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第三話

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ファリナは13歳になった。
「おめでとう」
ミーから、一輪の薔薇をもらう。
「ありがとう」
心からの笑顔で受け取った。

塔で暮らすようになったファリナの初めての誕生日。11歳になったファリナはもう1年も過ぎたんだとしか思わなかった。そこに薔薇をくわえたミーがやって来て言ったのだ。
「ファリナ、お誕生日おめでとう」
ファリナは驚いた。知らなかったのだ。
お誕生日をお祝いしてもらえるなんて。
伯爵邸では誰一人何もしないから、知らなかった。
きっとファリナの知らないところで、お祝いしていたのだろう。ファリナ以外のお誕生日を。

「ほら、これもやる」
アビゼルからもプレゼントをもらった。
11歳のときは、きれいな細工の櫛を、12歳の時は髪留めを。
今日は、キラキラ光るブローチをもらった。
「たいした宝石ではないが、魔力を少しだけ込めると楽しいぞ」
アビゼルの言う通りに少しだけ魔力を注ぐ。

「わぁ」
天井いっぱいに星が広がった。まるで、本物の夜空のようだ。
「ありがとう、アビゼル」
「ミーがうるさいから、今日もケーキやらなんやら用意してある。後で食べよう」
そう言うと、アビゼルとファリナは魔法の研究に戻った。

3年の間、ファリナは師匠アビゼルが舌を巻くほど、魔法の腕前を上げた。
今はもう、練習ではなく実践をするか、
研究をするかのどちらかだ。
どちらも得意なファリナは向かうところ敵なし状態だ。
もうファリナが魔力を暴走させる危険はほとんどない。
アビゼルは弟子を独立させることも考えたのだが、研究助手として優秀すぎるファリナがいなくなると想像するとなんだかいやな気持ちになる。

それに、プレゼントを渡したときのファリナのうれしそうな顔を見るのは悪くない。ご馳走を一緒に食べるのも楽しい。
いつの間にか、ファリナの存在は面倒ではなくなっていた。
アビゼルは自分の気持ちがよくわからない。
「師匠と弟子なんだから、別にいいんだ」
そんな風にそれ以上考えるのを放棄した。

アビゼルが贈り物をしてると聞いたら、
酒場の女たちは笑うだろう。
「そんな嘘誰に聞いたんだい?」
そう言って。
アビゼル・クォーツは魔法使いで孤独な男。誰にも心を見せない。
それが彼女たちの知っている姿だ。

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