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「お嬢様、またしても王宮から『怪文書』が届いております」
セバスが銀のトレイに乗せて持ってきたのは、金縁で彩られた、これ以上なく仰々しい封筒だった。
ファルルは眼鏡をずらし、嫌そうな顔でそれを受け取った。
「怪文書って……。一応、王室の正式な紋章がついているじゃない」
「中身が問題でございます。差出人の脳内が、相変わらずお花畑を通り越してジャングルになっているようでして」
ファルルが封を切ると、中から出てきたのは夜会への招待状……を装った、挑戦状のような代物だった。
『親愛なる元婚約者、ファルル・ボナパルトへ。
来る土曜の夜、王宮にて「真実の愛を祝う大夜会」を開催する。
これは、俺がリリアンといかに幸せであるかを世に見せつけるためのものだが、同時にお前の「復職試験」も兼ねている。
会場に用意された「十の嫌がらせ(難題)」を、お前が完璧に処理できたなら、特別に俺の側近……いや、第二婚約者として再雇用してやってもいい。
悔しかったら、ドレスを着飾って来るがいい。
追伸:当日の受付リスト、誰か作っておいてくれ。やり方がわからん』
ファルルは無言で招待状を二つに折り、机の角で丁寧に折り目をつけた。
「……セバス。これ、何て書いてあるのかしら。私の語学力が退化したのか、意味が一行も理解できないわ」
「翻訳いたしましょうか? 『誰もパーティーの準備ができないから、お前が来て全部仕切ってくれ。ついでに寂しいから顔を見せろ』という、瀕死の叫びでございます」
「やっぱりそうよね。追伸の部分なんて、もはや隠す気さえないじゃない」
ファルルは呆れて溜息をついたが、その瞳の奥には「仕事人」としての鋭い光が宿り始めていた。
「『真実の愛を祝う大夜会』……。リリアン様は逃げ出したはずなのに、まだやるつもりかしら」
「おそらく、リリアン様が実家に帰られたことを、殿下は『長期の里帰り』程度にしか認識していないのでしょう。あるいは、あまりのショックに記憶が改竄されたか」
「救いようがないわね。……でも、面白いわ。この『再雇用試験』とやら、受けて立とうじゃないの」
「お嬢様、正気でございますか? あんなブラックな職場に、今さら戻るメリットなど……」
セバスが珍しく心配そうな声を上げたが、ファルルは不敵に微笑んだ。
「戻るわけないでしょう? 私は、私を馬鹿にした代償がどれほど高くつくか、市場価格を教えに行くだけよ。……それに、この夜会には国中の貴族が集まるわ」
ファルルは、ペンを回しながら続けた。
「私の『コンサルタント業』の、絶好のデモンストレーションになると思わない? 王家ですら解決できない問題を、元悪役令嬢が華麗に片付けて見せる。……これ以上の広告宣伝はないわ」
「なるほど。お嬢様にとっては、王宮すらも『集客のためのステージ』というわけですな」
「そういうこと。セバス、当日の衣装の準備を。テーマは『冷徹な経営者』……ではなく、『王家を買い叩く女帝』よ」
「心得ました。……あ、お嬢様。一点、気になることが。殿下が用意したという『十の嫌がらせ』ですが」
「ええ、何かしら」
「先ほど、王宮の掃除係の友人から連絡がありました。殿下、嫌がらせの内容を考えるのに没頭するあまり、当日の『ワインの手配』と『音楽隊への支払い』を完全に忘れているそうです」
ファルルは一瞬だけ天を仰ぎ、その後、力強く笑った。
「最高だわ! 嫌がらせ以前に、イベント自体が破綻しているじゃない。……いいわ、それも全部私が『有料』で解決して差し上げましょう」
「では、見積書の作成から始めますな。特急料金、および『殿下への精神的苦痛代』を含めて……」
「ええ。国庫が空になるくらいの額を提示してちょうだい」
ファルルは、招待状をゴミ箱に放り込む代わりに、メモ帳の下書きとして使い始めた。
悪役令嬢の「再雇用試験」。
それは、王子が望むような復縁の儀式ではなく、ファルルによる「王室解体ショー」の始まりであった。
セバスが銀のトレイに乗せて持ってきたのは、金縁で彩られた、これ以上なく仰々しい封筒だった。
ファルルは眼鏡をずらし、嫌そうな顔でそれを受け取った。
「怪文書って……。一応、王室の正式な紋章がついているじゃない」
「中身が問題でございます。差出人の脳内が、相変わらずお花畑を通り越してジャングルになっているようでして」
ファルルが封を切ると、中から出てきたのは夜会への招待状……を装った、挑戦状のような代物だった。
『親愛なる元婚約者、ファルル・ボナパルトへ。
来る土曜の夜、王宮にて「真実の愛を祝う大夜会」を開催する。
これは、俺がリリアンといかに幸せであるかを世に見せつけるためのものだが、同時にお前の「復職試験」も兼ねている。
会場に用意された「十の嫌がらせ(難題)」を、お前が完璧に処理できたなら、特別に俺の側近……いや、第二婚約者として再雇用してやってもいい。
悔しかったら、ドレスを着飾って来るがいい。
追伸:当日の受付リスト、誰か作っておいてくれ。やり方がわからん』
ファルルは無言で招待状を二つに折り、机の角で丁寧に折り目をつけた。
「……セバス。これ、何て書いてあるのかしら。私の語学力が退化したのか、意味が一行も理解できないわ」
「翻訳いたしましょうか? 『誰もパーティーの準備ができないから、お前が来て全部仕切ってくれ。ついでに寂しいから顔を見せろ』という、瀕死の叫びでございます」
「やっぱりそうよね。追伸の部分なんて、もはや隠す気さえないじゃない」
ファルルは呆れて溜息をついたが、その瞳の奥には「仕事人」としての鋭い光が宿り始めていた。
「『真実の愛を祝う大夜会』……。リリアン様は逃げ出したはずなのに、まだやるつもりかしら」
「おそらく、リリアン様が実家に帰られたことを、殿下は『長期の里帰り』程度にしか認識していないのでしょう。あるいは、あまりのショックに記憶が改竄されたか」
「救いようがないわね。……でも、面白いわ。この『再雇用試験』とやら、受けて立とうじゃないの」
「お嬢様、正気でございますか? あんなブラックな職場に、今さら戻るメリットなど……」
セバスが珍しく心配そうな声を上げたが、ファルルは不敵に微笑んだ。
「戻るわけないでしょう? 私は、私を馬鹿にした代償がどれほど高くつくか、市場価格を教えに行くだけよ。……それに、この夜会には国中の貴族が集まるわ」
ファルルは、ペンを回しながら続けた。
「私の『コンサルタント業』の、絶好のデモンストレーションになると思わない? 王家ですら解決できない問題を、元悪役令嬢が華麗に片付けて見せる。……これ以上の広告宣伝はないわ」
「なるほど。お嬢様にとっては、王宮すらも『集客のためのステージ』というわけですな」
「そういうこと。セバス、当日の衣装の準備を。テーマは『冷徹な経営者』……ではなく、『王家を買い叩く女帝』よ」
「心得ました。……あ、お嬢様。一点、気になることが。殿下が用意したという『十の嫌がらせ』ですが」
「ええ、何かしら」
「先ほど、王宮の掃除係の友人から連絡がありました。殿下、嫌がらせの内容を考えるのに没頭するあまり、当日の『ワインの手配』と『音楽隊への支払い』を完全に忘れているそうです」
ファルルは一瞬だけ天を仰ぎ、その後、力強く笑った。
「最高だわ! 嫌がらせ以前に、イベント自体が破綻しているじゃない。……いいわ、それも全部私が『有料』で解決して差し上げましょう」
「では、見積書の作成から始めますな。特急料金、および『殿下への精神的苦痛代』を含めて……」
「ええ。国庫が空になるくらいの額を提示してちょうだい」
ファルルは、招待状をゴミ箱に放り込む代わりに、メモ帳の下書きとして使い始めた。
悪役令嬢の「再雇用試験」。
それは、王子が望むような復縁の儀式ではなく、ファルルによる「王室解体ショー」の始まりであった。
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‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
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