聖剣転生!~短小だからって、ナメないでもらってイイですか?

トキノトキオ

文字の大きさ
3 / 24
第一章 聖剣に転生?

剣霊グレゴリオ

しおりを挟む
 オルシュタイン家は、首都から随分と離れた北の最果て、ノーザンランドにあった。辺境と言っていいだろう。よく言えば自然豊か、悪く言えばド田舎で何もない。
 土曜日、村外れの大木の下にロイとそれを取り囲む子供たちの姿があった。

「ハンッ! それが聖剣だと? ふざけんな!」

 ロイは下を向いて立っていた。短剣な俺を持って。
 
「ふ、ふざけてなんてないよ。本当だもん……」
「ふーん~どーせオマエ、俺らじゃあ本物がどうかわからないとか思ったんだろ?」
「そ、そんなことは……」
「おい、アレを持ってこい!」

 アルベルトが裏に居た仲間に声をかけると、仲間たちは何人かがかりで大剣を運んできた。

「ロイ、これがなんだかわかるか?」
「え? ……わ、分からないけど……も、もしかして……」
「そうそう。そうだよ。そのとーりだよ。俺の聖剣だ!」
「ア、アルベルトぉ~、それはお父さんの、領主様の聖剣だろ?」

 アルベルトが叫ぶと気の弱そうな痩せ男、トムが泣き言を言った。

「おいトム! オマエも締めるぞ? これは将来パパから引き継ぐ。だから俺のもんって言ってもいいんだよ! わかったか?」

 なるほど。この世界で生きていくにはジャイアン的思考の方が有利なのかもしれない。

「あ、ああ……そうだね、そうだよね。でもさ、でもさ、これ、持ち出したのはアルベルトの指示だからね、ぼ、ボクらは、アルベルトの指示に従ってるだけだからね」
「おーいトム、トムトムトム~。それ以上言うと、ロイの次はオマエの番だからな!」
「わ、分かったよ」
「分かったら抜け! 聖剣を抜くんだよ!」
「あ、ああ……」

 数人がかりで剣を鞘から抜くとアルベルトが叫んだ。

「レアライズだ! グレゴリオ、やっちまえ!」

 ――ドサッ
 
 と、鞘から抜かれた聖剣が音をさせて土にめりこむと、光がはじけた。次の瞬間、聖剣の横に男が現れた。男は一度舌を鳴らしたあと、のっそりと聖剣を掴んだ。それこそが聖剣の精霊、剣霊グレゴリオだ。

「う、うわぁぁあああ」

 ロイは驚いて腰を抜かしてしまった。ああ、それもそうだろう。俺だって驚いた。腰があれば抜かすほどにな。だって、そうだろ? 聖剣から剣霊が出るところを見るのはこれが初めてのことなんだ。

「オイ、アルベルト! 俺サマを勝手に持ち出すなと、言ったハズだろ? ったく人が心地よく寝ている間に持ち出しやがって! 俺サマはな、オマエのような低級なガキにいいようにされる存在じゃねーんだよ! 聖剣サマなんだよ!」

 剣霊グレゴリオは、まさに戦士といった風体で、ぶ厚い胸板、丸太のような手足をしていて半裸姿に甲冑を着ていた。
 しかし、俺の印象――聖剣の精霊である剣霊へ抱いていた正義の印象とは真逆の……悪党にしか見えない。

「そ、それは、そうだけど、アイツ聖剣を持ってるって自慢しやがってたから、グレゴリオも言ってたろ? 聖剣を持ってるヤツが現れたら知らせろって」
「ふーん……」

 グレゴリオは、怪訝けげんな顔をしてロイの持つ小剣、つまりは俺に顔を近づけた。

「オイ、キサマ、ちょっと出てこい」

 グレゴリオは小剣な俺をつまみ上げると勢いよく振り下ろした。

「出てこいって言ってるだろうがぁぁああああ!!!!」

 もちろん、俺は外に出るすべなど知らないし、そもそも出れるかもわからなかったから何も起こらない。すると納得がいかないグレゴリオは顔を真っ赤にして俺を振り続けた。

「なぜ出てこん! キサマが聖剣であることは臭いで分かってる。しらばっくれようったって容赦はせんぞ!」
「いや、あ、あ、あの……出かたが……わから……ないんだが……」
「ん?」

 俺の声が聞こえたのか、グレゴリオは俺に耳を近づけた。

「もう一回言ってみろ」
「出たくても、出かたが分からないんだよ!」
「は? はははははははぁ~! マジか? マジなのか? とんだ駄剣じゃないかよ! 具現化レアライズできない聖剣がいるとはな!」
「グレゴリオ、そいつ本当に聖剣なのかい?」

 アルベルトはそれが聖剣と言われ、ロイ以上に驚いた。低級貴族のロイが聖剣を持っている事実はかなりの衝撃なのだろう。

「ん? あ~、まあ、こいつは聖剣は聖剣でも、出来損ないもいいとこだ。聖剣協会に登録もされちゃいないサ。どうせノラだろ」
「きゃはははは~持ち主も剣もどっちもクソってことだなあ~あはははは。オマエんとこの姉ちゃんもアバズレとかいうヤツらしいぜ~アッバズレ! アッバズレ!」
「ね、姉ちゃんの悪口は言うな!」

 ロイのバカは何を血迷ったか、俺=小剣をもって斬りかかった。しかし……

 ――ガシッ
 
 グレゴリオに簡単に腕を掴まれてしまった。

「オイ小僧。知らんとは言わさんぞ? 聖剣を使った果し合いは、命のやり取り。どうやら命が要らぬようだな。覚悟せよ。駄剣といえども聖剣の端くれ、我が経験の足しとなれ! ノラなら協会に報告もいらんしなあ~」

 グレゴリオはロイを片手で投げ倒してしまうと、真上に聖剣を振り上げた。その肉厚な刀身が赤黒く光って見える。

 ――ウォォオオオオオオ!

 グレゴリオの容赦のない雄たけびが響き、もはやこれまで、と覚悟を決めた瞬間。

「聖剣さま、お待ちください!」

 リルルがどこからともなく現れ、剣筋の前に飛び出てきた。

「なにおう!」

 ――ガスっ
 
 突然、方向を狂わせられたグレゴリオの剣は、なんとかリルルを避けると大地を深くえぐった。

「キサマ! 聖剣の決闘を邪魔立てするとは、どーいうつもりだ!」
「ど、どうか、お許しください。ロイはまだ子供ですので……」
「ふんっ! 決闘に子供も大人もないことは知っているだろう?」
「さ、されど、そこをどうか……どうか、お許しください」
「ほほう……よく見ればお主、良い胸をしているな?」
「きゃっ」

 な、なにおう! グレゴリオのヤツはリルルの胸を鷲掴みに掴んだ。俺でも、俺でも触ったことないってのに! いや、それどこじゃないか今は。

「で、あれば……だ。オヌシしだいとしよう」
「……と、おっしゃいますと?」
「オヌシもそれなりの年なのだから、わかっているだろう?」
「えっと……その……なんのことでしょう?」
「我が屋敷に来い! さすれば、そこの小僧のことは許してやろう」
「そ、それだけで良いのですか?」
「ちっ、我が屋敷に来て我の言うことを一晩きくのだぞ?」
「は、はい……それくらいでしたら……」

 リルルは引きずられるように連れ去られていった。逃げ出そうともせずに。
 
「リルル! オマエバカか? バカだバカだと思っていたが、本物のバカなのか? ノコノコ行ったら、どんな目に合うのかわかっているのかよ!!!!」

 いくら叫んでも、剣のままの俺の声はリルルにもロイにもとどかなかった……

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...