【完結】ナンナと子犬

ナンナはとっても驚いた？

ナンナが冒険者酒場の仕事から帰ってきたら、アルディは寝ていた。
寝顔も可愛い。
アルディはまだ生まれて3か月というところだ、と病院の先生は言っていた。

衝動のままに頭を撫でていると、アルディは起きないものの、身じろいだ。
「ナンナ」
そう聞こえた。
ナンナは固まった。犬はしゃべらない。
犬に似た魔物もいない。
気のせいかな？
「ナンナ、早く帰ってきて」
モゴモゴと口も動いてる。
気のせいではなかった。アルディは話せるのだ。

「アルディ、起きて」
ナンナはアルディを揺り起こした。
「どうしたの？ナンナ？」
アルディは、あっという顔をした。
犬にはできない表情だ。
「どういうこと？説明して」
ナンナは混乱していた。
「怒らない？」
「ちょっと怒ってる」
ナンナは正直に答えた。アルディにも正直さを求めたい。
「わかった」
そういうとアルディは変身した。

犬の耳としっぽがある。他は人間に見えた。獣人だ。あまりに珍しい存在だから、ナンナはアルディの正体を考えたときに思いつかなかった。
「あのね。罠にかかったときは子犬の姿だったの。変身したら、あの罠は余計に食い込みそうだったし、ナンナが助けてくれるまで痛くて痛くて。助かったときには、僕が獣人だって説明するどころじゃなくて。その後は言い出しにくくなっちゃったの」
ごめんなさい、と言うアルディを責める気持ちはなくなった。

「いいわ。びっくりしただけだもの。本当はなんて名前なの？」
「アルディだよ。ナンナがつけてくれたじゃない」
「ちがうわ。親からつけられた名前よ」
「親？僕に名前をくれたのはナンナだけだよ」
なんだか深い事情があるのかもしれない。

ナンナはその話はやめて、他の疑問を確認することにした。
「アルディ、足の調子はどう？」
「ナンナが毎日お世話してくれたから、もう痛くないよ」
アルディの笑顔はまぶしい。
「帰る場所はあるの？」
アルディの顔色が変わった。
「僕に帰るところなんてどこにもないよ」
泣きそうにも見えた。獣人の年齢に詳しくはないが、アルディの見た目は12、3歳というところだ。
まだ親元にいてもいい年齢に見えた。

帰るところがない。
自分と一緒だ。ナンナにも帰るところはなかった。
「じゃあ、ここにいる？」
「ナンナのところ？」
そうよ、と言ったら、泣きそうだったアルディは、晴れやかに笑った。
「ありがとう、ナンナ」