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「……最高ですわ、ゼノン様! この酸素の薄さ、そしてこの絶望的な傾斜! ハネムーンの行き先に『大陸最高峰の死の山』を選ぶなんて、あなたって本当にロマンチストですわね!」
標高八千メートル。猛吹雪が吹き荒れる断崖絶壁で、チャーミーは歓喜の叫びを上げていた。
彼女は今、防寒具を脱ぎ捨て(筋肉の熱で十分だと言い張った)、背中に巨大な岩を括り付けた状態で、素手で岩壁を登っている。
「喜んでいただけて光栄です、チャーミー。この山は、登頂するまでに三千回の指先懸垂を強いてくる、まさに『愛の試練』にふさわしい聖地ですから」
隣ではゼノンが、彼女の安全を確保する……のではなく、より負荷を高めるために彼女の足を時折引っ張るという「愛のムチ」を繰り出しながら並走していた。
「ああ、見てくださいませ! 私の指先が、岩を掴むたびに歓喜の悲鳴を上げていますわ! これこそが、私たちが誓った『共同戦線』の醍醐味ですわね!」
チャーミーは最後の一踏ん張りで、垂直の壁を乗り越え、山頂の狭い平地へと飛び乗った。
「……お見事です。タイムも自己ベストを更新しましたね。ご褒美に、私が自ら調合した『特製・高地用高濃度プロテイン』を差し上げましょう」
ゼノンが懐から取り出したのは、マイナス三十度の極寒でも凍らないように、魔力で加熱され続けている黄金色の液体だった。
「ありがとうございますわ、ゼノン様! ……んっ、濃厚! このドロリとした食感、血管の一つ一つに愛が染み渡るようですわ!」
チャーミーは空になったボトルを握りつぶすと、眼下に広がる雲海を見下ろした。
「さて……。ゼノン様。ここで一休みしたら、次は下山ですわね? もちろん、普通に降りるなんて退屈なことはおっしゃいませんわよね?」
「もちろんです。下山は『逆立ち』で、脊柱起立筋を鍛えながら降りるのが、この山の正しい礼儀だと聞いています」
「まあ! 逆立ち下山! なんてエキサイティングな響きかしら!」
二人が逆立ちの準備を始めた、その時だった。
山頂の影から、ガサガサと不審な音がした。
「……な、なんだ。ここにも『筋肉の求道者』がいるというのか……?」
現れたのは、全身を分厚い毛皮で覆い、しかし顔だけはどこか見覚えのある、逞しい体格の男だった。
「あら……? その、無駄にポエムを感じさせる眉毛のライン……。もしかして、アルフォンス殿下ですの!?」
「……フッ。今はただの『マッスル・アルフォンス』と呼んでくれ。私はこの山で、自分の中の『愛』という名の脂肪を削ぎ落としている最中なのだ」
王子は、以前の面影を完全に失い、胸板がはち切れんばかりの巨漢へと変貌していた。
「殿下……。王務はどうしたのですか。まさか、また無断で……」
ゼノンが呆れたように尋ねると、王子は岩の上で完璧なポーズ(サイドチェスト)を決めながら答えた。
「安心しろ。今は国政も『筋肉投票制』だ。私が不在の間も、全国民がスクワットをしながら議論を戦わせている。……それよりチャーミー、見てくれ、私のこの大腿筋を! 君への未練を全て筋肉に変換した、努力の結晶だ!」
「……素晴らしいですわ、殿下! その筋肉の輝き、かつてのポエムの百万倍は説得力がありますわよ!」
チャーミーは豪快に笑い、王子の肩をバチコーン! と叩いた。王子の体が岩にめり込んだが、彼は嬉しそうに歯を見せて笑った。
「では、殿下もご一緒にいかが? 今から『逆立ち下山・競争』を始めるところなんですの!」
「……望むところだ! 私の広背筋が、風を捉えて翼(物理)となるのを見せてやろう!」
かくして、大陸最高峰の山頂から、三人の変人……もとい、超人たちが逆立ちで猛スピードで駆け降りていくという、世にも奇妙な光景が繰り広げられた。
「幸せですわーっ!! 自由と筋肉、最高ですわーっ!!」
チャーミーの絶叫は、雪崩を引き起こすほどの威力を持って、山々にこだました。
悪役令嬢の看板を投げ捨て、自由という名のダンベルを掴んだ彼女に、もう怖いものなど何一つない。
彼女の行く先には、常に新しい負荷と、最高の笑顔が待っているのだから。
標高八千メートル。猛吹雪が吹き荒れる断崖絶壁で、チャーミーは歓喜の叫びを上げていた。
彼女は今、防寒具を脱ぎ捨て(筋肉の熱で十分だと言い張った)、背中に巨大な岩を括り付けた状態で、素手で岩壁を登っている。
「喜んでいただけて光栄です、チャーミー。この山は、登頂するまでに三千回の指先懸垂を強いてくる、まさに『愛の試練』にふさわしい聖地ですから」
隣ではゼノンが、彼女の安全を確保する……のではなく、より負荷を高めるために彼女の足を時折引っ張るという「愛のムチ」を繰り出しながら並走していた。
「ああ、見てくださいませ! 私の指先が、岩を掴むたびに歓喜の悲鳴を上げていますわ! これこそが、私たちが誓った『共同戦線』の醍醐味ですわね!」
チャーミーは最後の一踏ん張りで、垂直の壁を乗り越え、山頂の狭い平地へと飛び乗った。
「……お見事です。タイムも自己ベストを更新しましたね。ご褒美に、私が自ら調合した『特製・高地用高濃度プロテイン』を差し上げましょう」
ゼノンが懐から取り出したのは、マイナス三十度の極寒でも凍らないように、魔力で加熱され続けている黄金色の液体だった。
「ありがとうございますわ、ゼノン様! ……んっ、濃厚! このドロリとした食感、血管の一つ一つに愛が染み渡るようですわ!」
チャーミーは空になったボトルを握りつぶすと、眼下に広がる雲海を見下ろした。
「さて……。ゼノン様。ここで一休みしたら、次は下山ですわね? もちろん、普通に降りるなんて退屈なことはおっしゃいませんわよね?」
「もちろんです。下山は『逆立ち』で、脊柱起立筋を鍛えながら降りるのが、この山の正しい礼儀だと聞いています」
「まあ! 逆立ち下山! なんてエキサイティングな響きかしら!」
二人が逆立ちの準備を始めた、その時だった。
山頂の影から、ガサガサと不審な音がした。
「……な、なんだ。ここにも『筋肉の求道者』がいるというのか……?」
現れたのは、全身を分厚い毛皮で覆い、しかし顔だけはどこか見覚えのある、逞しい体格の男だった。
「あら……? その、無駄にポエムを感じさせる眉毛のライン……。もしかして、アルフォンス殿下ですの!?」
「……フッ。今はただの『マッスル・アルフォンス』と呼んでくれ。私はこの山で、自分の中の『愛』という名の脂肪を削ぎ落としている最中なのだ」
王子は、以前の面影を完全に失い、胸板がはち切れんばかりの巨漢へと変貌していた。
「殿下……。王務はどうしたのですか。まさか、また無断で……」
ゼノンが呆れたように尋ねると、王子は岩の上で完璧なポーズ(サイドチェスト)を決めながら答えた。
「安心しろ。今は国政も『筋肉投票制』だ。私が不在の間も、全国民がスクワットをしながら議論を戦わせている。……それよりチャーミー、見てくれ、私のこの大腿筋を! 君への未練を全て筋肉に変換した、努力の結晶だ!」
「……素晴らしいですわ、殿下! その筋肉の輝き、かつてのポエムの百万倍は説得力がありますわよ!」
チャーミーは豪快に笑い、王子の肩をバチコーン! と叩いた。王子の体が岩にめり込んだが、彼は嬉しそうに歯を見せて笑った。
「では、殿下もご一緒にいかが? 今から『逆立ち下山・競争』を始めるところなんですの!」
「……望むところだ! 私の広背筋が、風を捉えて翼(物理)となるのを見せてやろう!」
かくして、大陸最高峰の山頂から、三人の変人……もとい、超人たちが逆立ちで猛スピードで駆け降りていくという、世にも奇妙な光景が繰り広げられた。
「幸せですわーっ!! 自由と筋肉、最高ですわーっ!!」
チャーミーの絶叫は、雪崩を引き起こすほどの威力を持って、山々にこだました。
悪役令嬢の看板を投げ捨て、自由という名のダンベルを掴んだ彼女に、もう怖いものなど何一つない。
彼女の行く先には、常に新しい負荷と、最高の笑顔が待っているのだから。
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