【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ

文字の大きさ
5 / 12

第五話

しおりを挟む
「リューさまは、働かなくていいの?」
アリサはリュエルと発音できなくて、呼び名はリューさまに落ち着いた。
話す内容もいつも子どもみたいなわけではなく、目覚めたときのように年齢相応なときもある。記憶がバラバラになってしまったようだ。
「今はね。アリサが元気になったら、一緒に学園に行こうね」
公爵家の使用人たちはひそかに驚いていた。リュエルはあまり表情が変わらない。それがアリサと話しているときだけは生き生きとしている。
笑顔なんて初めて見た、という侍女が多かった。
自然とアリサへの対応も変わってくる。
公爵家令息が大事にしているアリサ。
となると、子爵家の令嬢とはいえ、アリサは公爵家の最上級のお客様と認識され始めた。

「リューさま、アリサこれ嫌い」
昼食を一緒に食べているときに、アリサはピーマンをなんとかフォークで捕まえてリュエルに見せている。
「ピーマンだね。好き嫌いはよくないよ。ほら、あーん」
リュエルがチーズを多めにからめたピーマンを差し出すと、少し躊躇ったアリサだったが、口を開けた。
リュエルが餌付けって楽しいと変な趣味の扉を開け始めた頃、アリサのお皿にあったピーマンはなくなっていた。

「リューさま、この絵本を読んでほしいの」
アリサは読み書きができなくなっていた。教えてもいいのだが、元はできるのだから、焦らなくてもよいだろうとリュエルが読み聞かせていた。
読み聞かせのときのアリサの定位置は、リュエルの足の間だ。小さな子よりは大きいアリサだったが小柄なので、背の高いリュエルとの身長にはかなり差がある。
「うん、いいよ。アリサはこの本が好きだね」
「だって」
「うん?」
「おうじさまが」
「声が小さくて聞こえないよ、アリサ」
「王子様がリューさまに似てるの」
そう言うとアリサは真っ赤になった。
リュエルもだ。
「読もうか」
しばらく沈黙していた2人だが、リュエルは絵本を読み始めた。

「アリサ、庭を散歩しようか?」
リュエルが声をかけても、返事がない。
アリサはすやすやと眠っていた。
しばらく寝顔を見ていたが、今日はそれほど暖かくはない。
風邪をひいては大変だ。
リュエルはそうっとアリサを抱き上げると、ベッドへ運んだ。
起きてしまわないか心配だったが、アリサはぐっすり寝ているようだ。
また寝顔をしばらく見ていた。
アリサの婚約者であるミゲルはアリサの外見が気に入らないようだが、リュエルには理解できなかった。茶色い髪に今は閉じられている灰色の瞳。優しい色合いで、リュエルは気に入っている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

【完結】実兄の嘘で悪女にされた気の毒な令嬢は、王子に捨てられました

恋せよ恋
恋愛
「お前が泣いて縋ったから、この婚約を結んでやったんだ」 婚約者である第一王子エイドリアンから放たれたのは、 身に覚えのない侮蔑の言葉だった。 10歳のあの日、彼が私に一目惚れして跪いたはずの婚約。 だが、兄ヘンリーは、隣国の魔性の王女フローレンスに毒され、 妹の私を「嘘つきの悪女」だと切り捨てた。 婚約者も、兄も、居場所も、すべてを奪われた私、ティファニー16歳。 学園中で嘲笑われ、絶望の淵に立たされた私の手を取ったのは、 フローレンス王女の影に隠れていた隣国の孤高な騎士チャールズだった。 「私は知っています。あなたが誰よりも気高く、美しいことを」 彼だけは、私の掌に刻まれた「真実の傷」を見てくれた。 捨てられた侯爵令嬢は、裏切った男たちをどん底へ叩き落とす! 痛快ラブ×復讐劇、ティファニーの逆襲が始まる! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

結婚式後に「爵位を継いだら直ぐに離婚する。お前とは寝室は共にしない!」と宣言されました

山葵
恋愛
結婚式が終わり、披露宴が始まる前に夫になったブランドから「これで父上の命令は守った。だが、これからは俺の好きにさせて貰う。お前とは寝室を共にする事はない。俺には愛する女がいるんだ。父上から早く爵位を譲って貰い、お前とは離婚する。お前もそのつもりでいてくれ」 確かに私達の結婚は政略結婚。 2人の間に恋愛感情は無いけれど、ブランド様に嫁ぐいじょう夫婦として寄り添い共に頑張って行ければと思っていたが…その必要も無い様だ。 ならば私も好きにさせて貰おう!!

処理中です...