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038:地下7階1
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6階にまだ気になる場所はあったが、目の前にある7階への階段の方が優先されるものだった。階段室で小休憩を取ったクリストたちは慎重に階段を下りていく。
その先は相変わらずの薄暗がりで、階段を下り立った場所の正面は壁、そして通路が左右へと伸びていた。
右から調べていくことに決めると通路を進み始めるが、しばらく進んだ先でフリアが立ち止まり右側を気にしている。そしてすぐ先で通路を右へより、そのまま身を乗り出した。
「おい、どうした?」
近づいてみるとすぐにわかった。右側の壁がなくなり手すりのみに変わっている。その手すりの向こう側は吹き抜けになっているのか、天井よりもはるかに高く、そして床面よりもはるかに深く、薄暗い空間が広がっていた。
6階にあったのとほぼ同じくらいの大きさの吹き抜けだろうか。位置が違うはずなのでこの上方向の空間は6階につながっているわけではないだろう。薄暗がりの中で遠くの対面になる壁がかすかに見え、一部には壁がなく手すりがあるようにも見えた。対岸かもしれない。そして左手、まだ遠くだが、そちらは対面の壁がないのか、空間が続いているようにも見える。だとしたらこの吹き抜け部分は相当に大きいということになった。
「上も下も何もなさそうに見えるな」
「明かりもないようだし、ここからロープを下げたら8階に行けるとかはないんだろうね、きっと」
「そんな都合のいい場所は用意してくれないだろうよ。とはいえたいまつの1本も投げ込んでみるか。それで様子は分かるだろう」
念のため持ってきていたたいまつに火を付け、それを吹き抜け目掛けて投げ込んだ。
火が小さくなりながら空間を下へと落ちていく。
カッとかパンッとかいう音が聞こえた気がして、見えていた火が消えた。そしてはるか下の方から何か黒い塊が浮上してくる。
次第にその姿が見えるようになってきた。大きい。鳥やコウモリではない。羽ばたく翼はコウモリのようで、しかし厚みがあった。長い尾にはたくさんのトゲ。赤い目と鋭い牙をむき出しにした口。それは大きく羽ばたくとそのまま空間を上昇し、身をひるがえしてそのまま向こうへと遠ざかっていった。
「‥‥何だ、今の」
「‥‥さあ、知らない魔物だね」
「いずれにしてもロープを使って降りるとかやめとけってことでしょ。ちゃんとそれ用の魔物がいるってことなんでしょ」
「そういうことだろうな。正規の手順を踏めって言っているんだろう」
ロープを使って降りるとなれば当然手はふさがる。その状態であれに襲われて無事でいられる自信はなかった。降りた先に何があるのかないのかも定かではないのだ。大人しく階段を探した方がいいだろうと思えた。
「待って、何か来るよ」
フリアが警告する。吹き抜けに見入っている場合ではなかったようだ。
「たぶんオーク」
「またオークかよ、好きだな」
「ここで使うのにちょうど良かったんだろうね。数は2」
「あー、1体は普通にやるぞ。それで1体残してここに落としてみよう。エディ、押さえてくれ」
「分かった」
指示を受けてエディが手すり側に動く。
通路の先の方に歩いてくる魔物の姿が確認できた。
「ファイアー・ボルト!」
フェリクスとカリーナが魔法を放つ。念のため2体ともにダメージを与えることにした。吹き抜けに落とすにしても体力を削っておいた方が楽だろう。
2体並んだオークがこちらを見てほえ、そして斧を振り上げて迫ってくる。
右側の1体はエディが引き取り、盾と斧を使って器用に攻撃をさばいていく。もう1体はそのままクリストが切り刻んで終了だった。
「よし、落とそう。足をつぶす」
続けてもう1体のオークの足に切りつけ、そのダメージに体勢の崩れたオークをエディが盾を使って手すりへと押し込んでいった。ふらついたオークが斧を手から放し手すりにつかまる。その手にエディが斧をたたつけると、クリストが足を持ち上げるようにしてオークの巨体を手すりの向こう側へと投げ込んだ。
ガーとかギャーとか叫んだ声は悲鳴だろうか。オークの巨体が吹き抜けの闇へと飲まれていく。小さくなっていくその体が不意に横に流れ、そしてバキッという音とゲッとかギャッとかいう声が聞こえて、そして静かになった。
「あー、これは他にもいるな。何かは知らんが、何かいる。さっきのと同じやつか違うやつか、この吹き抜けはダメだな」
「確定でいいだろう。この吹き抜けは危険だ。魔物を落とすのには使えるがこっちも落とされる危険がある。気をつけよう」
何しろ手すりしかないのだ。うかつに強風が吹くような魔法を使えば転落の危険があるということで、そしてそういう行動にでる魔物がいないとも限らなかった。有利になるのは自分たちだけではないのだ。
吹き抜けを右手に見ながら通路を進むと途中で左に分かれ道があった。その道は少し先で丁字路にぶつかっている。
「左に気配がある。たぶんオークなんだけど、数が多い気がする。3かも」
「オークがまとめて3は初か? さっきの2と合わせればほぼ同じ場所に5だ。これは調整が入ったかもな」
「そんな気がしてきた。気をつける」
今まで3以上でまとめて配置されていた魔物は5階のボスを除けばせいぜいゴブリンだ。ここに来てオークという一定以上の脅威度の魔物を3体という数で置いてきた。しかも増援があり得る配置だ。これは難易度が上がったと見て間違いないだろうと思われた。
「オークはスリープでいけるか?」
「1か2ね、3は無理よ」
「よし、それで行こう」
方針は決まった。丁字路を左に曲がってすぐということならばここから届く。まだ動き出していないのならば問題ないだろう。
丁字路に飛び出し左へ。エディが先頭を切りクリストも続く。その肩越しにカリーナが魔法を放った。
「スリープ!」
動き出していた内の右手前と奥にいるオークが膝を折るようにして地面にうずくまった。どうやら2体が眠ったようだ。残る1体が驚いたように視線を動かす。
その隙を逃さずにエディが斧をたたきつけ、そしてクリストが剣で切り裂いた。
先手を取ってしまえばオークなど敵ではなかった。眠ってしまった2体はそのまま急所に剣を刺して終了だ。
「宝箱があるよ」
オークの体に隠れて見えなかったが部屋の奥には宝箱があったようで、すでにフリアが取り付いていた。
「鍵あり、罠なし、開けるね」
すぐに解錠し開けた箱の中身は宝石だった。
「これはこれで良し」
それを革袋にまとめて入れて腰に下げる。かさ張らず金に換えられる宝石は意味の分からない魔道具よりも今は都合が良かった。
部屋を出ると右の通路へは戻らず正面に進む。その先で通路は右へ折れ、そしてどうやら先ほど進んでいた吹き抜け沿いの通路と合流したようだった。位置の確認のため、右へ進んでみると左の壁に扉を発見、そしてその先で吹き抜けにたどり着いたが、吹き抜け沿いに左にも分かれ道が伸びていた。
少し引き返す格好にはなるが、念のため折り返して先ほどの合流地点へ。そしてそのまま先へ進んでみたが、そこは扉で行き止まりになっていた。扉を後回しにして通路を埋める作業を先に済ませることに決めると、吹き抜け沿いの分かれ道へ進む。
その通路はしばらく進んで左へ折れ、そして右への分かれ道が現れる。正面へそのまま進み、長い真っすぐな通路を進んでいくと扉にたどり着いた。引き返して分かれ道を行くには少し距離があったため、この扉を調べることにする。
フリアがしゃがんで扉を調べようと鍵穴の近くに手を置くと、最後尾、カリーナのさらに後ろでガタンッという物の落ちる大きな音がした。
「きゃっ」
小さく叫び声を上げたカリーナは慌ててすぐ前にいたクリストの背後に近づき後ろを振り返った。
そこには木製のイスが1脚、転がっていた。
「え? え? これが落ちてきたの? え? どこから?」
通路の天井は相変わらずの石組みだ。穴も何もない。だがあの音はこれが床に落ちた音だろう。いったいどこから現れたのか。
カリーナは制止したが、不審そうに近づいたフェリクスがスタッフの先でイスをつつく。
「何もないね、ただのイスなんじゃないかな。一応ディテクト・マジックで見てみようか。うん、特に何の反応もないね、ただのイスなんじゃない?」
「それこそ何でただのイスが落ちてきたのよ、何なの‥‥」
驚かされたカリーナとしては納得がいかないようだったが、イスはただのイスのようだった。
フリアがもう一度扉を調べ始めるが今度は特に何も起こらない。
「鍵あり、罠なし、気配なし。開けるよ」
解錠し、扉をそっと押し開ける。部屋の中にランタンの明かりが差し込むと、そこには剣や盾を持った人骨のようなものがいくつか転がっていた。
「これは嫌な予感がするよ」
気配はなかったがダンジョンに装備を持った人骨があって警戒しないわけがない。
「スケルトンの可能性大ってとこだな。そのつもりで行こう」
「もうここからやっちゃわない?」
驚かされて苛立っているカリーナが進言する。それも一つの手だった。
「そうだな、ここで試せばここから先でも確定になる。やっておくか、手前のやつでいいぞ」
「ふんっ。ファイアー・ボルト!」
気合いを入れたカリーナが魔法を放つと、炎の矢が手前側で倒れている骨に命中する。
一瞬剣を持った手を上げたようにも見えたが、その骨はそのまま炎上して崩れ去った。だがその後方で、2体の人骨が立ち上がろうとしていた。やはりスケルトンだったようだ。
しかしこちらはすでに準備ができている。
エディとクリストが武器を構えてそこへ突撃した。まだ起き上がり切れていないスケルトンなどただの的だ。そのまま武器を振り回して倒しきることができた。
「まあこんなもんだな。そしてアンデッド確定ってことだ。ここからはいろいろ出るかもな」
どうやらアンデッドの本格的な運用が始まったようだった。
「剣とか盾とかはいらないかな? ね、宝箱があるよ」
部屋の右奥の隅には宝箱が置かれていた。ここではスケルトンを目立たせるために位置を変えたのだろうか。いつもなら奥の壁の中央なのだが。
「鍵あり、罠なし、開けるー、お、ポーション発見」
見つかったのはいつもの形をした瓶に入った液体だった。これは何かのポーションということでいいのだろう。瓶の中には液体ではなく、雲のような霧のような、白い綿のようなものが流れるように動いていた。手を止めてもそれは動き続けている。相変わらずこのダンジョンは普通のポーションを出す気がないようだった。
「よし、これでいいだろう。武器とかはそのままでいいぞ、いらんいらん」
装備品を持っていったところで邪魔になるだけだった。
魔石もスケルトンの場合は心臓の辺り、ろっ骨を開けばすぐに見つかる。後始末は簡単に終わった。
「イス、消えているね」
部屋に入り完全に意識の外に置かれていたイスのことが再びよみがえるが、その姿形はすでに通路からは消えうせていた。スタッフでつつけたのだ、幻ではなかったはずだが、すでに驚かすという役目を終えたためか、消えてしまっていた。
「嫌がらせのためだったってこと?」
両手でスタッフを握ったカリーナが怒りか恐怖からかは分からないがぷるぷると震えながら言う。
「何となーく、嫌な感じがする」
フリアが再び先行して探索に戻る。次は分かれ道の先で、そこへ入りしばらく進む。
「ん、手すりがある。吹き抜けの続きっぽい」
気がついたフリアが駆け足でそちらに近づき、手すりにつかまって吹き抜けを見渡した。
「っ!!!」
突然フリアが飛び上がるようにして後退し、そのまま腰を落とすような格好になって下がってきた。
「!おい、どうした!?」
「‥‥、びっっくり、した」
そっちそっちと指さした先には吹き抜けの手すりがある。クリストがそちらに近づいて手すりにつかまり、吹き抜けをのぞき込んだ。
「いや、さっきと同じ――」
言いかけたその時だった。眼下、床面のすぐ下辺りからだろうか青白い腕が幾本か、ばっと勢いよくクリスト目掛けて差し伸べられた。そのうちの1本は手すりにつかまるクリストの手の上にかぶせられようとしていた。
クリストは思い切り手すりから下がって剣の柄に手をやった。
額を汗が流れ落ちるのが分かる。今の手は何か。青白くはあったが、確かに人の手のようだった。
だが目の前の手すりには、その向こう側の吹き抜けの薄暗がりには何もなかった。何もいなかった。
「手が、こう」
後ろでようやく立ち上がったフリアが言っている。やはり同じように見たようだ。
「下から手が上がってきた、人の手のように見えたんだが」
「え、何もいないよ? 何も見えなかったし」
足元から上がってきていたのだ、背後からではそれは見えはしないだろう。
「ねえ、ここちょっと嫌な感じがしない? さっきのイスもそうだけど、嫌がらせ目的じゃないわよね」
「あー、いわゆる精神攻撃だな? そうだな? そういうことにしよう。はー、勘弁してくれ」
精神攻撃ならば知っている。幻覚を見せるのだ。自分の体が傷ついたような錯覚を見せて恐怖心を抱かせる、何か強大な巨大なものに相対していると見せかけて何もさせずに敗走させる、そういう技だ。そう考えれば理解はできる。
その先は相変わらずの薄暗がりで、階段を下り立った場所の正面は壁、そして通路が左右へと伸びていた。
右から調べていくことに決めると通路を進み始めるが、しばらく進んだ先でフリアが立ち止まり右側を気にしている。そしてすぐ先で通路を右へより、そのまま身を乗り出した。
「おい、どうした?」
近づいてみるとすぐにわかった。右側の壁がなくなり手すりのみに変わっている。その手すりの向こう側は吹き抜けになっているのか、天井よりもはるかに高く、そして床面よりもはるかに深く、薄暗い空間が広がっていた。
6階にあったのとほぼ同じくらいの大きさの吹き抜けだろうか。位置が違うはずなのでこの上方向の空間は6階につながっているわけではないだろう。薄暗がりの中で遠くの対面になる壁がかすかに見え、一部には壁がなく手すりがあるようにも見えた。対岸かもしれない。そして左手、まだ遠くだが、そちらは対面の壁がないのか、空間が続いているようにも見える。だとしたらこの吹き抜け部分は相当に大きいということになった。
「上も下も何もなさそうに見えるな」
「明かりもないようだし、ここからロープを下げたら8階に行けるとかはないんだろうね、きっと」
「そんな都合のいい場所は用意してくれないだろうよ。とはいえたいまつの1本も投げ込んでみるか。それで様子は分かるだろう」
念のため持ってきていたたいまつに火を付け、それを吹き抜け目掛けて投げ込んだ。
火が小さくなりながら空間を下へと落ちていく。
カッとかパンッとかいう音が聞こえた気がして、見えていた火が消えた。そしてはるか下の方から何か黒い塊が浮上してくる。
次第にその姿が見えるようになってきた。大きい。鳥やコウモリではない。羽ばたく翼はコウモリのようで、しかし厚みがあった。長い尾にはたくさんのトゲ。赤い目と鋭い牙をむき出しにした口。それは大きく羽ばたくとそのまま空間を上昇し、身をひるがえしてそのまま向こうへと遠ざかっていった。
「‥‥何だ、今の」
「‥‥さあ、知らない魔物だね」
「いずれにしてもロープを使って降りるとかやめとけってことでしょ。ちゃんとそれ用の魔物がいるってことなんでしょ」
「そういうことだろうな。正規の手順を踏めって言っているんだろう」
ロープを使って降りるとなれば当然手はふさがる。その状態であれに襲われて無事でいられる自信はなかった。降りた先に何があるのかないのかも定かではないのだ。大人しく階段を探した方がいいだろうと思えた。
「待って、何か来るよ」
フリアが警告する。吹き抜けに見入っている場合ではなかったようだ。
「たぶんオーク」
「またオークかよ、好きだな」
「ここで使うのにちょうど良かったんだろうね。数は2」
「あー、1体は普通にやるぞ。それで1体残してここに落としてみよう。エディ、押さえてくれ」
「分かった」
指示を受けてエディが手すり側に動く。
通路の先の方に歩いてくる魔物の姿が確認できた。
「ファイアー・ボルト!」
フェリクスとカリーナが魔法を放つ。念のため2体ともにダメージを与えることにした。吹き抜けに落とすにしても体力を削っておいた方が楽だろう。
2体並んだオークがこちらを見てほえ、そして斧を振り上げて迫ってくる。
右側の1体はエディが引き取り、盾と斧を使って器用に攻撃をさばいていく。もう1体はそのままクリストが切り刻んで終了だった。
「よし、落とそう。足をつぶす」
続けてもう1体のオークの足に切りつけ、そのダメージに体勢の崩れたオークをエディが盾を使って手すりへと押し込んでいった。ふらついたオークが斧を手から放し手すりにつかまる。その手にエディが斧をたたつけると、クリストが足を持ち上げるようにしてオークの巨体を手すりの向こう側へと投げ込んだ。
ガーとかギャーとか叫んだ声は悲鳴だろうか。オークの巨体が吹き抜けの闇へと飲まれていく。小さくなっていくその体が不意に横に流れ、そしてバキッという音とゲッとかギャッとかいう声が聞こえて、そして静かになった。
「あー、これは他にもいるな。何かは知らんが、何かいる。さっきのと同じやつか違うやつか、この吹き抜けはダメだな」
「確定でいいだろう。この吹き抜けは危険だ。魔物を落とすのには使えるがこっちも落とされる危険がある。気をつけよう」
何しろ手すりしかないのだ。うかつに強風が吹くような魔法を使えば転落の危険があるということで、そしてそういう行動にでる魔物がいないとも限らなかった。有利になるのは自分たちだけではないのだ。
吹き抜けを右手に見ながら通路を進むと途中で左に分かれ道があった。その道は少し先で丁字路にぶつかっている。
「左に気配がある。たぶんオークなんだけど、数が多い気がする。3かも」
「オークがまとめて3は初か? さっきの2と合わせればほぼ同じ場所に5だ。これは調整が入ったかもな」
「そんな気がしてきた。気をつける」
今まで3以上でまとめて配置されていた魔物は5階のボスを除けばせいぜいゴブリンだ。ここに来てオークという一定以上の脅威度の魔物を3体という数で置いてきた。しかも増援があり得る配置だ。これは難易度が上がったと見て間違いないだろうと思われた。
「オークはスリープでいけるか?」
「1か2ね、3は無理よ」
「よし、それで行こう」
方針は決まった。丁字路を左に曲がってすぐということならばここから届く。まだ動き出していないのならば問題ないだろう。
丁字路に飛び出し左へ。エディが先頭を切りクリストも続く。その肩越しにカリーナが魔法を放った。
「スリープ!」
動き出していた内の右手前と奥にいるオークが膝を折るようにして地面にうずくまった。どうやら2体が眠ったようだ。残る1体が驚いたように視線を動かす。
その隙を逃さずにエディが斧をたたきつけ、そしてクリストが剣で切り裂いた。
先手を取ってしまえばオークなど敵ではなかった。眠ってしまった2体はそのまま急所に剣を刺して終了だ。
「宝箱があるよ」
オークの体に隠れて見えなかったが部屋の奥には宝箱があったようで、すでにフリアが取り付いていた。
「鍵あり、罠なし、開けるね」
すぐに解錠し開けた箱の中身は宝石だった。
「これはこれで良し」
それを革袋にまとめて入れて腰に下げる。かさ張らず金に換えられる宝石は意味の分からない魔道具よりも今は都合が良かった。
部屋を出ると右の通路へは戻らず正面に進む。その先で通路は右へ折れ、そしてどうやら先ほど進んでいた吹き抜け沿いの通路と合流したようだった。位置の確認のため、右へ進んでみると左の壁に扉を発見、そしてその先で吹き抜けにたどり着いたが、吹き抜け沿いに左にも分かれ道が伸びていた。
少し引き返す格好にはなるが、念のため折り返して先ほどの合流地点へ。そしてそのまま先へ進んでみたが、そこは扉で行き止まりになっていた。扉を後回しにして通路を埋める作業を先に済ませることに決めると、吹き抜け沿いの分かれ道へ進む。
その通路はしばらく進んで左へ折れ、そして右への分かれ道が現れる。正面へそのまま進み、長い真っすぐな通路を進んでいくと扉にたどり着いた。引き返して分かれ道を行くには少し距離があったため、この扉を調べることにする。
フリアがしゃがんで扉を調べようと鍵穴の近くに手を置くと、最後尾、カリーナのさらに後ろでガタンッという物の落ちる大きな音がした。
「きゃっ」
小さく叫び声を上げたカリーナは慌ててすぐ前にいたクリストの背後に近づき後ろを振り返った。
そこには木製のイスが1脚、転がっていた。
「え? え? これが落ちてきたの? え? どこから?」
通路の天井は相変わらずの石組みだ。穴も何もない。だがあの音はこれが床に落ちた音だろう。いったいどこから現れたのか。
カリーナは制止したが、不審そうに近づいたフェリクスがスタッフの先でイスをつつく。
「何もないね、ただのイスなんじゃないかな。一応ディテクト・マジックで見てみようか。うん、特に何の反応もないね、ただのイスなんじゃない?」
「それこそ何でただのイスが落ちてきたのよ、何なの‥‥」
驚かされたカリーナとしては納得がいかないようだったが、イスはただのイスのようだった。
フリアがもう一度扉を調べ始めるが今度は特に何も起こらない。
「鍵あり、罠なし、気配なし。開けるよ」
解錠し、扉をそっと押し開ける。部屋の中にランタンの明かりが差し込むと、そこには剣や盾を持った人骨のようなものがいくつか転がっていた。
「これは嫌な予感がするよ」
気配はなかったがダンジョンに装備を持った人骨があって警戒しないわけがない。
「スケルトンの可能性大ってとこだな。そのつもりで行こう」
「もうここからやっちゃわない?」
驚かされて苛立っているカリーナが進言する。それも一つの手だった。
「そうだな、ここで試せばここから先でも確定になる。やっておくか、手前のやつでいいぞ」
「ふんっ。ファイアー・ボルト!」
気合いを入れたカリーナが魔法を放つと、炎の矢が手前側で倒れている骨に命中する。
一瞬剣を持った手を上げたようにも見えたが、その骨はそのまま炎上して崩れ去った。だがその後方で、2体の人骨が立ち上がろうとしていた。やはりスケルトンだったようだ。
しかしこちらはすでに準備ができている。
エディとクリストが武器を構えてそこへ突撃した。まだ起き上がり切れていないスケルトンなどただの的だ。そのまま武器を振り回して倒しきることができた。
「まあこんなもんだな。そしてアンデッド確定ってことだ。ここからはいろいろ出るかもな」
どうやらアンデッドの本格的な運用が始まったようだった。
「剣とか盾とかはいらないかな? ね、宝箱があるよ」
部屋の右奥の隅には宝箱が置かれていた。ここではスケルトンを目立たせるために位置を変えたのだろうか。いつもなら奥の壁の中央なのだが。
「鍵あり、罠なし、開けるー、お、ポーション発見」
見つかったのはいつもの形をした瓶に入った液体だった。これは何かのポーションということでいいのだろう。瓶の中には液体ではなく、雲のような霧のような、白い綿のようなものが流れるように動いていた。手を止めてもそれは動き続けている。相変わらずこのダンジョンは普通のポーションを出す気がないようだった。
「よし、これでいいだろう。武器とかはそのままでいいぞ、いらんいらん」
装備品を持っていったところで邪魔になるだけだった。
魔石もスケルトンの場合は心臓の辺り、ろっ骨を開けばすぐに見つかる。後始末は簡単に終わった。
「イス、消えているね」
部屋に入り完全に意識の外に置かれていたイスのことが再びよみがえるが、その姿形はすでに通路からは消えうせていた。スタッフでつつけたのだ、幻ではなかったはずだが、すでに驚かすという役目を終えたためか、消えてしまっていた。
「嫌がらせのためだったってこと?」
両手でスタッフを握ったカリーナが怒りか恐怖からかは分からないがぷるぷると震えながら言う。
「何となーく、嫌な感じがする」
フリアが再び先行して探索に戻る。次は分かれ道の先で、そこへ入りしばらく進む。
「ん、手すりがある。吹き抜けの続きっぽい」
気がついたフリアが駆け足でそちらに近づき、手すりにつかまって吹き抜けを見渡した。
「っ!!!」
突然フリアが飛び上がるようにして後退し、そのまま腰を落とすような格好になって下がってきた。
「!おい、どうした!?」
「‥‥、びっっくり、した」
そっちそっちと指さした先には吹き抜けの手すりがある。クリストがそちらに近づいて手すりにつかまり、吹き抜けをのぞき込んだ。
「いや、さっきと同じ――」
言いかけたその時だった。眼下、床面のすぐ下辺りからだろうか青白い腕が幾本か、ばっと勢いよくクリスト目掛けて差し伸べられた。そのうちの1本は手すりにつかまるクリストの手の上にかぶせられようとしていた。
クリストは思い切り手すりから下がって剣の柄に手をやった。
額を汗が流れ落ちるのが分かる。今の手は何か。青白くはあったが、確かに人の手のようだった。
だが目の前の手すりには、その向こう側の吹き抜けの薄暗がりには何もなかった。何もいなかった。
「手が、こう」
後ろでようやく立ち上がったフリアが言っている。やはり同じように見たようだ。
「下から手が上がってきた、人の手のように見えたんだが」
「え、何もいないよ? 何も見えなかったし」
足元から上がってきていたのだ、背後からではそれは見えはしないだろう。
「ねえ、ここちょっと嫌な感じがしない? さっきのイスもそうだけど、嫌がらせ目的じゃないわよね」
「あー、いわゆる精神攻撃だな? そうだな? そういうことにしよう。はー、勘弁してくれ」
精神攻撃ならば知っている。幻覚を見せるのだ。自分の体が傷ついたような錯覚を見せて恐怖心を抱かせる、何か強大な巨大なものに相対していると見せかけて何もさせずに敗走させる、そういう技だ。そう考えれば理解はできる。
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50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
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異世界で穴掘ってます!
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修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
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