っている?サイボーグが重力無視手裏剣を利用するなんて聞いたことがない。」

「やり合ったからな。それを使ったサイボーグの盗賊と。」

「随分と異質な奴が居たもんだ。にしても最近随分と増えたな、サイボーグ盗賊。」

「ユートピアの人間だって、ユートピアが気に食わない事もある。だが、後から戻ろうとしたって、一度出たら二度と入れて貰えねえ。そうしてユートピアか出ていった人間やサイボーグが、他人と上手くやり合えず、一人で生きるしか無くなった成れの果てが盗賊さ。」

「サイボーグは身体の一部を機械化しているだけで人間だ。アンドロイドと違って自分で考える力が強い上に、普通の人間よりも力が強いからな。野蛮な奴も多い。」

「ああ・・・こうして話してみて思ったんだが、俺は外に出されるまで『ここはリバティだ』と教えられてきた。自由の地だ、とな。だが、まるで『ひとつの思想に従え』とでも言わんような教育をするユートピアって存在は、本当に『ユートピア』と言える場所なのかねぇ?」

「へっ、言うねえ。私が思うにユートピアは・・・ただの『楽園の真似事』だ。染色体の選別、後は生活の効率だけ求めて、自由と言える自由なんて実質与えられない、思想も統一された、個人という個人もない『地獄の牢屋』さ。笑えるぜ。」

「高層のメガ神殿、あれはリバティ、ユートピアのパロディ、か。笑えるな。」

私は、火力を調整しながらサイクロプスとそう話した。

「へぇ、器用なもんじゃねえか。」

「私の能力は、火という現象そのものをある程度操るものだからね。器用には扱えるが、流石に山を焼き払うような業火には出来ない。」

「限度があるのはお互い様、だな?」

「ま、属性魔法で操れる範囲なんて大概自分自身の質量か体積が限度だろ?」

「ああ、その点に置いて火はやはり特殊だな。水、金、火、木、土・・・火だけが現象だ。質量なんてない。」

「そして木も特殊だ。木だけが、属性でありながら生きている。木の属性を生まれ持っても、能力として使えるやつは私も見た事がない。」

「俺も未だに会ったことがねえからな、木は。」

「イグナイテッドなら、尚更出会う確率は低いだろうね。」

「イグナイテッドで能力を持つ事自体が珍しいからな。」

「だからユートピアの外の人間達の殆どはイグナイテッドとクリーチャーの区別が出来ない。能力の無いイグナイテッドは、外の世界へ放り出されても為す術なく、ただ朽ちていく。」

「そうして出会ったのがカゴシマ ユートピアから旅してきた俺とキョウト ユートピアから旅してきたお前。奇跡だな?」

「ああ・・・能力を駆使して生きているイグナイテッドは何人か見てきたが、私もこんなに強力な能力を持ったイグナイテッドは初めて見たさ。」

そう話している内に、鹿肉は良い具合に焼けていた。

「見事じゃねえか。火の通り具合もバッチリだ。」

「なんだ、随分と嬉しそうじゃないか。」

「俺は食う事が大好きでな。美味いものを食っていると、いつも思うんだ。」

「生きているってなんて素晴らしいんだろう・・・か?」

「その通り。俺は美味いものを食っている時だけ、生きていてよかったと思う。だから俺は、生きるために食うんじゃない。食うために生きている。」

「お前面白いな、サイクロプス。」
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