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「……はあ、最高の目覚めだわ」
ボナパルト公爵邸のテラス。ファルルは、一点の曇りもない青空を見上げて伸びをした。
コンサルタントとしての「王宮再建プロジェクト」は昨日、無事に全工程を終了した。
今日からは、正真正銘、誰にも邪魔されない本当の有給休暇である。
「お嬢様。お目覚めのコーヒーと、隣国から取り寄せた『伝説のタルト』でございます」
セバスが、いつものように完璧な所作でトレイを差し出した。
「ありがとう、セバス。……ねえ、もう『お嬢様』って呼ばなくていいって言ったじゃない。隣国の皇子様が、私の執事をしているなんて知れ渡ったら、国際問題になるわよ」
「いいえ。私はあくまで、あなたの『専属資産』でございますから。……それに、皇位継承権はすべて兄たちに売り払って参りました。現在の私の全財産は、あなたへの『一生分の奉仕』に投資済みです」
セバスはいたずらっぽく微笑み、ファルルの隣に腰を下ろした。
「全財産を私に? ……ふふ、随分とハイリスクな投資ね。私、配当金(愛)に関しては、かなり厳しいわよ?」
「望むところでございます。……ところで、王宮の方から手紙が届いておりますが、読みますか?」
「読みたくないけれど、一応あのアホたちが生きてるかだけ確認しておこうかしら」
ファルルが受け取った手紙には、拙いながらも力強い文字で近況が記されていた。
『ファルルへ。
俺は今日、ついに「廊下のワックス掛け・上級」の免許を取得したぞ!
官吏たちからも「殿下が磨いた床は鏡のようだ」と絶賛されている。
リリアンは自分のベーコン屋をオープンさせた。初日の売り上げで、俺に新しい雑巾をプレゼントしてくれたぞ。
いつかお前を、俺が一番綺麗に磨いた客室に招待してやる。もちろん、宿泊費はきっちり払ってもらうがな!』
「……ふふっ。あんなに傲慢だった王子が、宿泊代を取るまでに成長するなんてね」
ファルルは手紙を閉じ、そよ風に目を細めた。
「リリアン様も、自分のブランドを立ち上げたようですな。店名は『真実のベーコン』だとか」
「あはは! 最高だわ。……二人とも、王族という名の『型』に嵌められていた時より、ずっといい顔をして働いているもの」
ファルルはコーヒーを一口飲み、セバスの手をそっと握った。
「ねえ、セバス。私、あの夜会で婚約破棄された時、人生が終わったと思ったけれど……」
「……実際には、新しい事業(人生)が始まっただけでございましたな」
「ええ。……誰かのために完璧を演じるんじゃなくて、自分のために、そして大切にしたい人のために力を使う。それがこんなに晴れやかな気持ちだなんて、思わなかったわ」
セバスは、繋いだ手に力を込め、ファルルを優しく引き寄せた。
「さて、経営者殿。……本日の『休日』という名の重要ミッション、次の予定は何でしょうか?」
「そうね……。まずはあなたと一緒に、街の市場へ出かけましょう。あの『怪しいジュース』を飲んで、それから……」
ファルルはセバスの肩に頭を預け、幸せそうに微笑んだ。
「……これから一生かけて、あなたという『最高利回りの資産』を愛でる計画を立てるのよ」
「それは、当家の経営も安泰でございますな」
かつて「悪役令嬢」と呼ばれ、激務の末に捨てられた少女は、今や自分の力で世界を動かし、最高のパートナーを手に入れた。
青空の下、彼女の晴れやかな笑い声が響き渡る。
「……やっぱり、あの日婚約破棄して、本当に良かったわ!」
ボナパルト公爵邸のテラス。ファルルは、一点の曇りもない青空を見上げて伸びをした。
コンサルタントとしての「王宮再建プロジェクト」は昨日、無事に全工程を終了した。
今日からは、正真正銘、誰にも邪魔されない本当の有給休暇である。
「お嬢様。お目覚めのコーヒーと、隣国から取り寄せた『伝説のタルト』でございます」
セバスが、いつものように完璧な所作でトレイを差し出した。
「ありがとう、セバス。……ねえ、もう『お嬢様』って呼ばなくていいって言ったじゃない。隣国の皇子様が、私の執事をしているなんて知れ渡ったら、国際問題になるわよ」
「いいえ。私はあくまで、あなたの『専属資産』でございますから。……それに、皇位継承権はすべて兄たちに売り払って参りました。現在の私の全財産は、あなたへの『一生分の奉仕』に投資済みです」
セバスはいたずらっぽく微笑み、ファルルの隣に腰を下ろした。
「全財産を私に? ……ふふ、随分とハイリスクな投資ね。私、配当金(愛)に関しては、かなり厳しいわよ?」
「望むところでございます。……ところで、王宮の方から手紙が届いておりますが、読みますか?」
「読みたくないけれど、一応あのアホたちが生きてるかだけ確認しておこうかしら」
ファルルが受け取った手紙には、拙いながらも力強い文字で近況が記されていた。
『ファルルへ。
俺は今日、ついに「廊下のワックス掛け・上級」の免許を取得したぞ!
官吏たちからも「殿下が磨いた床は鏡のようだ」と絶賛されている。
リリアンは自分のベーコン屋をオープンさせた。初日の売り上げで、俺に新しい雑巾をプレゼントしてくれたぞ。
いつかお前を、俺が一番綺麗に磨いた客室に招待してやる。もちろん、宿泊費はきっちり払ってもらうがな!』
「……ふふっ。あんなに傲慢だった王子が、宿泊代を取るまでに成長するなんてね」
ファルルは手紙を閉じ、そよ風に目を細めた。
「リリアン様も、自分のブランドを立ち上げたようですな。店名は『真実のベーコン』だとか」
「あはは! 最高だわ。……二人とも、王族という名の『型』に嵌められていた時より、ずっといい顔をして働いているもの」
ファルルはコーヒーを一口飲み、セバスの手をそっと握った。
「ねえ、セバス。私、あの夜会で婚約破棄された時、人生が終わったと思ったけれど……」
「……実際には、新しい事業(人生)が始まっただけでございましたな」
「ええ。……誰かのために完璧を演じるんじゃなくて、自分のために、そして大切にしたい人のために力を使う。それがこんなに晴れやかな気持ちだなんて、思わなかったわ」
セバスは、繋いだ手に力を込め、ファルルを優しく引き寄せた。
「さて、経営者殿。……本日の『休日』という名の重要ミッション、次の予定は何でしょうか?」
「そうね……。まずはあなたと一緒に、街の市場へ出かけましょう。あの『怪しいジュース』を飲んで、それから……」
ファルルはセバスの肩に頭を預け、幸せそうに微笑んだ。
「……これから一生かけて、あなたという『最高利回りの資産』を愛でる計画を立てるのよ」
「それは、当家の経営も安泰でございますな」
かつて「悪役令嬢」と呼ばれ、激務の末に捨てられた少女は、今や自分の力で世界を動かし、最高のパートナーを手に入れた。
青空の下、彼女の晴れやかな笑い声が響き渡る。
「……やっぱり、あの日婚約破棄して、本当に良かったわ!」
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