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058:地下8階6
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鉱物の採取が終わったところで通路を引き返しガーゴイルのいた部屋へと戻ってくる。この先は扉に行き着く通路か、まだしばらく続きそうな通路かという選択になるのだが、今回は消耗を避けるために扉の先は極力調べない方針だ。扉のない方の通路へと踏み入り、先へと進む。
しばらく続いた直進は途中左への分かれ道があり、さらにその先で恐らく広い空間に行き着いた。恐らくというのは右手の壁が大きく円を描くように奥にカーブしていたからで、そしてそのカーブの先、その空間の奥だろうという場所にはかがり火が一つ。そしてその火に照らされて大きな人型のものが数体動いているところが確認できた。
「オークだと思う。全部で5か6。でも何となく危ない感じはする」
「そうだな、雰囲気としてはここが本気の見せ所なんだろう。さっきの分かれ道を先に見よう。回避して問題なさそうなら、回避できそうなら回避だ」
この空間の奥に通路があるようには見えなかったこと、そして目指すべき方向はこちら側ではなく、反対方向なのだ。別に進むことのできる通路があるのならここは特に重要な場所ではない。
一つ引き返し分かれ道へと進む。その通路はしばらく続いていたが、その先は丁字路になっていて、そしてそこまで先行していたフリアがあわてた様子で後退してくる。
「オークがいる。たぶんオーク。数は1。そこの右の角、すぐのところだと思う」
「ち、通り過ぎるなり遠ざかるなりしてくれれば即左へ抜けられそうなんだがな。そう都合良くはいかないか。進むべき方向としてはここを何とか押し通るか、あとは階段のところも残っていたな。そこまで引き返すか」
「避けて戻るっていうのは何となく抵抗はあるよね。魔法は余裕があるよ」
「そういうことだな。やるか。エディと俺でそこのやつをやる。場所を確保したら奥のまとまっている辺りを狙って全力でいってくれ」
「じゃあ僕はファイアボールだね」
「私はまずブレス、それから奥にコンフュージョン。これでオークがいくつ倒せるかって言うところかしら。ファイアボールが消えたところでわたしはサイレンスね」
「僕は続けてばらけるようならファイアーウォール。まとまっていればライトニング・ボルト、かな」
「フリア、無理はせずに狙えるところを頼む。あとは背後の警戒だな」
「うん。オーク相手だと私は微妙だから離れているかも」
「よし、やろう。オークの本気を見せてもらおうじゃないか」
ここで回避を選択するのも一つの方向性だが、余裕のある状況で避けて通るのは自分たちのやり方ではない。工夫を凝らして全力を尽くして突破する。まだ、オークなのだ。
丁字路の右にオークがいる、その場所まで慎重に前進する。地形としては挟み撃ちにされる危険もある場所だ。できれば近いところをつぶし、そして固まっているところに魔法を打ち込みたい。
まずはカリーナがブレスを前衛にかけ、そしてフリアが先行して状況を確認。通路の先をそっと確認したフリアが右を指差しうなずく。そこにいるということだ。エディが右側の壁に寄り、その左側にクリスト。態勢が調ったところで2人が飛び出し、すぐそこに背中の見えたオークに突撃する。フェリクスとカリーナは魔法を準備しながらそれに続く。
盾に殴られ、剣で切り裂かれたオークが壁に寄りかかるようにして崩れ落ちる。その向こう側には広い空間。左の壁沿いにオークが1体2体が少しずつ間隔を空けて立ち、右手の壁際にも1体、奥の方のかがり火の近くに2体。全部で6体。
「ファイアーボール!」
「コンフュージョン!」
奥の2体、そして左側の1体も巻き込む位置で炎の渦が巻き起こり、さらに混乱をもたらす魔法も同じ位置に撃ち込む。さらにエディは右側の壁近くにいるオークに迫り、クリストも最も近い位置にいた鎧を身につけたオーク目掛けて斬りかかる。
エディは届くと判断したところで斧を思い切り振り抜き、それを胸に受けたオークが壁にたたきつけられる。まだ崩れ落ちてはいないが、動きは止まった。
クリストが攻撃を仕掛けた相手はすぐさま動き出し、持っていた手斧をぶつけるようにして剣をそらすと、さらにそこから手斧を持ち直してクリストの後方、フェリクスとカリーナのいる方向へと投げつけた。狙いを付けたわけではない投てきだったことが幸いして手斧はすぐ近くの壁へとぶつかったが、その攻撃に驚いた2人は集中を乱し、すぐには行動できない。このせいもあってかコンフュージョンもすぐに効果を失ってしまった。
ファイアーボールの炎が消えたあとには崩れ落ちたオークが2体。そして残る1体は盾を構えて炎を防ぎ、いまだ健在だった。そのオークが盾を構えた体勢のまま正面に見据えたエディに向かって突撃する。これに気がついたエディが壁に押し込んだオークから離れ盾で打ち合う体勢に移ろうとしたところで接触、突撃の勢い分勝ったオークがエディを壁際のオークから押しのけるような形で後退させた。
手斧を後衛に投げつけたオークはクリストの剣を避けるように後退すると、ファイアーボールに飲まれて倒れたオークに近づき、地面に落ちていた斧を取り上げる。失った武器を取り戻したのだ。
エディは2対1の構図、クリストは1対1だ。攻撃を受けた衝撃から立ち直った魔法の支援が欲しいところだった。
盾を構えたオークがエディと向かい合い、手を伸ばして壁際に押しやられていたオークに何事か声をかけると、そのオークも立ち直って槍を構え直し、エディに向かって大きく踏み込んだ。
「ファイアー・ボルト!」
その背後にフェリクスの魔法が命中し、踏み出した姿勢のままオークが前のめりに崩れていく。だが最後の力を振り絞って持っていた槍をエディに向かってたたきつけた。その攻撃を盾で受け止めたエディに接近したもう1体が持っていた盾を振り回してぶつけると、今度はエディが壁際に押しつけられる。だがこれで1対1だ。
クリストはオークの持つ斧を脇へそらすと返す形で切りつけるのだが、オークの身につけた鎧を打ち破るまではいかない。互いに攻撃し、それをそらし、防御を抜けない格好になっていた。
「フロストバイト!」
そこへカリーナがダメージとともに行動阻害を狙った魔法を放つ。それを受けたオークの鎧が霜が降りたように白くなっていく。好機とみたクリストが踏み込みオークの懐深くに入り込むと体全体で振り回した剣の柄で殴りつけ、この打撃によろめいたオークにそのまま組み付くと押し倒し馬なりになる。たとえ相手がプレートアーマーで防御を固めていて剣での攻撃がうまく通らないとしても、こうなってしまえば結果は同じだ。顎の下から深く剣を突き込みとどめを刺した。
一方、壁際でエディと盾越しの応酬を繰り広げていたオークの背後にフェリクスのスコーチング・レイがまとめて命中し、この攻撃に耐えきれなくなって膝を折ったところを頭上から斧をたたきつけ、こちらもとどめを刺したところだった。
「よーし、終わったな、もう来ないな? よし、休憩しよう」
「いやあ強かったんじゃない? 本当にオークかい?」
「どう見てもオークなんだが、どう考えても普通の強さではなかったな。ああ、こいつは片目がなかった、グルームシュだな」
最後までエディと打ち合っていたオークは片目のないグルームシュの目と呼ばれるオークだったようだ。
「こいつはプレートアーマーなんだよなあ、オークがこんな装備をしているもんなのか。手斧を投げるだ味方の落とした槍を拾うだ妙に戦い慣れていたのも気になる」
苦戦したというほどではないが苦労はした戦闘もとにかくこれで終了だ。5階から続いていたオークの出現も、最初の適当にあしらうだけでも終わっていたレベルからここまで引き上げられたというのは興味深いものだった。
「ね、宝箱があるよ。鍵あり、罠なし、開けるね」
室内を歩き回っていたフリアがかがり火の裏側で見つけたものを報告してくる。これだけの戦闘の成果なのだから中身が気になるところだがどうだろうか。
「うーん、なんだろう、チャイム? 打ち合わせると音が出る? 出るね、なんだろう」
太さの違う2本の金属の棒がつなぎ合わせられた工芸品のような、道具のようなものが出たようだった。表面は鏡面仕上げのようにピカピカと輝いているが、ただの工芸品なのか何かしらの効果があるものなのかは調べてみるまで分からない。まだここは完全に安全が確保されているわけではない、楽しみはもう少し先までとっておこう。
後始末と休憩を終えたら探索を再開だ。広間から通路へと戻り、すぐ右へと折れてしばらく進むと左に分かれ道が現れる。地図を見る限り、階段下から真っすぐに進めばこの辺りという場所だった。そうなるとこの近くにはオークがいるということになるが今はどうだろうか。その分かれ道近くまで進んだフリアが左の通路の方を気にして歩みをとめ、壁に張り付くようにしてその先をうかがう。さらにしゃがみ込んで床を調べると仲間のもとに戻ってきた。
「左にオーク。変わらないね、数はたぶん2。それと床、たぶん罠。床か壁か天井かどこかから何か出てきそうな気がした」
「ああ、あったなそういう罠。床を踏まずにいればいいのか? オークを釣り出して踏ませてみるか」
「そうだね、やってみる。まとめて来ると思うから気をつけて」
「へたにウェブとか使わない方がいいわね? 分かった、普通に攻撃魔法でも準備しましょうか」
再び壁際に寄って分かれ道の方をうかがったフリアがそこからナイフを投げ入れてオークを釣り出す。攻撃を仕掛けたフリアを見て動き出したオークが交差点まで近づいてきた。あとは罠にかかったところで攻撃をというその時、先に来たオークが斧を交差点の床にたたきつけた。すると床から鋭い穂先を付けた槍が5本乱雑な位置に飛び出してくる。
「マジか、こいつら罠を知っているのかよ」
その槍の間に体をねじ込むように交差点に入ると、さらに斧を上に掲げ天井を突いた。
幸いだったのは接近戦に巻き込まれることのないように魔法使い2人は離れていたことだろう。天井から飛び出した槍はエディの鎧にかすり傷を付け、とっさに避けたクリストのいた場所に穂先を届かせ、そして壁に張り付いたフリアの目の前に現れた。
こうなってしまっては先攻も後攻もなく槍が邪魔で避けた仲間が邪魔で魔法も狙いを付けようがない。完全にこの状態からの仕切り直しだった。とはいえそれは相手も同じ。槍と槍の狭い間を抜け、長物は振り回すこともできず、ただ闇雲に突いてくるだけだ。穂先をそらし、立ち位置を変えて相手の懐に入り込んだクリストがオークの足を切り払い返す剣で首を切る。これで1体。そしてフェリクスのファイアー・ボルトとエディの突き込んだ斧に挟まれる形になったオークもまた攻撃を立て続けに受け、そのまま膝から崩れ落ちた。2体目。戦闘は終了だった。
「まさか罠を使ってくるとはね、これがオークか」
「しかも罠の使い方を承知していたよ、驚いたね」
「こっちが考えるようなことは相手も考えている。そういうレベルになってきたってことだな」
オークがここまで知的だったということの驚きもあるが、戦闘そのもののレベルが上がっていることもまた確かだった。ここからは雑魚戦はないという意識を持たなければならないだろう。
後始末を終えると分かれ道の先へ進み、そこが7階から下りてきた場所につながっていることを確認。引き返して今度は丁字路を左へ。その先はしばらく真っすぐに進み、左に扉、そしてさらに直進したところで行き止まり。そうしてその行き止まりには宝箱が置かれていた。この階でも部屋と行き止まりは全て宝箱があり得るということなのだろう。
「鍵あり、罠あり、んー、ここかな? ここかも、押さえているから開けてみて」
フリアが調べ、罠を発見すると作動しないように押さえた状態にして、クリストが遠目から手をかけて蓋を開けた。中からは箱の大きさに見合わない指輪が一つ見つかり、それを取り出して蓋を元に戻し、罠が作動しないことを確認したフリアも手を放す。
「あー、素材も何も分からんな。宝石だとかはなし、模様は、文字っぽいものが彫ってあるが文字でもないのか? どうだ? 分かるような文字ではない、と。不明だな、鑑定を楽しみにしろってことだ」
「いいね、やっぱりこのダンジョンはこういう意味分からないものが見つかってこそだと思えてくるよ」
オークのエリアとしてはこの行き止まりでひとまず終わり。すぐそこの扉はフリアが調べて鍵あり、罠あり、気配ありが確認されたが気配はオークではなさそうだということで、まさにオークのエリアが終わったところと言えるのだろう。この行き止まりで一息ついたら次はその扉を開けて次のエリアへと進むのだ。
しばらく続いた直進は途中左への分かれ道があり、さらにその先で恐らく広い空間に行き着いた。恐らくというのは右手の壁が大きく円を描くように奥にカーブしていたからで、そしてそのカーブの先、その空間の奥だろうという場所にはかがり火が一つ。そしてその火に照らされて大きな人型のものが数体動いているところが確認できた。
「オークだと思う。全部で5か6。でも何となく危ない感じはする」
「そうだな、雰囲気としてはここが本気の見せ所なんだろう。さっきの分かれ道を先に見よう。回避して問題なさそうなら、回避できそうなら回避だ」
この空間の奥に通路があるようには見えなかったこと、そして目指すべき方向はこちら側ではなく、反対方向なのだ。別に進むことのできる通路があるのならここは特に重要な場所ではない。
一つ引き返し分かれ道へと進む。その通路はしばらく続いていたが、その先は丁字路になっていて、そしてそこまで先行していたフリアがあわてた様子で後退してくる。
「オークがいる。たぶんオーク。数は1。そこの右の角、すぐのところだと思う」
「ち、通り過ぎるなり遠ざかるなりしてくれれば即左へ抜けられそうなんだがな。そう都合良くはいかないか。進むべき方向としてはここを何とか押し通るか、あとは階段のところも残っていたな。そこまで引き返すか」
「避けて戻るっていうのは何となく抵抗はあるよね。魔法は余裕があるよ」
「そういうことだな。やるか。エディと俺でそこのやつをやる。場所を確保したら奥のまとまっている辺りを狙って全力でいってくれ」
「じゃあ僕はファイアボールだね」
「私はまずブレス、それから奥にコンフュージョン。これでオークがいくつ倒せるかって言うところかしら。ファイアボールが消えたところでわたしはサイレンスね」
「僕は続けてばらけるようならファイアーウォール。まとまっていればライトニング・ボルト、かな」
「フリア、無理はせずに狙えるところを頼む。あとは背後の警戒だな」
「うん。オーク相手だと私は微妙だから離れているかも」
「よし、やろう。オークの本気を見せてもらおうじゃないか」
ここで回避を選択するのも一つの方向性だが、余裕のある状況で避けて通るのは自分たちのやり方ではない。工夫を凝らして全力を尽くして突破する。まだ、オークなのだ。
丁字路の右にオークがいる、その場所まで慎重に前進する。地形としては挟み撃ちにされる危険もある場所だ。できれば近いところをつぶし、そして固まっているところに魔法を打ち込みたい。
まずはカリーナがブレスを前衛にかけ、そしてフリアが先行して状況を確認。通路の先をそっと確認したフリアが右を指差しうなずく。そこにいるということだ。エディが右側の壁に寄り、その左側にクリスト。態勢が調ったところで2人が飛び出し、すぐそこに背中の見えたオークに突撃する。フェリクスとカリーナは魔法を準備しながらそれに続く。
盾に殴られ、剣で切り裂かれたオークが壁に寄りかかるようにして崩れ落ちる。その向こう側には広い空間。左の壁沿いにオークが1体2体が少しずつ間隔を空けて立ち、右手の壁際にも1体、奥の方のかがり火の近くに2体。全部で6体。
「ファイアーボール!」
「コンフュージョン!」
奥の2体、そして左側の1体も巻き込む位置で炎の渦が巻き起こり、さらに混乱をもたらす魔法も同じ位置に撃ち込む。さらにエディは右側の壁近くにいるオークに迫り、クリストも最も近い位置にいた鎧を身につけたオーク目掛けて斬りかかる。
エディは届くと判断したところで斧を思い切り振り抜き、それを胸に受けたオークが壁にたたきつけられる。まだ崩れ落ちてはいないが、動きは止まった。
クリストが攻撃を仕掛けた相手はすぐさま動き出し、持っていた手斧をぶつけるようにして剣をそらすと、さらにそこから手斧を持ち直してクリストの後方、フェリクスとカリーナのいる方向へと投げつけた。狙いを付けたわけではない投てきだったことが幸いして手斧はすぐ近くの壁へとぶつかったが、その攻撃に驚いた2人は集中を乱し、すぐには行動できない。このせいもあってかコンフュージョンもすぐに効果を失ってしまった。
ファイアーボールの炎が消えたあとには崩れ落ちたオークが2体。そして残る1体は盾を構えて炎を防ぎ、いまだ健在だった。そのオークが盾を構えた体勢のまま正面に見据えたエディに向かって突撃する。これに気がついたエディが壁に押し込んだオークから離れ盾で打ち合う体勢に移ろうとしたところで接触、突撃の勢い分勝ったオークがエディを壁際のオークから押しのけるような形で後退させた。
手斧を後衛に投げつけたオークはクリストの剣を避けるように後退すると、ファイアーボールに飲まれて倒れたオークに近づき、地面に落ちていた斧を取り上げる。失った武器を取り戻したのだ。
エディは2対1の構図、クリストは1対1だ。攻撃を受けた衝撃から立ち直った魔法の支援が欲しいところだった。
盾を構えたオークがエディと向かい合い、手を伸ばして壁際に押しやられていたオークに何事か声をかけると、そのオークも立ち直って槍を構え直し、エディに向かって大きく踏み込んだ。
「ファイアー・ボルト!」
その背後にフェリクスの魔法が命中し、踏み出した姿勢のままオークが前のめりに崩れていく。だが最後の力を振り絞って持っていた槍をエディに向かってたたきつけた。その攻撃を盾で受け止めたエディに接近したもう1体が持っていた盾を振り回してぶつけると、今度はエディが壁際に押しつけられる。だがこれで1対1だ。
クリストはオークの持つ斧を脇へそらすと返す形で切りつけるのだが、オークの身につけた鎧を打ち破るまではいかない。互いに攻撃し、それをそらし、防御を抜けない格好になっていた。
「フロストバイト!」
そこへカリーナがダメージとともに行動阻害を狙った魔法を放つ。それを受けたオークの鎧が霜が降りたように白くなっていく。好機とみたクリストが踏み込みオークの懐深くに入り込むと体全体で振り回した剣の柄で殴りつけ、この打撃によろめいたオークにそのまま組み付くと押し倒し馬なりになる。たとえ相手がプレートアーマーで防御を固めていて剣での攻撃がうまく通らないとしても、こうなってしまえば結果は同じだ。顎の下から深く剣を突き込みとどめを刺した。
一方、壁際でエディと盾越しの応酬を繰り広げていたオークの背後にフェリクスのスコーチング・レイがまとめて命中し、この攻撃に耐えきれなくなって膝を折ったところを頭上から斧をたたきつけ、こちらもとどめを刺したところだった。
「よーし、終わったな、もう来ないな? よし、休憩しよう」
「いやあ強かったんじゃない? 本当にオークかい?」
「どう見てもオークなんだが、どう考えても普通の強さではなかったな。ああ、こいつは片目がなかった、グルームシュだな」
最後までエディと打ち合っていたオークは片目のないグルームシュの目と呼ばれるオークだったようだ。
「こいつはプレートアーマーなんだよなあ、オークがこんな装備をしているもんなのか。手斧を投げるだ味方の落とした槍を拾うだ妙に戦い慣れていたのも気になる」
苦戦したというほどではないが苦労はした戦闘もとにかくこれで終了だ。5階から続いていたオークの出現も、最初の適当にあしらうだけでも終わっていたレベルからここまで引き上げられたというのは興味深いものだった。
「ね、宝箱があるよ。鍵あり、罠なし、開けるね」
室内を歩き回っていたフリアがかがり火の裏側で見つけたものを報告してくる。これだけの戦闘の成果なのだから中身が気になるところだがどうだろうか。
「うーん、なんだろう、チャイム? 打ち合わせると音が出る? 出るね、なんだろう」
太さの違う2本の金属の棒がつなぎ合わせられた工芸品のような、道具のようなものが出たようだった。表面は鏡面仕上げのようにピカピカと輝いているが、ただの工芸品なのか何かしらの効果があるものなのかは調べてみるまで分からない。まだここは完全に安全が確保されているわけではない、楽しみはもう少し先までとっておこう。
後始末と休憩を終えたら探索を再開だ。広間から通路へと戻り、すぐ右へと折れてしばらく進むと左に分かれ道が現れる。地図を見る限り、階段下から真っすぐに進めばこの辺りという場所だった。そうなるとこの近くにはオークがいるということになるが今はどうだろうか。その分かれ道近くまで進んだフリアが左の通路の方を気にして歩みをとめ、壁に張り付くようにしてその先をうかがう。さらにしゃがみ込んで床を調べると仲間のもとに戻ってきた。
「左にオーク。変わらないね、数はたぶん2。それと床、たぶん罠。床か壁か天井かどこかから何か出てきそうな気がした」
「ああ、あったなそういう罠。床を踏まずにいればいいのか? オークを釣り出して踏ませてみるか」
「そうだね、やってみる。まとめて来ると思うから気をつけて」
「へたにウェブとか使わない方がいいわね? 分かった、普通に攻撃魔法でも準備しましょうか」
再び壁際に寄って分かれ道の方をうかがったフリアがそこからナイフを投げ入れてオークを釣り出す。攻撃を仕掛けたフリアを見て動き出したオークが交差点まで近づいてきた。あとは罠にかかったところで攻撃をというその時、先に来たオークが斧を交差点の床にたたきつけた。すると床から鋭い穂先を付けた槍が5本乱雑な位置に飛び出してくる。
「マジか、こいつら罠を知っているのかよ」
その槍の間に体をねじ込むように交差点に入ると、さらに斧を上に掲げ天井を突いた。
幸いだったのは接近戦に巻き込まれることのないように魔法使い2人は離れていたことだろう。天井から飛び出した槍はエディの鎧にかすり傷を付け、とっさに避けたクリストのいた場所に穂先を届かせ、そして壁に張り付いたフリアの目の前に現れた。
こうなってしまっては先攻も後攻もなく槍が邪魔で避けた仲間が邪魔で魔法も狙いを付けようがない。完全にこの状態からの仕切り直しだった。とはいえそれは相手も同じ。槍と槍の狭い間を抜け、長物は振り回すこともできず、ただ闇雲に突いてくるだけだ。穂先をそらし、立ち位置を変えて相手の懐に入り込んだクリストがオークの足を切り払い返す剣で首を切る。これで1体。そしてフェリクスのファイアー・ボルトとエディの突き込んだ斧に挟まれる形になったオークもまた攻撃を立て続けに受け、そのまま膝から崩れ落ちた。2体目。戦闘は終了だった。
「まさか罠を使ってくるとはね、これがオークか」
「しかも罠の使い方を承知していたよ、驚いたね」
「こっちが考えるようなことは相手も考えている。そういうレベルになってきたってことだな」
オークがここまで知的だったということの驚きもあるが、戦闘そのもののレベルが上がっていることもまた確かだった。ここからは雑魚戦はないという意識を持たなければならないだろう。
後始末を終えると分かれ道の先へ進み、そこが7階から下りてきた場所につながっていることを確認。引き返して今度は丁字路を左へ。その先はしばらく真っすぐに進み、左に扉、そしてさらに直進したところで行き止まり。そうしてその行き止まりには宝箱が置かれていた。この階でも部屋と行き止まりは全て宝箱があり得るということなのだろう。
「鍵あり、罠あり、んー、ここかな? ここかも、押さえているから開けてみて」
フリアが調べ、罠を発見すると作動しないように押さえた状態にして、クリストが遠目から手をかけて蓋を開けた。中からは箱の大きさに見合わない指輪が一つ見つかり、それを取り出して蓋を元に戻し、罠が作動しないことを確認したフリアも手を放す。
「あー、素材も何も分からんな。宝石だとかはなし、模様は、文字っぽいものが彫ってあるが文字でもないのか? どうだ? 分かるような文字ではない、と。不明だな、鑑定を楽しみにしろってことだ」
「いいね、やっぱりこのダンジョンはこういう意味分からないものが見つかってこそだと思えてくるよ」
オークのエリアとしてはこの行き止まりでひとまず終わり。すぐそこの扉はフリアが調べて鍵あり、罠あり、気配ありが確認されたが気配はオークではなさそうだということで、まさにオークのエリアが終わったところと言えるのだろう。この行き止まりで一息ついたら次はその扉を開けて次のエリアへと進むのだ。
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