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「ベルベット! ああ、私の可愛いベルベット! なんてことだ、あの馬鹿王子が婚約破棄などと……! 今すぐ騎士団を動かして王宮に抗議してくる!」
実家であるローゼライト公爵邸に戻るなり、父である公爵が涙を流しながら私に抱きつこうとしてきました。
私はそれを、手にした扇子(計算機代わりに使用中)でピシャリと制止します。
「お父様。接近する前に許可を求めてください。あと、涙を拭いてください。水分が私のドレスに付着すると、クリーニング代という無駄なコストが発生しますわ」
「ひどい!? 娘が婚約破棄されて帰ってきたというのに、その冷静さはなんだ! ショックで頭の回路がショートしてしまったのか!?」
「いいえ。むしろ余計な負荷が取り除かれて、処理速度は通常の三倍に跳ね上がっております。お父様、抗議などという非生産的な行為にリソースを割くのはおやめください。それよりも、この書類にサインを」
私は、馬車の中で書き上げた「対王家損害賠償請求および資産譲渡計画書」を突きつけました。
「……なんだね、これは。慰謝料として……王都中心部の商業ギルドの議決権、および王立図書室の全権掌握……? ベルベット、お前、王妃になるより恐ろしいことを考えていないか?」
「権力には興味ありません。私はただ、この国の『淀み』を掃除したいだけです。……ところで、お父様。私は明日から、この屋敷の別館を使って新しい事業を始めますわ」
「事業だと? 公爵令嬢が商売をするというのか?」
「はい。題して『悪役令嬢コンサルタント』。世の中には、不当な婚約破棄や、感情論で不利益を被っている女性たちが溢れています。彼女たちに、論理と正論という名の武器を授け、人生を最適化して差し上げるのです」
「……それ、ただの復讐代行サービスじゃないか?」
「心外ですわ。私はただ、社会全体の幸福指数を最大化するための、合理的アドバイスを行うだけです。……あ、お父様。ついでにこの屋敷の家計簿も見直しておきました。庭師の人数が多すぎます。植物の成長速度に対して、剪定の頻度が過剰ですわ。三名解雇、あるいは配置転換を」
「我が家の庭師までリストラするのか!? ベルベット、お前、本当に情けというものがないのか!」
「情けで庭は綺麗になりません。……さて、開店準備に取り掛かりますわ。看板のフォントは可読性の高いゴシック体にしましょう」
翌日。
ローゼライト公爵邸の門前には、仰々しい看板が掲げられました。
『ベルベットの最適化&悪役令嬢コンサルタント ~貴女の人生のバグ、修正いたします~』
門番たちが遠巻きに見守る中、私は別館の応接室を「相談室」に改造し、完璧な事務作業環境を整えました。
「お嬢様……。本当に、お客様なんて来るのでしょうか?」
不安げに尋ねるのは、侍女のアンです。
彼女は私の「マシンガントーク」の最大の被害者の一人ですが、最近はそのリズムに慣れてきたようで、タイピング(魔導書記)の速度が上がっています。
「アン、需要があるから供給が生まれるのです。この国には、理不尽な理由で『悪女』のレッテルを貼られた有能な女性が隠れているはずです。彼女たちは、感情的な叫び方を知らないだけ。……あ、来ましたわ。第一号です」
コンコン、と控えめな、しかし力強いノックの音が響きました。
「失礼する」
入ってきたのは、昨夜、私をエスコートしてくれた近衛騎士団長、ジークフルト様でした。
彼は公務ではないのか、軽装の革鎧を身に纏っています。
「ジークフルト様。……騎士団長ともあろう方が、朝から公爵邸を訪れるとは。勤怠管理はどうなっているのですか?」
「……今日は非番だ。それに、君が面白いことを始めたと聞いてな。……おい、その看板は本気か? 『悪役令嬢コンサルタント』とは」
「本気でない仕事をしたことはありません。……で、本日のご用件は? まさか、騎士団の筋肉増強のための効率的なプロテインの配合でも聞きに来たのですか?」
「いや。……実は、相談したいことがある。私自身の、……『印象』についてだ」
ジークフルト様は、少し気まずそうに視線を逸らしました。
「印象、ですか。貴方の顔は確かに凶悪で、初対面の子供が三秒で泣き出すレベルですが、それは遺伝子的な初期設定ですから修正不可能ですわよ」
「そこまで酷いか!? ……いや、そうではなく。私は、ある女性に想いを寄せているのだが……どうにも、恐怖を抱かれているようでな。どうすれば、私の真意を『効率的』に伝えられるか、教えてほしい」
私は手にしていた羽根ペンを置き、眼鏡(度なし、知的演出用)のブリッジを押し上げました。
「恋愛相談、ですか。……よろしいでしょう。それも一種の『コミュニケーション・エラーの修正』です。まず、その方の基本データ、および過去の接触ログをすべて提示してください。……一文字の漏れもなく、ですわよ?」
ジークフルト様が、心なしか引き攣った笑みを浮かべました。
「……手厳しいな。だが、君なら解決してくれそうだ」
「当然です。私の辞書に『未解決』という非効率な言葉はありません」
こうして、記念すべき第一号のクライアント……「恋する脳筋騎士団長」との、理詰めすぎるコンサルティングが始まったのです。
実家であるローゼライト公爵邸に戻るなり、父である公爵が涙を流しながら私に抱きつこうとしてきました。
私はそれを、手にした扇子(計算機代わりに使用中)でピシャリと制止します。
「お父様。接近する前に許可を求めてください。あと、涙を拭いてください。水分が私のドレスに付着すると、クリーニング代という無駄なコストが発生しますわ」
「ひどい!? 娘が婚約破棄されて帰ってきたというのに、その冷静さはなんだ! ショックで頭の回路がショートしてしまったのか!?」
「いいえ。むしろ余計な負荷が取り除かれて、処理速度は通常の三倍に跳ね上がっております。お父様、抗議などという非生産的な行為にリソースを割くのはおやめください。それよりも、この書類にサインを」
私は、馬車の中で書き上げた「対王家損害賠償請求および資産譲渡計画書」を突きつけました。
「……なんだね、これは。慰謝料として……王都中心部の商業ギルドの議決権、および王立図書室の全権掌握……? ベルベット、お前、王妃になるより恐ろしいことを考えていないか?」
「権力には興味ありません。私はただ、この国の『淀み』を掃除したいだけです。……ところで、お父様。私は明日から、この屋敷の別館を使って新しい事業を始めますわ」
「事業だと? 公爵令嬢が商売をするというのか?」
「はい。題して『悪役令嬢コンサルタント』。世の中には、不当な婚約破棄や、感情論で不利益を被っている女性たちが溢れています。彼女たちに、論理と正論という名の武器を授け、人生を最適化して差し上げるのです」
「……それ、ただの復讐代行サービスじゃないか?」
「心外ですわ。私はただ、社会全体の幸福指数を最大化するための、合理的アドバイスを行うだけです。……あ、お父様。ついでにこの屋敷の家計簿も見直しておきました。庭師の人数が多すぎます。植物の成長速度に対して、剪定の頻度が過剰ですわ。三名解雇、あるいは配置転換を」
「我が家の庭師までリストラするのか!? ベルベット、お前、本当に情けというものがないのか!」
「情けで庭は綺麗になりません。……さて、開店準備に取り掛かりますわ。看板のフォントは可読性の高いゴシック体にしましょう」
翌日。
ローゼライト公爵邸の門前には、仰々しい看板が掲げられました。
『ベルベットの最適化&悪役令嬢コンサルタント ~貴女の人生のバグ、修正いたします~』
門番たちが遠巻きに見守る中、私は別館の応接室を「相談室」に改造し、完璧な事務作業環境を整えました。
「お嬢様……。本当に、お客様なんて来るのでしょうか?」
不安げに尋ねるのは、侍女のアンです。
彼女は私の「マシンガントーク」の最大の被害者の一人ですが、最近はそのリズムに慣れてきたようで、タイピング(魔導書記)の速度が上がっています。
「アン、需要があるから供給が生まれるのです。この国には、理不尽な理由で『悪女』のレッテルを貼られた有能な女性が隠れているはずです。彼女たちは、感情的な叫び方を知らないだけ。……あ、来ましたわ。第一号です」
コンコン、と控えめな、しかし力強いノックの音が響きました。
「失礼する」
入ってきたのは、昨夜、私をエスコートしてくれた近衛騎士団長、ジークフルト様でした。
彼は公務ではないのか、軽装の革鎧を身に纏っています。
「ジークフルト様。……騎士団長ともあろう方が、朝から公爵邸を訪れるとは。勤怠管理はどうなっているのですか?」
「……今日は非番だ。それに、君が面白いことを始めたと聞いてな。……おい、その看板は本気か? 『悪役令嬢コンサルタント』とは」
「本気でない仕事をしたことはありません。……で、本日のご用件は? まさか、騎士団の筋肉増強のための効率的なプロテインの配合でも聞きに来たのですか?」
「いや。……実は、相談したいことがある。私自身の、……『印象』についてだ」
ジークフルト様は、少し気まずそうに視線を逸らしました。
「印象、ですか。貴方の顔は確かに凶悪で、初対面の子供が三秒で泣き出すレベルですが、それは遺伝子的な初期設定ですから修正不可能ですわよ」
「そこまで酷いか!? ……いや、そうではなく。私は、ある女性に想いを寄せているのだが……どうにも、恐怖を抱かれているようでな。どうすれば、私の真意を『効率的』に伝えられるか、教えてほしい」
私は手にしていた羽根ペンを置き、眼鏡(度なし、知的演出用)のブリッジを押し上げました。
「恋愛相談、ですか。……よろしいでしょう。それも一種の『コミュニケーション・エラーの修正』です。まず、その方の基本データ、および過去の接触ログをすべて提示してください。……一文字の漏れもなく、ですわよ?」
ジークフルト様が、心なしか引き攣った笑みを浮かべました。
「……手厳しいな。だが、君なら解決してくれそうだ」
「当然です。私の辞書に『未解決』という非効率な言葉はありません」
こうして、記念すべき第一号のクライアント……「恋する脳筋騎士団長」との、理詰めすぎるコンサルティングが始まったのです。
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