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第七話 北上セヨ
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九月に越夏も終わり、俺たちは十月下旬まで旧盛岡市街に留まって仕事をしていた。
仕事もひと段落し、これからの行動方針を決めようとした矢先――
「タツヤさ~ん!!衛星と通信できなくなりました!!」
とゼロが泣き顔で言ってきた。
「何?本当か?」
「はい~!!何回もやってるのにい~~!!」
「落ち着け、ゼロ。偶然かもしれないから、明日まで待ってもう一度通信しろ」
「分かりました~!!ベントラ~~ベントラ~~!!」
だからそれで通信できたら苦労してないって。
結局、丸一日待ってはみたものの――
「ゼロ、どうか?」
「駄目です~!応えてくれません~~!!」
……とのことだった。
俺がこの仕事をするうえで受けた命令の中で、特に重要なものが三つある。
生体反応で探知された人間を可能な限り安楽死させること。
それを行わなかった場合、旧文明収束官補助用有機型人工知能によって殺されること。
そして――
衛星との通信が途絶えた場合には仕事を中断し、青森県に向かって北上すること。
この三つだ。
すなわち、衛星との通信が途絶えた今、俺たちは青森に向かって北上しなければならない。
だが懸念点が一つある。
それは、盛岡以北の気温が低い地域にはまだまだ多くの人間が居住しているということだ。
人間が多いということは、争いが多く起こる。
すると当然、追いはぎ、人さらい、人殺し等々……物騒なことが多く起こる。
まあ、人殺しについては人のことは言えないが……
そんなことを心配していると、ゼロが――
「タツヤさん、大丈夫です。あなたのことは御守りしてみせます!」
と気合いの入った表情で言ってきた。
「大丈夫か、ゼロ?」
と返すと、
「大丈夫です!私が強いこと、タツヤさんも知っているでしょう?」
とふふんと胸を張った。
ゼロがそう言うなら――
「北上しよう、ゼロ。」
俺はそう告げた。
俺たちは、旧東北新幹線の高架橋を歩くことにした。
基本的には人間たちは地上で暮らしているから、接触を避けるには有効だ。
「タツヤさん、意外と何も起こりませんねえ~」
「そうだな、高架橋を歩くってのは我ながらナイスアイデアだった」
「ところで、他の収束官の方が見当たりませんねえ~?」
たしかに、同じ考えで高架橋を歩く奴がいてもいいはずだ。
だが衛星が使えない今、どのみち同業者がどうしているかは分からない。
「とにかく青森に行くしかないな」
そうゼロに告げ、足を速めた。
「タツヤさん、前方四百メートル生体反応ですッ!」
盛岡を出てまもなく最初の駅に着こうかという頃、ゼロがそう告げた。
「ずいぶんと近くなってから気づいたな、ゼロ」
「たぶん建物の中です!」
「なるほど、駅の中にいたのか」
遮蔽物のせいで気づけなかったようだ。
「ゼロ、コマンド。戦闘モードに」
「はいッ!移行しますッ!」
ガションガションと音がするや否や、ゼロがスカートの中にライフルを構える。
「タツヤさん!生体反応が接近してきました!」
気づかれたか。
「ゼロ、攻撃を許可する。お前の判断で撃っていい」
「承知しました!」
俺も銃を構える。ゼロに比べたら俺の戦闘能力はかなり低いが、無いよりましだ。
近づいてきたのは――
銃を構えた、一人の男だった。
年齢は四十代くらいか……
「貴様ら、何者だ!?」
二十メートルに近づいたくらいで、男が叫んだ。
「俺たちは青森を目指して北上しているものだ。通してくれないか」
「北上の目的を言え!話はそれからだ!」
「俺たちの目的は……」
衛星の通信が途絶えたからだ、なんて言うわけにもいかない。
「旅行だ。」
「ふざけているのか、貴様!?」
「このメイドが行きたいというものでね、仕方なくだ」
「えへへ、そうなんです」
仕事のときは俺の意図をちゃんと汲めるんだな、ゼロ。
「もういい!!」
男が空に向かって銃を撃った。
どん。と大きな音がするや否や、駅に隠れていた仲間たちが走り出してきた。
次の瞬間――
ゼロのライフルが火を吹いた。
誰何してきた男はゼロに対して油断していたようで、銃を撃つことなく倒れ込んだ。
後続の仲間たちはそれを見てこちらに発砲してくるが、当たらない。
それに対してゼロは次々と命中させていく。
当然だろう。
一般の日本人で銃の扱いに慣れた人間は多くない。
しかもまだ百メートルは距離がある。
ましてやここは廃高架橋で、折れた架線柱なんかが障害物になっている。
格闘能力の優れたゼロに対して命中させるのは不可能と言っていいだろう。
あらかた男たちを片付け終え、こちらに向けて発砲してくるものはいなくなった。
ゼロはバイタルを確認してまわっており、まだ息があるものには薬剤投与を行っている。
意外と人数が多く、ゼロがわたわたと忙しそうだ。
バイタルの確認だけでも手伝うか。
そう思い、俺も呼吸や脈拍の有無をみることにした。
しばらく二人で後始末していると、ゼロが不思議そうな顔をしている。
「ゼロ、どうした?」
「タツヤさん、遠くからヘリコプターの音がします。」
「ヘリ?」
そんな馬鹿な。
こんな時代にそんなものがあるはずがない。
「聞き間違いじゃないのか?」
「そんなわけありませんよ~!!こう見えても耳だけは良いんですから~!!」
そう言ってゼロはぷりぷりと怒っている。
こう見えてもって、自分で言っちゃってるじゃないか。
そんなことを考えているとたしかにヘリのような音が聞こえてきた。
すると間もなく北の方からヘリが現れた。
俺たちが唖然としていると、ヘリは梯子を降ろし、一人の男が高架橋に降下した。
するとこちらに近づき、
「タナカタツヤ旧文明収束官ですね?お迎えに上がりました。」
と告げた。
「貴様、何者だ?」
「残念ながら、私にはそれにお答えする権限はありません。」
「俺たちをどうする気だ?」
「私はお二人を旧青森県までお送りするよう仰せつかっております。」
怪しいがここは従うしかなさそうだ。
俺たちのことを知っているうえに、そもそもヘリを運用できている時点で只者ではない。
「分かった、従おう。ゼロ、銃を収めろ」
「……分かりました。」
そういうと、ゼロはいつの間にか男に向けていた銃を下ろした。
「このままヘリに乗っていただきます。どうぞこちらへ」
男はこちらを促した。
俺とゼロがついていこうとした瞬間、後ろの方からうめき声がした。
どうやら俺がバイタルの確認を誤って、まだ生きている奴を見逃していたらしい。
するとその男が
「うう、サッポ……」
と言いかけたが、その瞬間――
ゼロの放った弾丸が、そいつの脳天を貫いた。
仕事もひと段落し、これからの行動方針を決めようとした矢先――
「タツヤさ~ん!!衛星と通信できなくなりました!!」
とゼロが泣き顔で言ってきた。
「何?本当か?」
「はい~!!何回もやってるのにい~~!!」
「落ち着け、ゼロ。偶然かもしれないから、明日まで待ってもう一度通信しろ」
「分かりました~!!ベントラ~~ベントラ~~!!」
だからそれで通信できたら苦労してないって。
結局、丸一日待ってはみたものの――
「ゼロ、どうか?」
「駄目です~!応えてくれません~~!!」
……とのことだった。
俺がこの仕事をするうえで受けた命令の中で、特に重要なものが三つある。
生体反応で探知された人間を可能な限り安楽死させること。
それを行わなかった場合、旧文明収束官補助用有機型人工知能によって殺されること。
そして――
衛星との通信が途絶えた場合には仕事を中断し、青森県に向かって北上すること。
この三つだ。
すなわち、衛星との通信が途絶えた今、俺たちは青森に向かって北上しなければならない。
だが懸念点が一つある。
それは、盛岡以北の気温が低い地域にはまだまだ多くの人間が居住しているということだ。
人間が多いということは、争いが多く起こる。
すると当然、追いはぎ、人さらい、人殺し等々……物騒なことが多く起こる。
まあ、人殺しについては人のことは言えないが……
そんなことを心配していると、ゼロが――
「タツヤさん、大丈夫です。あなたのことは御守りしてみせます!」
と気合いの入った表情で言ってきた。
「大丈夫か、ゼロ?」
と返すと、
「大丈夫です!私が強いこと、タツヤさんも知っているでしょう?」
とふふんと胸を張った。
ゼロがそう言うなら――
「北上しよう、ゼロ。」
俺はそう告げた。
俺たちは、旧東北新幹線の高架橋を歩くことにした。
基本的には人間たちは地上で暮らしているから、接触を避けるには有効だ。
「タツヤさん、意外と何も起こりませんねえ~」
「そうだな、高架橋を歩くってのは我ながらナイスアイデアだった」
「ところで、他の収束官の方が見当たりませんねえ~?」
たしかに、同じ考えで高架橋を歩く奴がいてもいいはずだ。
だが衛星が使えない今、どのみち同業者がどうしているかは分からない。
「とにかく青森に行くしかないな」
そうゼロに告げ、足を速めた。
「タツヤさん、前方四百メートル生体反応ですッ!」
盛岡を出てまもなく最初の駅に着こうかという頃、ゼロがそう告げた。
「ずいぶんと近くなってから気づいたな、ゼロ」
「たぶん建物の中です!」
「なるほど、駅の中にいたのか」
遮蔽物のせいで気づけなかったようだ。
「ゼロ、コマンド。戦闘モードに」
「はいッ!移行しますッ!」
ガションガションと音がするや否や、ゼロがスカートの中にライフルを構える。
「タツヤさん!生体反応が接近してきました!」
気づかれたか。
「ゼロ、攻撃を許可する。お前の判断で撃っていい」
「承知しました!」
俺も銃を構える。ゼロに比べたら俺の戦闘能力はかなり低いが、無いよりましだ。
近づいてきたのは――
銃を構えた、一人の男だった。
年齢は四十代くらいか……
「貴様ら、何者だ!?」
二十メートルに近づいたくらいで、男が叫んだ。
「俺たちは青森を目指して北上しているものだ。通してくれないか」
「北上の目的を言え!話はそれからだ!」
「俺たちの目的は……」
衛星の通信が途絶えたからだ、なんて言うわけにもいかない。
「旅行だ。」
「ふざけているのか、貴様!?」
「このメイドが行きたいというものでね、仕方なくだ」
「えへへ、そうなんです」
仕事のときは俺の意図をちゃんと汲めるんだな、ゼロ。
「もういい!!」
男が空に向かって銃を撃った。
どん。と大きな音がするや否や、駅に隠れていた仲間たちが走り出してきた。
次の瞬間――
ゼロのライフルが火を吹いた。
誰何してきた男はゼロに対して油断していたようで、銃を撃つことなく倒れ込んだ。
後続の仲間たちはそれを見てこちらに発砲してくるが、当たらない。
それに対してゼロは次々と命中させていく。
当然だろう。
一般の日本人で銃の扱いに慣れた人間は多くない。
しかもまだ百メートルは距離がある。
ましてやここは廃高架橋で、折れた架線柱なんかが障害物になっている。
格闘能力の優れたゼロに対して命中させるのは不可能と言っていいだろう。
あらかた男たちを片付け終え、こちらに向けて発砲してくるものはいなくなった。
ゼロはバイタルを確認してまわっており、まだ息があるものには薬剤投与を行っている。
意外と人数が多く、ゼロがわたわたと忙しそうだ。
バイタルの確認だけでも手伝うか。
そう思い、俺も呼吸や脈拍の有無をみることにした。
しばらく二人で後始末していると、ゼロが不思議そうな顔をしている。
「ゼロ、どうした?」
「タツヤさん、遠くからヘリコプターの音がします。」
「ヘリ?」
そんな馬鹿な。
こんな時代にそんなものがあるはずがない。
「聞き間違いじゃないのか?」
「そんなわけありませんよ~!!こう見えても耳だけは良いんですから~!!」
そう言ってゼロはぷりぷりと怒っている。
こう見えてもって、自分で言っちゃってるじゃないか。
そんなことを考えているとたしかにヘリのような音が聞こえてきた。
すると間もなく北の方からヘリが現れた。
俺たちが唖然としていると、ヘリは梯子を降ろし、一人の男が高架橋に降下した。
するとこちらに近づき、
「タナカタツヤ旧文明収束官ですね?お迎えに上がりました。」
と告げた。
「貴様、何者だ?」
「残念ながら、私にはそれにお答えする権限はありません。」
「俺たちをどうする気だ?」
「私はお二人を旧青森県までお送りするよう仰せつかっております。」
怪しいがここは従うしかなさそうだ。
俺たちのことを知っているうえに、そもそもヘリを運用できている時点で只者ではない。
「分かった、従おう。ゼロ、銃を収めろ」
「……分かりました。」
そういうと、ゼロはいつの間にか男に向けていた銃を下ろした。
「このままヘリに乗っていただきます。どうぞこちらへ」
男はこちらを促した。
俺とゼロがついていこうとした瞬間、後ろの方からうめき声がした。
どうやら俺がバイタルの確認を誤って、まだ生きている奴を見逃していたらしい。
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