侮辱されて、婚約破棄で煽りスキル発動!?

八雲

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「お嬢様、王宮から『至急』の印が押された親書が届いております。……が、封筒の綴りからして既に間違っておりますわ」


侍女が差し出してきたのは、豪華な金縁の封筒。
しかし、そこには『至急』ではなく『死急』と、不吉極まりない誤字が堂々と踊っていました。


私はティーカップを置き、手袋を嵌めた指先でその呪物……いえ、手紙をつまみ上げました。


「……死を急ぐとは、殿下もようやく自らの存在がこの国の害悪であると自覚なさったのかしら? だとしたら、これほど喜ばしい通知はありませんわね」


中身を開くと、そこには震える筆致でこう記されていました。


『ナナシー、助けてくれ。
 外交官との会談があるのだが、資料の漢字が難しくて読めない。
 シャロンも「難しい話は頭が痛くなっちゃう」と言って遊びに行ってしまった。
 君がいないと、私は一文字も公文書が書けないんだ。
 お願いだ、戻ってきて指導してくれ!』


「…………」


私は無言で、机の引き出しから真っ赤なインクのペンを取り出しました。


「お嬢様、お返事を書かれるのですか?」


「いいえ。これは返信ではなく、教育的指導ですわ。……見てごらんなさい、この『外交』という字。『外向』になっていますわよ。彼は他国の役人と、外向的なお喋りでもしに行くつもりかしら? それからこの『公文書』。……なぜ『構文所』になっているの? 王宮はいつから建築現場になったのかしら?」


私は冷徹な手つきで、王子の手紙を赤ペンで真っ赤に染め上げました。
もはや元の地の色が見えないほど、修正と皮肉が書き込まれていきます。


「よし。……これを、特急便で王子の顔面に届けてきなさい」


数時間後。
王宮の執務室で、真っ赤に添削された自分の手紙を突きつけられたレオナルド王子は、絶望の絶叫を上げました。
そしてその手紙の余白には、ナナシーからの「トドメの一言」が添えられていたのです。


『殿下。
 拝読いたしましたが、あまりの知能指数の低さに、私の視力が0.1ほど低下いたしましたわ。
 一文字も書けない? それは誇らしいことではなく、成人男性として、そして王族として、生きた恥を晒していると同義ですわよ。
 幼稚園の教科書を同封しておきますので、まずは「ひらがな」の練習からやり直してはいかがかしら?
 あ、シャロン様には、お掃除の合間にでも「ぬりえ」をさせてあげるとよろしいですわ。
 彼女の知能レベルには、それが丁度良い娯楽でしょうから』


「な、ナナシー……! ここまで、ここまで私をコケにするのか……っ!」


「おやおや、殿下。コケにされているのではなく、単に事実を指摘されているだけですよ」


いつの間にか執務室の窓際に座っていたアルスター公爵が、愉悦に満ちた笑みを浮かべていました。


「アルスター公爵!? な、なぜ君がここに!」


「ナナシーから『ゴミ箱の中身が溢れそうだから、蓋を閉めてきてほしい』と頼まれましてね。……殿下、彼女の言う通りです。君が握るべきは国政のペンではなく、幼稚園児用のクレヨンだ。それなら、シャロン嬢も一緒に楽しめるだろう?」


「……う、うわああああああああん!」


レオナルド王子は、ついに机に突っ伏して号泣し始めました。
一国の王子が、元婚約者に漢字を直されて泣く。
これほどまでに情けなく、そして愉快な光景が、かつて歴史にあったでしょうか。


その頃。
ブランドン公爵邸で、ナナシーは優雅に「幼稚園の教科書(特装版)」をラッピングしていました。


「ふふ。……あら、お父様。なんだか今日は、空気がとても清々しいですわね。害虫が駆除された後のような、爽快な気分ですわ」


「……ナナシー。お前、本当に情け容赦ないな。だが、アルスターがあれほど喜んでいるのを見ると、お前の毒舌も一種の国家防衛術なのかもしれん」


「失礼な。私はただ、無能な方に『現実』を教えて差し上げているだけですわよ」


ナナシーは不敵な笑みを浮かべ、二杯目の紅茶を楽しみました。
自由を手に入れた悪役令嬢の煽りスキルは、今や王宮の壁さえも粉砕する勢いでした。
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