27 / 29
27
しおりを挟む
王都の聖堂に、かつてないほど厳かな鐘の音が鳴り響いた。
本日は、元悪役令嬢(自称)チャーミー・ド・ベルサイユと、騎士団長ゼノン公爵の結婚式。
参列者には国王陛下をはじめ、名だたる貴族たちが顔を揃えているが、会場の雰囲気はどこか異様だった。
「……おい。あんなウェディングドレス、見たことがあるか?」
参列者の一人が、ヒソヒソと隣の者に耳打ちする。
バージンロードの先、扉が開いて現れたチャーミーのドレスは、純白で豪華ではあったが、明らかに「可動域」を優先した改造が施されていた。
スカートの横には深いスリットが入り、肩周りは筋肉の動きを妨げないようにレースが排除されている。
「お父様、エスコート感謝いたしますわ。でも、もう少し歩幅を広げて、大股で歩いていただけて?」
「チャーミー、これでも精一杯なんだ……。お前の歩く速度、もはや行軍に近いぞ……」
ベルサイユ公爵は、娘の溢れ出るパワーに圧倒されながら、必死にバージンロードを歩いた。
祭壇で待つゼノンもまた、タキシードがはち切れんばかりの広背筋を誇示して立っている。
「……お嬢様。本日のあなたは、どのプロテインシェーカーよりも輝いています」
「ゼノン様こそ。その胸板の厚み、聖堂の柱と見紛うほどですわ!」
二人は神の前で向かい合った。本来なら、ここで愛の誓いを交わし、淑やかに接吻(せっぷん)を交わす場面である。
「それでは、誓いのキスを」
神官が震える声で告げた、その時だった。
「神官様、お待ちくださいませ! 唇を重ねるだけなんて、あまりにも静的(スタティック)すぎますわ!」
チャーミーがバッと手を挙げ、参列者の方を向いた。
「皆様! 私たちは、愛とは『共に負荷を分かち合うこと』だと確信しております! ですので、誓いのキスの代わりに、夫婦初の共同作業を披露させていただきますわ!」
チャーミーの合図と共に、マリアンヌが壇上へ巨大な金のバーベルを運び込んできた。
「師匠! 結婚祝いの『百五十キロ特注バーベル』、準備完了いたしましたわ!」
「ナイスですわ、マリアンヌ! さあ、ゼノン様! このバーベルを二人で掲げ、その下でスクワットをしながら、愛を誓いましょう!」
「……御意。それが、私たちが歩むべき『鋼の道』の第一歩ですね」
ゼノンは迷いなくバーベルの片側を掴み、チャーミーがもう片側を掴んだ。
「せーの……ドッコイセー!!」
二人の絶叫が聖堂に響き渡り、巨大な金色の塊が頭上に掲げられた。
そのまま、二人は完璧なフォームで腰を沈め、最下点で三秒間静止した。
「「永遠に、共に鍛え抜くことを誓います!!」」
その光景に、参列した貴族たちは開いた口が塞がらなかった。しかし、最前列にいた一人の男だけが、涙を流しながら立ち上がった。
「おお……! ブラボー! なんてダイナミックな愛の形なんだ! これこそが真実の『マッスル・ウェディング』だ!」
アルフォンス王子である。彼は今、以前の泥まみれとは違う、機能的なトレーニングウェア風の礼服に身を包んでいた。
「私の新作ポエムも、今ならこう書ける!『君の愛はデッドリフトの重み、僕の心はパンプアップするサファイア』だ!」
「……殿下、少し静かにしてください。神聖な儀式の最中です」
近習に宥められながらも、王子の拍手は止まらなかった。
国王陛下も、呆れ果てながらも「……まあ、幸せそうだから良いか」と力なく笑い、ようやく式はクライマックスを迎えた。
「さあ、ゼノン様! 披露宴は、王都中のジムを貸し切っての『二十四時間耐久ベンチプレス大会』ですわよ!」
「……お供します。ハネムーンの崖のぼりのための、良いウォームアップになりますね」
新郎が新婦を「お姫様抱っこ」……ではなく「リフトアップ」した状態で退場する姿は、後に王国の伝説として、千年先まで語り継がれることになる。
自由を求めた悪役令嬢は、ついに最強の理解者と共に、誰にも邪魔されない筋肉の荒野へと旅立つのだった。
本日は、元悪役令嬢(自称)チャーミー・ド・ベルサイユと、騎士団長ゼノン公爵の結婚式。
参列者には国王陛下をはじめ、名だたる貴族たちが顔を揃えているが、会場の雰囲気はどこか異様だった。
「……おい。あんなウェディングドレス、見たことがあるか?」
参列者の一人が、ヒソヒソと隣の者に耳打ちする。
バージンロードの先、扉が開いて現れたチャーミーのドレスは、純白で豪華ではあったが、明らかに「可動域」を優先した改造が施されていた。
スカートの横には深いスリットが入り、肩周りは筋肉の動きを妨げないようにレースが排除されている。
「お父様、エスコート感謝いたしますわ。でも、もう少し歩幅を広げて、大股で歩いていただけて?」
「チャーミー、これでも精一杯なんだ……。お前の歩く速度、もはや行軍に近いぞ……」
ベルサイユ公爵は、娘の溢れ出るパワーに圧倒されながら、必死にバージンロードを歩いた。
祭壇で待つゼノンもまた、タキシードがはち切れんばかりの広背筋を誇示して立っている。
「……お嬢様。本日のあなたは、どのプロテインシェーカーよりも輝いています」
「ゼノン様こそ。その胸板の厚み、聖堂の柱と見紛うほどですわ!」
二人は神の前で向かい合った。本来なら、ここで愛の誓いを交わし、淑やかに接吻(せっぷん)を交わす場面である。
「それでは、誓いのキスを」
神官が震える声で告げた、その時だった。
「神官様、お待ちくださいませ! 唇を重ねるだけなんて、あまりにも静的(スタティック)すぎますわ!」
チャーミーがバッと手を挙げ、参列者の方を向いた。
「皆様! 私たちは、愛とは『共に負荷を分かち合うこと』だと確信しております! ですので、誓いのキスの代わりに、夫婦初の共同作業を披露させていただきますわ!」
チャーミーの合図と共に、マリアンヌが壇上へ巨大な金のバーベルを運び込んできた。
「師匠! 結婚祝いの『百五十キロ特注バーベル』、準備完了いたしましたわ!」
「ナイスですわ、マリアンヌ! さあ、ゼノン様! このバーベルを二人で掲げ、その下でスクワットをしながら、愛を誓いましょう!」
「……御意。それが、私たちが歩むべき『鋼の道』の第一歩ですね」
ゼノンは迷いなくバーベルの片側を掴み、チャーミーがもう片側を掴んだ。
「せーの……ドッコイセー!!」
二人の絶叫が聖堂に響き渡り、巨大な金色の塊が頭上に掲げられた。
そのまま、二人は完璧なフォームで腰を沈め、最下点で三秒間静止した。
「「永遠に、共に鍛え抜くことを誓います!!」」
その光景に、参列した貴族たちは開いた口が塞がらなかった。しかし、最前列にいた一人の男だけが、涙を流しながら立ち上がった。
「おお……! ブラボー! なんてダイナミックな愛の形なんだ! これこそが真実の『マッスル・ウェディング』だ!」
アルフォンス王子である。彼は今、以前の泥まみれとは違う、機能的なトレーニングウェア風の礼服に身を包んでいた。
「私の新作ポエムも、今ならこう書ける!『君の愛はデッドリフトの重み、僕の心はパンプアップするサファイア』だ!」
「……殿下、少し静かにしてください。神聖な儀式の最中です」
近習に宥められながらも、王子の拍手は止まらなかった。
国王陛下も、呆れ果てながらも「……まあ、幸せそうだから良いか」と力なく笑い、ようやく式はクライマックスを迎えた。
「さあ、ゼノン様! 披露宴は、王都中のジムを貸し切っての『二十四時間耐久ベンチプレス大会』ですわよ!」
「……お供します。ハネムーンの崖のぼりのための、良いウォームアップになりますね」
新郎が新婦を「お姫様抱っこ」……ではなく「リフトアップ」した状態で退場する姿は、後に王国の伝説として、千年先まで語り継がれることになる。
自由を求めた悪役令嬢は、ついに最強の理解者と共に、誰にも邪魔されない筋肉の荒野へと旅立つのだった。
0
あなたにおすすめの小説
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる