混虫

萩原豊

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第十五 新たなる目醒め

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目覚めよ
羽ばたけ
調和せよ


炎天下、アブラゼミの声がけたましく響いている。

まだ六月だというのに、今日はやたらと気温が高い。

まだ夕方前であるが、私は、いつものように愛車を走らせ、いつもの場所へと向かった。

道の駅は、ちょうど店仕舞いの時間だった。
セミの声、人の声の賑やかさは徐々に減ってゆき、じきに辺りは人の子一人居ない、静かで寂しい状態になった。

今日、いつもより早い時間にここへ来たのにも、もちろん理由がある。私には、一つの疑問があったからだ。

この場所は、夜間になると昆虫たちが集まってくる事は明確だが、実のところ、彼らがどこからやってくるのかが不明なのだ。

無論、水辺や山から来ていることはわかり切っているのだが、私は、彼らが具体的にどこから来ているのかが気になっていた。

夕方から陽が沈むまでこの場所で待っていれば、彼らがどこから飛来してくるのか、把握できるかもしれない。

しばらくして、陽が完全に沈んだ頃、光が常時灯っている場所に、一つの小さな影が飛んできた。
向かいの山の方から、コフキコガネが飛んできたようだ。

私は、少し離れた場所に移動し、車のヘッドライトを灯した。
光の場所を分散させることで、より、彼らが飛来してくる場所を把握しやすくなると考えたからだ。

案の定、光につられて次々と小さな影たちが集まってくる。どうやら皆一様に、向かいの山の中腹から飛来しているようだった。

もう、多くの甲虫達は活動を開始し始めている。

あるものは羽化し、あるものは休眠から目覚める。

それはもちろん、クワガタとて例外ではない。

コフキコガネがやたらと多いが、中には、ノコギリカミキリの姿もあった。オオゾウムシも居る。

向かいの山の中腹には、広葉樹が多数植っているに違いない。
ということは、カブトムシがその場所で育っている可能性が高い。

ノコギリカミキリは、広葉樹の幹に傷をつけ、樹液が流出するきっかけを作る。
オオゾウムシは、どんぐりや栗の実に穴を開け、そこに産卵する。

つまり、カブトムシが育成、生活できる場所は、そこなのだ。

この周辺一帯は、この場所以外人工の光はほとんどない。多少距離があっても、彼らが灯火に釣られてここに来ることは、なんら不自然ではない。

夜は深まり、時計の短針は九、長針は十二を指していた。

少し待っていると、ヘッドライトに、今までよりも大きな影が飛来してきた。
その影は、ヘッドライトに直撃し、真下に落ちた。

私は、即座にその影を確認すると、少し驚いた。

その影は、なんとも立派なカブトムシの雄だったのだ。
この時期に彼らが活動を始めるのは、それほど珍しいことではない。だが、カブトムシは、甲虫の王者たる存在。

その中でも大型で強い個体が、灯火に釣られてここまで飛来してくることは、珍しいことであった。

違和感を覚えつつも、私は、そのカブトムシをケースに入れた。

しばらくすると、先程よりも遥かに小さな影が飛んできた。

私の大好きな、アレだ。

それは、綺麗な、艶のある黒色をしており、平たい。
そう、コクワガタだ。

コクワガタは、安定した餌場だけでなく、隠れられる隙間の多い場所を好む。
それは樹皮の隙間のみならず、人工物とて例外ではない。

向かいの山は、ちょうど高速道路の建設の為、部分的に開拓されている様子であった。
飛来してきたコクワガタの体表には、灰色の粉状のものが付着していた。おそらく、コンクリートだ。

どうやら、建設中の高速道路の脚として用意されたコンクリートの隙間に、彼は住み着いているらしい。

そこで、私の中で一つの予想が生まれた。

先程の大型のカブトムシは、今日、ちょうど建設のために切り崩された木を縄張りとしていたのではないだろうか。

そうして、自らの縄張りを奪われた彼は、新たなる縄張りを探してここに来た、などと考えていると・・・

「化学者 タッチ ザ エクスプロージョン」

奇妙奇天烈ながらやかましい音楽が、唐突に静寂を斬り裂いた。
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