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2章
2-6
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何度も何度も見知らぬ男たちに暴力を振るわれ犯される悪夢にうなされて目が覚める。最悪の目覚めだ。
そこはいつも寝泊まりしている宿とは違う、清潔感があって整頓されているベッドが5つも並んだカーテンで仕切られた空間だった。
あの男たちにどこかに連れ去られたのだろうか、と一瞬血の気が引くけどどうも拘束されている様子はない。
ベッドから降りて自分の力で立ち上がる。
殴られ蹴り飛ばされたお腹や背中がじくりと痛んだ。
恐る恐るカーテンに手を伸ばして少しだけ隙間を作って向こう側を覗いてみる。
事務椅子と事務机、それとカルテのようなものが詰め込まれた棚が確認できた。人はいないように見える。
意を決してカーテンを開ける。
部屋の全貌が明らかになって、どうやらそこはどこかの施設の医務室のようだと認識した。
そういえば、とふと自分の体を見てみると、汚れは落とされ見たことのない、サイズの合わない服が着せられていた。
ここに連れてきた人が着せてくれたみたいだ。
もしかして僕、助けてもらったの?
気を失う前のことを思い出そうとすると頭が痛くなる。思い出せるのは暴力と強姦の記憶だけだ。
安易に罠にかかってしまった自分を責め、そもそも一人で出歩いてしまったことを深く後悔した。
ベッドに腰掛け、痛むお腹をさする。
見るとそこは赤黒く変色していた。
ヒールをかけようとするも魔力の放出を止める抑制石の存在を思い出した。
右手にはめられた抑制石の腕輪を外そうとするも上手く外れない。何か細工がしてあるみたいだ。
どうにもこうにも腕輪が外れなくて、ヤケになってベッドに体を投げ出した。
しばらくそうしてうとうとしていると、何やら外から足音がこの部屋に近付いてくるのが聞こえた。
思わず息を潜め、布団に潜り込みシーツを握りしめる。
ノックもせずにガチャリと扉が開き、カツカツとこちらに足音が近付いてくる。
シャーっ、とカーテンが開けられると、そこに立っている男の人と目が合った。
「起きたか」
その人はそう言って近寄って来ようとする。
ドクン、と心臓が脈打った。
「や、やだ…っ、来ないで…っ!!」
恐怖で思わず悲痛な声を上げてぎゅっと目を閉じる。小柄な体が小さくカタカタと震えた。
躊躇ったような気配を感じそっと目を開けると、その人はこちらに手を伸ばしかけた姿勢のまま固まっていた。
そのまましばらくその場でうろうろすると、椅子を手繰り寄せ少し離れた場所に座った。
一呼吸置いてからその人は口を開いた。
「俺の名前はクライヴ。第三騎士団所属の騎士だ。君は?」
「……ニルーヴァ」
騎士、と聞いて少しほっとする。
騎士団はこの国の民を守るために働いている偉い人たちだったはずだ。僕を襲った男たちよりよほど信頼できる。
「町の外を巡回中、倒れている君を見つけた。…記憶はあるか?」
その問いに小さく頷く。
また忌まわしい光景が脳にチラついた。
「そうか……」
そう言ってクライヴさんは少し俯いて黙ってしまった。
あの状態の僕を見れば何をされていたかなんて安易に想像がつくだろう。
「傷…治せなくてすまないな。今医療班が皆出ているんだ」
クライヴさんはヒールが使えないらしく、申し訳なさそうに謝られた。
この抑制石さえなければ傷ぐらい自分で治せるのに、と腕輪を見る。
「あの…これ外せませんか?」
上半身を起こしておずおずと腕輪を見せる。
「これは?」
「抑制石っていうのがついてる腕輪です…これをつけられたせいで魔法が使えなくって」
「ふむ…少し触るぞ?」
そう言ってクライヴさんは遠慮がちに手を伸ばして腕輪に触れる。
この人が悪い人じゃないって分かってはいるけど、何かされないかと少し体が強張った。
クライヴさんは少しの間腕輪を弄っていると、やがてカチリと音が鳴って腕輪が外された。
「あ…!外れた!」
自分があれだけやっても外せなかった腕輪がこの人にかかればあっという間に外れてしまった。
嬉しくなってパァ、と表情を明るくさせる。
そんな僕の顔を見てクライヴさんはほっとした表情になった。
「ありがとうございます…!」
ぺこりと頭を下げる。そして魔力を巡らせ体に手を当ててヒールを唱えると僕の体がパァァ、と眩く光った。
しばらくして光が収まると、痣や痛みがすっかり引いて消えた。ほっとして息を吐く。
それからしばらくクライヴさんは僕の緊張を解きほぐすように他愛のない話をしてくれた。
不器用な優しさに警戒は解け、体の震えは治まっていた。
すると突然、頭を下げて謝られた。
「騎士団がいながら君のような犠牲者を出してしまったこと、本当に心苦しく思う。…すまなかった」
クライヴさんや騎士団の人たちが悪いわけじゃない、悪いのはあの男たちだ。
そう伝えると、君は強いな、と控えめに微笑んでくれた。その憂いを帯びた笑みにドキッと胸が高鳴るのを感じる。
いけない、人間にドキドキするなんて。
人間にだけは恋をするなと幼い頃から散々言い聞かされていた。
その想いに蓋をして気付かないフリをする。
今度は高鳴りを押さえつけた胸がチクリと痛んだ気がした。
そこはいつも寝泊まりしている宿とは違う、清潔感があって整頓されているベッドが5つも並んだカーテンで仕切られた空間だった。
あの男たちにどこかに連れ去られたのだろうか、と一瞬血の気が引くけどどうも拘束されている様子はない。
ベッドから降りて自分の力で立ち上がる。
殴られ蹴り飛ばされたお腹や背中がじくりと痛んだ。
恐る恐るカーテンに手を伸ばして少しだけ隙間を作って向こう側を覗いてみる。
事務椅子と事務机、それとカルテのようなものが詰め込まれた棚が確認できた。人はいないように見える。
意を決してカーテンを開ける。
部屋の全貌が明らかになって、どうやらそこはどこかの施設の医務室のようだと認識した。
そういえば、とふと自分の体を見てみると、汚れは落とされ見たことのない、サイズの合わない服が着せられていた。
ここに連れてきた人が着せてくれたみたいだ。
もしかして僕、助けてもらったの?
気を失う前のことを思い出そうとすると頭が痛くなる。思い出せるのは暴力と強姦の記憶だけだ。
安易に罠にかかってしまった自分を責め、そもそも一人で出歩いてしまったことを深く後悔した。
ベッドに腰掛け、痛むお腹をさする。
見るとそこは赤黒く変色していた。
ヒールをかけようとするも魔力の放出を止める抑制石の存在を思い出した。
右手にはめられた抑制石の腕輪を外そうとするも上手く外れない。何か細工がしてあるみたいだ。
どうにもこうにも腕輪が外れなくて、ヤケになってベッドに体を投げ出した。
しばらくそうしてうとうとしていると、何やら外から足音がこの部屋に近付いてくるのが聞こえた。
思わず息を潜め、布団に潜り込みシーツを握りしめる。
ノックもせずにガチャリと扉が開き、カツカツとこちらに足音が近付いてくる。
シャーっ、とカーテンが開けられると、そこに立っている男の人と目が合った。
「起きたか」
その人はそう言って近寄って来ようとする。
ドクン、と心臓が脈打った。
「や、やだ…っ、来ないで…っ!!」
恐怖で思わず悲痛な声を上げてぎゅっと目を閉じる。小柄な体が小さくカタカタと震えた。
躊躇ったような気配を感じそっと目を開けると、その人はこちらに手を伸ばしかけた姿勢のまま固まっていた。
そのまましばらくその場でうろうろすると、椅子を手繰り寄せ少し離れた場所に座った。
一呼吸置いてからその人は口を開いた。
「俺の名前はクライヴ。第三騎士団所属の騎士だ。君は?」
「……ニルーヴァ」
騎士、と聞いて少しほっとする。
騎士団はこの国の民を守るために働いている偉い人たちだったはずだ。僕を襲った男たちよりよほど信頼できる。
「町の外を巡回中、倒れている君を見つけた。…記憶はあるか?」
その問いに小さく頷く。
また忌まわしい光景が脳にチラついた。
「そうか……」
そう言ってクライヴさんは少し俯いて黙ってしまった。
あの状態の僕を見れば何をされていたかなんて安易に想像がつくだろう。
「傷…治せなくてすまないな。今医療班が皆出ているんだ」
クライヴさんはヒールが使えないらしく、申し訳なさそうに謝られた。
この抑制石さえなければ傷ぐらい自分で治せるのに、と腕輪を見る。
「あの…これ外せませんか?」
上半身を起こしておずおずと腕輪を見せる。
「これは?」
「抑制石っていうのがついてる腕輪です…これをつけられたせいで魔法が使えなくって」
「ふむ…少し触るぞ?」
そう言ってクライヴさんは遠慮がちに手を伸ばして腕輪に触れる。
この人が悪い人じゃないって分かってはいるけど、何かされないかと少し体が強張った。
クライヴさんは少しの間腕輪を弄っていると、やがてカチリと音が鳴って腕輪が外された。
「あ…!外れた!」
自分があれだけやっても外せなかった腕輪がこの人にかかればあっという間に外れてしまった。
嬉しくなってパァ、と表情を明るくさせる。
そんな僕の顔を見てクライヴさんはほっとした表情になった。
「ありがとうございます…!」
ぺこりと頭を下げる。そして魔力を巡らせ体に手を当ててヒールを唱えると僕の体がパァァ、と眩く光った。
しばらくして光が収まると、痣や痛みがすっかり引いて消えた。ほっとして息を吐く。
それからしばらくクライヴさんは僕の緊張を解きほぐすように他愛のない話をしてくれた。
不器用な優しさに警戒は解け、体の震えは治まっていた。
すると突然、頭を下げて謝られた。
「騎士団がいながら君のような犠牲者を出してしまったこと、本当に心苦しく思う。…すまなかった」
クライヴさんや騎士団の人たちが悪いわけじゃない、悪いのはあの男たちだ。
そう伝えると、君は強いな、と控えめに微笑んでくれた。その憂いを帯びた笑みにドキッと胸が高鳴るのを感じる。
いけない、人間にドキドキするなんて。
人間にだけは恋をするなと幼い頃から散々言い聞かされていた。
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今度は高鳴りを押さえつけた胸がチクリと痛んだ気がした。
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