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「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。……ですが、私たちがここで見つめ合い、非科学的な『永遠』の誓いに無駄な時間を費やすのは、極めて非効率だと思いませんか?」
王立大聖堂。
純白のドレスに身を包んだ私は、神父様から聖典をひったくり……いえ、お借りして、参列者の方々を真っ直ぐに見据えました。
静まり返る聖堂内。
国王陛下、公爵家の人々、そして私のファンクラブの会員たち。
彼らは、今から始まる「歴史的瞬間」を、固唾を呑んで見守っています。
「お、お嬢様……。……。せめて、神の前ではしおらしく……」
父である公爵が、ハンカチを噛み締めながら震えています。
しかし、私は止まりません。
隣に立つジークフルト様に目配せすると、彼は慣れた手つきで、祭壇の横に隠しておいた巨大な図表(プレゼンボード)を掲げました。
「……。ベルベット様。……準備は整っている。……思う存分、我々の『未来』を論破してくれ」
「感謝しますわ、ジークフルト様。……さて、皆様。……本日の挙式における『誓いの言葉』に代えまして、私とジークフルト様の『今後の家計、および共同生活における最適化戦略』についてのプレゼンテーションを行いますわ」
私は差し棒を手に取り、図表の一点を指しました。
「まず一点目。……世帯収入の三割を、領地のインフラ改善および魔導技術の投資に充てます。……これにより、我が家の資産価値は十年後に一八〇パーセントの成長を見込みますわ。……愛があれば金はいらない? ……ふん、愛だけで冬の暖房費が払えるとでも?」
会場から、失笑と、それ以上に深い納得の溜息が漏れました。
「二点目。……育児および家事の効率化について。……ジークフルト様の筋肉は、重い家具の移動や、子供の抱っこ紐の代用として極めて高いスペックを誇ります。……彼の身体能力を家庭内労働にフル活用することで、私の演算リソースを国家のデバッグに集中させることが可能ですわ」
「……。ああ、喜んで子供の『盾』になろう。……背筋でゆりかごを揺らす練習も始めている」
ジークフルト様が、大真面目な顔で頷きました。
その姿に、騎士団の部下たちが「団長、かっこいいっす!」と涙を流しています。
「そして三点目。……これが最も重要です。……ジークフルト様。貴方は先程から、私の顔を見て『美しい』と、一分間に三回も口にしていますわね」
「……。事実だからな。回数が足りないくらいだ」
「……。その発言は、私の照れによる心拍数の上昇を招き、プレゼンの精度を低下させます。……よって、結婚後の甘い言葉は、一日三回、指定された『幸福補給時間』以外は禁止とさせていただきますわ」
「……。それだけは、守れる自信がないな。……例外規定を設けてもらおうか。……君が可愛すぎる場合は、無制限に口にできるという特約を」
ジークフルト様が、私の腰をそっと抱き寄せ、耳元で囁きました。
……心拍数、最大値を更新。
私の脳内メモリが、再び真っ白になりそうになります。
「……っ。……その、……特約の条項については、今夜の披露宴の後に、二人で精査することにいたしますわ。……不服は認めませんからね!」
私が顔を真っ赤にして言い放つと、聖堂全体が爆発的な笑いと祝福の拍手に包まれました。
「お姉様! ジークフルト様! 最高に合理的で素敵な誓いですわ!」
最前列で、私の「合理的プレゼン全集」をメモしていたクロエ様が、一番に立ち上がって叫びました。
「おめでとうございます、ベルベット様!」「もっと罵ってください!」
ファンクラブの面々の声も響きます。
……遠い辺境の地で、ジャガイモを掘りながら「僕の愛が……負けた……」と泣いているライオネル氏の姿が脳裏をよぎりましたが、一秒で「過去の不要なデータ」として消去しました。
「……さて。……ジークフルト様。プレゼンは以上です。……最後に何か、補足はありますか?」
私は少しだけ俯き、彼の腕に手を添えました。
「……。一つだけ。……ベルベット。……君という、この世で最も難解で、最も素晴らしい数式を。……一生をかけて愛し抜くことを、ここに誓おう。……メリットなんて、やはり一ミリも関係なくな」
「……。ジークフルト様。……貴方は、本当に……」
私は諦めたように、しかし最高に幸せな溜息をつきました。
「……。私も、貴方という変数を、生涯の定数として受け入れますわ。……これからも、私の人生を最適化し続けてくださいましね」
誓いのキスの代わりに、私たちは互いの知性と絆を確かめ合うように、力強く抱き合いました。
鳴り止まない拍手と、祝福の鐘の音。
悪役令嬢、ベルベット・フォン・ローゼライト。
婚約破棄から始まった彼女の戦いは、こうして、この国で最も「正論」に溢れた、最高に幸福な家庭の誕生という形で幕を閉じたのでした。
(……。さあ、ジークフルト様。……次は披露宴のコストパフォーマンスの確認ですわよ!)
(……。ああ、受けて立とう。……妻の最初の命令だ)
私たちの未来は、どの計算式よりも明るく、そしてどこまでも幸せな答えへと続いていくのです。
王立大聖堂。
純白のドレスに身を包んだ私は、神父様から聖典をひったくり……いえ、お借りして、参列者の方々を真っ直ぐに見据えました。
静まり返る聖堂内。
国王陛下、公爵家の人々、そして私のファンクラブの会員たち。
彼らは、今から始まる「歴史的瞬間」を、固唾を呑んで見守っています。
「お、お嬢様……。……。せめて、神の前ではしおらしく……」
父である公爵が、ハンカチを噛み締めながら震えています。
しかし、私は止まりません。
隣に立つジークフルト様に目配せすると、彼は慣れた手つきで、祭壇の横に隠しておいた巨大な図表(プレゼンボード)を掲げました。
「……。ベルベット様。……準備は整っている。……思う存分、我々の『未来』を論破してくれ」
「感謝しますわ、ジークフルト様。……さて、皆様。……本日の挙式における『誓いの言葉』に代えまして、私とジークフルト様の『今後の家計、および共同生活における最適化戦略』についてのプレゼンテーションを行いますわ」
私は差し棒を手に取り、図表の一点を指しました。
「まず一点目。……世帯収入の三割を、領地のインフラ改善および魔導技術の投資に充てます。……これにより、我が家の資産価値は十年後に一八〇パーセントの成長を見込みますわ。……愛があれば金はいらない? ……ふん、愛だけで冬の暖房費が払えるとでも?」
会場から、失笑と、それ以上に深い納得の溜息が漏れました。
「二点目。……育児および家事の効率化について。……ジークフルト様の筋肉は、重い家具の移動や、子供の抱っこ紐の代用として極めて高いスペックを誇ります。……彼の身体能力を家庭内労働にフル活用することで、私の演算リソースを国家のデバッグに集中させることが可能ですわ」
「……。ああ、喜んで子供の『盾』になろう。……背筋でゆりかごを揺らす練習も始めている」
ジークフルト様が、大真面目な顔で頷きました。
その姿に、騎士団の部下たちが「団長、かっこいいっす!」と涙を流しています。
「そして三点目。……これが最も重要です。……ジークフルト様。貴方は先程から、私の顔を見て『美しい』と、一分間に三回も口にしていますわね」
「……。事実だからな。回数が足りないくらいだ」
「……。その発言は、私の照れによる心拍数の上昇を招き、プレゼンの精度を低下させます。……よって、結婚後の甘い言葉は、一日三回、指定された『幸福補給時間』以外は禁止とさせていただきますわ」
「……。それだけは、守れる自信がないな。……例外規定を設けてもらおうか。……君が可愛すぎる場合は、無制限に口にできるという特約を」
ジークフルト様が、私の腰をそっと抱き寄せ、耳元で囁きました。
……心拍数、最大値を更新。
私の脳内メモリが、再び真っ白になりそうになります。
「……っ。……その、……特約の条項については、今夜の披露宴の後に、二人で精査することにいたしますわ。……不服は認めませんからね!」
私が顔を真っ赤にして言い放つと、聖堂全体が爆発的な笑いと祝福の拍手に包まれました。
「お姉様! ジークフルト様! 最高に合理的で素敵な誓いですわ!」
最前列で、私の「合理的プレゼン全集」をメモしていたクロエ様が、一番に立ち上がって叫びました。
「おめでとうございます、ベルベット様!」「もっと罵ってください!」
ファンクラブの面々の声も響きます。
……遠い辺境の地で、ジャガイモを掘りながら「僕の愛が……負けた……」と泣いているライオネル氏の姿が脳裏をよぎりましたが、一秒で「過去の不要なデータ」として消去しました。
「……さて。……ジークフルト様。プレゼンは以上です。……最後に何か、補足はありますか?」
私は少しだけ俯き、彼の腕に手を添えました。
「……。一つだけ。……ベルベット。……君という、この世で最も難解で、最も素晴らしい数式を。……一生をかけて愛し抜くことを、ここに誓おう。……メリットなんて、やはり一ミリも関係なくな」
「……。ジークフルト様。……貴方は、本当に……」
私は諦めたように、しかし最高に幸せな溜息をつきました。
「……。私も、貴方という変数を、生涯の定数として受け入れますわ。……これからも、私の人生を最適化し続けてくださいましね」
誓いのキスの代わりに、私たちは互いの知性と絆を確かめ合うように、力強く抱き合いました。
鳴り止まない拍手と、祝福の鐘の音。
悪役令嬢、ベルベット・フォン・ローゼライト。
婚約破棄から始まった彼女の戦いは、こうして、この国で最も「正論」に溢れた、最高に幸福な家庭の誕生という形で幕を閉じたのでした。
(……。さあ、ジークフルト様。……次は披露宴のコストパフォーマンスの確認ですわよ!)
(……。ああ、受けて立とう。……妻の最初の命令だ)
私たちの未来は、どの計算式よりも明るく、そしてどこまでも幸せな答えへと続いていくのです。
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