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「……はあ、はあ。ようやく着いたわ……隣国の王都、セント・メテオ!」
雪山での「シチューの看板(兄の罠)」を、ゼクスの「そんな美味い話が雪山にあるわけないだろう」という至極真っ当なツッコミで回避し、私たちはついに目的地へ辿り着いた。
石造りの壮麗な街並み、行き交う豪華な馬車。
ここならお兄様の魔の手も、王子のポエムも届かない……はずよ。
「イーズ様、見てください! あそこの掲示板、人が集まっていますよ。また新しいグルメ情報でしょうか!」
「ララさん、あなた学習能力って言葉を知っているかしら……。あの人だかり、嫌な予感しかしないわ」
私はハンチング帽を深く被り直し、恐る恐る人だかりの隙間から掲示板を覗き込んだ。
そこには、王都騎士団の公印が押された、最新の指名手配書が貼り出されていた。
『緊急確保! 王国より失踪した「至宝の聖女」を探せ!』
(……至宝の聖女? 極悪非道の魔女から、二ヶ月でジョブチェンジしたの?)
私は震える手で、その似顔絵を確認した。
……。…………。
そこに描かれていたのは、もはや人間ですらなかった。
『特徴:背中から後光が差し、歩いた後にはバラが咲き乱れる。瞳はダイヤモンド、吐息は春のそよ風。身長はおよそ五メートル。慈愛に満ちたその姿は、見る者の心を浄化し、無条件で平伏させる』
「……。………………。誰よこれ」
「……プッ、クククッ……。おい、エド……いや、聖女様。お前の瞳、ダイヤモンドだったのか。今すぐ一個売ってくれ、胃薬代にする」
隣で手配書を見たゼクスが、必死に笑いを堪えながら私の肩を叩く。
私は怒りを通り越して、虚無感に襲われていた。
「これ、絶対にお兄様の仕業だわ……。あの大バカ王子は『魔獣』にしたけど、お兄様は私を『神格化』して探し始めたのね。……五メートルって何よ、進撃してくるつもりかしら!」
「でもイーズ様、これなら絶対にバレませんよ! だって、今のイーズ様は煤だらけで、髪も短くて、後光どころか殺気しか出ていませんもの!」
「ララさん、フォローになってないわよ」
私はため息をつき、掲示板から離れた。
確かに、この「神々しすぎる似顔絵」のおかげで、誰も目の前の少年エドが指名手配犯だとは思わないだろう。
実際、隣に立っていた衛兵も、手配書と私を交互に見て「……ふん、似ても似つかないな。あんな女神様が、こんな薄汚いガキのわけがない」と鼻で笑って通り過ぎていった。
「……ま、結果オーライね。お兄様の『妹フィルター』が、私の最強の盾になったわ」
「そうだな。……だが、安心するのは早いぞ。掲示板の隅っこを見ろ。……別名義で、もう一枚ある」
ゼクスに指差された場所には、小さな、しかし非常に不穏なフォントの手紙が貼ってあった。
『イーズへ。シチューの罠を避けるとは、少し知恵がついたね。でも、この街の「全定食屋」には、すでに君の「咀嚼パターン」を登録した魔導具を配布済みだ。一口でも肉を噛めば、私が君の背後にテレポートするよ。――愛する兄より』
「……。………………。……ねえ、ゼクス。この国に、肉を食べなくて済む場所ってある?」
「……。……ベジタリアンの修道院くらいだな。……だが、お前、肉なしで三日と保たないだろう?」
私は絶望に打ちひしがれた。
兄の効率的な変態性は、私の生存本能を完璧に把握していた。
五メートルの女神として探されつつ、一口の肉で捕まるリスク。
「……こうなったら、究極の対策よ。ララさん、ゼクス! 私たちは今日から、肉を『飲み物』として扱うわ!」
「えっ!? 飲み物ですかぁ!?」
「噛まなきゃいいのよ、噛まなきゃ! ミキサーか何かでペースト状にして、ストローで飲むの! そうすれば咀嚼パターンには引っかからないはずよ!」
「……。……お前、そこまでして肉を食いたいのか。……胃が、想像しただけで胃が痛くなってきた……」
ゼクスが再び胃を押さえて蹲る中、私は王都の空を見上げて誓った。
お兄様、あなたの負けよ。
私は「肉ジュース」を飲んででも、この逃亡生活を完遂してやるんだから!
一方その頃、王都の最高級ホテルの一室で。
カインは優雅に紅茶を飲みながら、手元の魔導モニターを見つめていた。
「……ほう。肉を飲み物にする、か。……ふふ、やはり私の妹だ。発想の転換が素晴らしいね。……だがイーズ、君は忘れているよ。『喉越しパターン』も、すでに登録済みだということをね」
カインの眼鏡が、怪しくキランと光った。
雪山での「シチューの看板(兄の罠)」を、ゼクスの「そんな美味い話が雪山にあるわけないだろう」という至極真っ当なツッコミで回避し、私たちはついに目的地へ辿り着いた。
石造りの壮麗な街並み、行き交う豪華な馬車。
ここならお兄様の魔の手も、王子のポエムも届かない……はずよ。
「イーズ様、見てください! あそこの掲示板、人が集まっていますよ。また新しいグルメ情報でしょうか!」
「ララさん、あなた学習能力って言葉を知っているかしら……。あの人だかり、嫌な予感しかしないわ」
私はハンチング帽を深く被り直し、恐る恐る人だかりの隙間から掲示板を覗き込んだ。
そこには、王都騎士団の公印が押された、最新の指名手配書が貼り出されていた。
『緊急確保! 王国より失踪した「至宝の聖女」を探せ!』
(……至宝の聖女? 極悪非道の魔女から、二ヶ月でジョブチェンジしたの?)
私は震える手で、その似顔絵を確認した。
……。…………。
そこに描かれていたのは、もはや人間ですらなかった。
『特徴:背中から後光が差し、歩いた後にはバラが咲き乱れる。瞳はダイヤモンド、吐息は春のそよ風。身長はおよそ五メートル。慈愛に満ちたその姿は、見る者の心を浄化し、無条件で平伏させる』
「……。………………。誰よこれ」
「……プッ、クククッ……。おい、エド……いや、聖女様。お前の瞳、ダイヤモンドだったのか。今すぐ一個売ってくれ、胃薬代にする」
隣で手配書を見たゼクスが、必死に笑いを堪えながら私の肩を叩く。
私は怒りを通り越して、虚無感に襲われていた。
「これ、絶対にお兄様の仕業だわ……。あの大バカ王子は『魔獣』にしたけど、お兄様は私を『神格化』して探し始めたのね。……五メートルって何よ、進撃してくるつもりかしら!」
「でもイーズ様、これなら絶対にバレませんよ! だって、今のイーズ様は煤だらけで、髪も短くて、後光どころか殺気しか出ていませんもの!」
「ララさん、フォローになってないわよ」
私はため息をつき、掲示板から離れた。
確かに、この「神々しすぎる似顔絵」のおかげで、誰も目の前の少年エドが指名手配犯だとは思わないだろう。
実際、隣に立っていた衛兵も、手配書と私を交互に見て「……ふん、似ても似つかないな。あんな女神様が、こんな薄汚いガキのわけがない」と鼻で笑って通り過ぎていった。
「……ま、結果オーライね。お兄様の『妹フィルター』が、私の最強の盾になったわ」
「そうだな。……だが、安心するのは早いぞ。掲示板の隅っこを見ろ。……別名義で、もう一枚ある」
ゼクスに指差された場所には、小さな、しかし非常に不穏なフォントの手紙が貼ってあった。
『イーズへ。シチューの罠を避けるとは、少し知恵がついたね。でも、この街の「全定食屋」には、すでに君の「咀嚼パターン」を登録した魔導具を配布済みだ。一口でも肉を噛めば、私が君の背後にテレポートするよ。――愛する兄より』
「……。………………。……ねえ、ゼクス。この国に、肉を食べなくて済む場所ってある?」
「……。……ベジタリアンの修道院くらいだな。……だが、お前、肉なしで三日と保たないだろう?」
私は絶望に打ちひしがれた。
兄の効率的な変態性は、私の生存本能を完璧に把握していた。
五メートルの女神として探されつつ、一口の肉で捕まるリスク。
「……こうなったら、究極の対策よ。ララさん、ゼクス! 私たちは今日から、肉を『飲み物』として扱うわ!」
「えっ!? 飲み物ですかぁ!?」
「噛まなきゃいいのよ、噛まなきゃ! ミキサーか何かでペースト状にして、ストローで飲むの! そうすれば咀嚼パターンには引っかからないはずよ!」
「……。……お前、そこまでして肉を食いたいのか。……胃が、想像しただけで胃が痛くなってきた……」
ゼクスが再び胃を押さえて蹲る中、私は王都の空を見上げて誓った。
お兄様、あなたの負けよ。
私は「肉ジュース」を飲んででも、この逃亡生活を完遂してやるんだから!
一方その頃、王都の最高級ホテルの一室で。
カインは優雅に紅茶を飲みながら、手元の魔導モニターを見つめていた。
「……ほう。肉を飲み物にする、か。……ふふ、やはり私の妹だ。発想の転換が素晴らしいね。……だがイーズ、君は忘れているよ。『喉越しパターン』も、すでに登録済みだということをね」
カインの眼鏡が、怪しくキランと光った。
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