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「……アルスター様。いい加減にその、生まれたての小鹿のように震えるのをやめていただけます? これでは私が、あなたを無理やり連行している悪の女官に見えてしまいますわ」
北の地の、透き通るような青空の下。
簡素ながらも純白のレースが美しく輝くウェディングドレスを纏い、私は隣の巨漢に釘を刺しました。
「…………だ、だりあ。……おまえが、あまりに……きれいで……。……おれ、このまま……しんでも、いい……」
「死なれては困りますわ。今日からあなたは、私の『永久専属騎士兼、事務補助官』として、死ぬまでこき使われる運命なのですから」
私はアルスター様の震える腕を、力強く、そして優しく引き寄せました。
城の広場には、着飾った領主たちだけでなく、たくさんの領民たちが集まっていました。
皆、かつて「死神」と恐れた主の幸せを、心から祝う笑顔を浮かべています。
その中心で、父公爵がハンカチで目元を拭いながら、これ見よがしにワインを煽っていました。
「……娘を頼むぞ、辺境伯。……もし泣かせたら、公爵家の全戦力をもってこの城を更地にするからな」
「…………はい! ……しぬまで、はなしません!」
アルスター様の返事は、緊張のあまり裏返っていましたが、その瞳には一点の曇りもありませんでした。
神官の前で誓いの言葉を述べる際、私はあえて伝統的な文句を無視しました。
「健やかなる時も、病める時も……私はあなたの隣で毒を吐き続け、あなたの事務作業を監視し、そして世界中の誰よりもあなたを愛することを誓いますわ。……異論はありますか?」
「…………ございません。……おれも、おまえの……すべてを、あいし……まもることを……ちかいます」
指輪を交換した瞬間。
かつて王都のパーティー会場で浴びた憐れみの視線とは正反対の、温かな拍手が私たちを包み込みました。
婚約破棄から始まった私の転落劇は、いつの間にか、王都のどの宝石よりも眩しい「自由」という名の舞台に変わっていたのです。
それから一週間後。
私たちは、城門の前に一台の馬車を用意していました。
「……お嬢様。新婚旅行の行き先ですが、本当にあちらでよろしいのですか?」
ボリスが心配そうに地図を広げました。
そこには、隣国との国境近くにある、財政破綻寸前の古い商業都市が記されていました。
「ええ。あそこの領主、事務処理能力が絶望的で、毎日頭を抱えているそうですわ。……そんな『お掃除』のしがいがある場所、放っておけるはずがありませんでしょう?」
「…………だりあ。……おまえ、やっぱり……しごとが、すきなんだな」
旅装に着替えたアルスター様が、苦笑いしながら私の荷物を運び込みました。
「好きというより、才能の無駄遣いが嫌いなだけですわ。……さあ、行きましょう。新しい領地を、私たちの手で黄金に変えて差し上げるのです!」
私は馬車の窓から身を乗り出し、見送りに来た領民たち、そしてボリスと父に向かって大きく手を振りました。
王都では今頃、ジュリアン様が冷えたスープに愚痴をこぼし、メアリさんが雑巾掛けに精を出していることでしょう。
ですが、私にとって彼らはもう、過去の帳簿の「書き損じ」程度の存在です。
私は隣に座る、不器用で、正直で、世界で一番私を愛してくれる「死神」の手を、ギュッと握りしめました。
「アルスター様。覚悟はよろしくて? 私の行く先々には、山のような書類と、容赦ない毒舌が待ち受けておりますわよ」
「…………うむ。……おれが、ぜんぶ……背負って、いく。……だりあと、いっしょなら……どこまでも」
馬車が走り出します。
雪解けの道を、自由への轍(わだち)を刻みながら。
「あーっはっはっは!! 最高ですわ! 私の人生、これからが本番ですわよ!」
辺境の空に、私の高笑いが響き渡りました。
悪役令嬢と呼ばれた女の、これが真実の、そして最高のハッピーエンド。
「毒舌令嬢と死神辺境伯の快進撃」は、まだ始まったばかりなのです。
北の地の、透き通るような青空の下。
簡素ながらも純白のレースが美しく輝くウェディングドレスを纏い、私は隣の巨漢に釘を刺しました。
「…………だ、だりあ。……おまえが、あまりに……きれいで……。……おれ、このまま……しんでも、いい……」
「死なれては困りますわ。今日からあなたは、私の『永久専属騎士兼、事務補助官』として、死ぬまでこき使われる運命なのですから」
私はアルスター様の震える腕を、力強く、そして優しく引き寄せました。
城の広場には、着飾った領主たちだけでなく、たくさんの領民たちが集まっていました。
皆、かつて「死神」と恐れた主の幸せを、心から祝う笑顔を浮かべています。
その中心で、父公爵がハンカチで目元を拭いながら、これ見よがしにワインを煽っていました。
「……娘を頼むぞ、辺境伯。……もし泣かせたら、公爵家の全戦力をもってこの城を更地にするからな」
「…………はい! ……しぬまで、はなしません!」
アルスター様の返事は、緊張のあまり裏返っていましたが、その瞳には一点の曇りもありませんでした。
神官の前で誓いの言葉を述べる際、私はあえて伝統的な文句を無視しました。
「健やかなる時も、病める時も……私はあなたの隣で毒を吐き続け、あなたの事務作業を監視し、そして世界中の誰よりもあなたを愛することを誓いますわ。……異論はありますか?」
「…………ございません。……おれも、おまえの……すべてを、あいし……まもることを……ちかいます」
指輪を交換した瞬間。
かつて王都のパーティー会場で浴びた憐れみの視線とは正反対の、温かな拍手が私たちを包み込みました。
婚約破棄から始まった私の転落劇は、いつの間にか、王都のどの宝石よりも眩しい「自由」という名の舞台に変わっていたのです。
それから一週間後。
私たちは、城門の前に一台の馬車を用意していました。
「……お嬢様。新婚旅行の行き先ですが、本当にあちらでよろしいのですか?」
ボリスが心配そうに地図を広げました。
そこには、隣国との国境近くにある、財政破綻寸前の古い商業都市が記されていました。
「ええ。あそこの領主、事務処理能力が絶望的で、毎日頭を抱えているそうですわ。……そんな『お掃除』のしがいがある場所、放っておけるはずがありませんでしょう?」
「…………だりあ。……おまえ、やっぱり……しごとが、すきなんだな」
旅装に着替えたアルスター様が、苦笑いしながら私の荷物を運び込みました。
「好きというより、才能の無駄遣いが嫌いなだけですわ。……さあ、行きましょう。新しい領地を、私たちの手で黄金に変えて差し上げるのです!」
私は馬車の窓から身を乗り出し、見送りに来た領民たち、そしてボリスと父に向かって大きく手を振りました。
王都では今頃、ジュリアン様が冷えたスープに愚痴をこぼし、メアリさんが雑巾掛けに精を出していることでしょう。
ですが、私にとって彼らはもう、過去の帳簿の「書き損じ」程度の存在です。
私は隣に座る、不器用で、正直で、世界で一番私を愛してくれる「死神」の手を、ギュッと握りしめました。
「アルスター様。覚悟はよろしくて? 私の行く先々には、山のような書類と、容赦ない毒舌が待ち受けておりますわよ」
「…………うむ。……おれが、ぜんぶ……背負って、いく。……だりあと、いっしょなら……どこまでも」
馬車が走り出します。
雪解けの道を、自由への轍(わだち)を刻みながら。
「あーっはっはっは!! 最高ですわ! 私の人生、これからが本番ですわよ!」
辺境の空に、私の高笑いが響き渡りました。
悪役令嬢と呼ばれた女の、これが真実の、そして最高のハッピーエンド。
「毒舌令嬢と死神辺境伯の快進撃」は、まだ始まったばかりなのです。
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