侮辱されて、婚約破棄で煽りスキル発動!?

八雲

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「ナナシー・ド・ブランドン! そしてアルスター公爵! これ以上、私を愚弄することは許さんぞ!」


公爵邸の美しい庭園に、またしても不快な騒音が響き渡りました。
見れば、レオナルド王子が十名ほどの近衛兵を引き連れて、門を強引に突破してきたようです。
……もっとも、近衛兵たちの顔色は一様に青白く、膝が生まれたての小鹿のようにガクガクと震えておりますが。


私はテラスで、アルスター公爵が剥いてくれたリンゴ(なぜかウサギの形ではなく、殺傷能力の高そうな手裏剣の形をしています)を優雅に口に運んでいました。


「あら。殿下、その『死を急ぐ』という宣言、冗談ではなく本気でしたのね。わざわざ葬儀の参列者まで引き連れて、ご苦労なことですわ」


「葬儀ではない! これは正当な公務だ! 王族への侮辱罪、および国家公務の妨害容疑で、貴様を連行しに来たのだ!」


レオナルド王子は、震える指先で私を指差しました。
ですが、その指が私に届くより先に、隣にいたアルスターの周囲に「黒い霧」のような圧力が立ち込めました。


「……殿下。私の私有地に、武器を携えた兵を引き連れて踏み込む。……これは、私への宣戦布告と受け取ってよろしいかな?」


アルスターがゆっくりと椅子から立ち上がりました。
ただそれだけの動作なのに、背後の近衛兵の一人が「ひっ」と悲鳴を上げて腰を抜かしました。


「な、何を言っている! これは王命に等しい執行だ! 近衛兵、何を遊んでいる、その女を捕らえろ!」


王子の命令に、兵士たちは恐る恐る剣を抜こうとしました。
……が、アルスターがわずかに「視線」を向けただけで、金属が地面に落ちる音が重なりました。
兵士たちの手が震えすぎて、剣を握ることすらできなくなっているのです。


「……剣を捨てるとは、賢明な判断だ。だが、抜こうとした事実は消えない。私の前で刃を見せた罪、どう償うつもりだ?」


アルスターが一歩、前へ踏み出しました。
その瞬間、庭園の空気が物理的に重くなり、王子の連れてきた近衛兵たちは、まるで目に見えない巨人に押し潰されるように、その場に跪いてしまいました。


「あ、あわわ……体が、体が動かない……! なんだ、この重圧は……!?」


「これが戦場だ、お坊ちゃん。……君たちが王宮で綺麗な絨毯の上を歩いている間、私は地獄の底で、君たちのような無能が吐き散らすゴミを掃除していた。……私の領域で、私の獲物に手を出そうなど、一万年早い」


アルスターの瞳が、血のような赤色に光った……ように見えました。
もはや威圧感という言葉では足りません。それは「死」そのものが具現化したかのような、絶対的な絶望のオーラです。


「殿下。ご覧なさいな。あなたの自慢の近衛兵様たちは、私の婚約者候補(※未公認)の殺気だけで、すっかりお漏らし寸前ですわよ? これでは国家の防衛どころか、庭の掃除も任せられませんわね」


私は手裏剣型のリンゴをサクリと噛み砕き、冷笑を浮かべました。


「な、ナナシー……! 貴様は、私よりもこの死神を選ぶというのか!?」


「選ぶ以前の問題ですわ。ゴミ箱と国宝を並べて、『どちらが欲しい?』と聞くような愚問です。……公爵、その不審者たちが私のバラをこれ以上踏み荒らさないうちに、速やかに『清掃』してくださる?」


「仰せのままに、我が女神。……さて、殿下。自力で走って帰るか、それとも私が直接、王宮の門まで蹴り飛ばして差し上げようか?」


アルスターが拳をパキポキと鳴らすと、レオナルド王子の顔が土気色から一気に真っ白に変わりました。


「か、帰る! 帰るぞ! おい、立て! 早く逃げるんだ!」


王子は跪いたまま動けない近衛兵たちを放り出し、一番乗りで門へと走り出しました。
兵士たちも、四足歩行のような無様な格好で、我先にと王子の後を追いかけていきます。


「……ふふ。素晴らしい逃げ足ですわ。あの脚力を書類仕事に活かせれば、少しはマシな王族になれたでしょうに」


「まったくだ。……ナナシー、庭を汚してすまなかった。すぐに私の部下に命じて、君の好きな花の香りで浄化させよう」


「……それより、公爵。さっきの『私の獲物』という不穏な表現、聞き捨てなりませんわね。私はあなたの所有物になった覚えはありませんわよ?」


「おや、バレたか。……だが、君が私に『清掃』を命じた時点で、半分は私を所有しているようなものではないか?」


「…………屁理屈ですわ。さあ、残りのリンゴも早く手裏剣……いえ、ウサギに剥き直しなさい。あなたの剥き方は、食卓の平和を乱していますわ」


私は呆れながらも、再びティーカップを手に取りました。
追い出された王子と、その空席に居座る最強の死神。
私の自由な生活は、平和という言葉からは程遠いものの、退屈だけは一生縁がなさそうです。
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