【完結】令嬢は愛されたかった・春

ここ

文字の大きさ
4 / 6

第四話

しおりを挟む
アビゼルはファリナを得難い研究パートナーだと思うようになった。
難しい魔法だと思っていたものをファリナは簡単な魔法の積み重ねに変えて、アビゼルに提案する。
弟子というレベルではない。
とても13歳とは思えない。

アビゼルは人と長く付き合うのが苦手だ。
「俺を独り占めなんて、もったいないだろ」
なんて茶化しつつ、顔は真顔で、他人を心から愛したことがない。
恋愛についてだけではなく、友人はひとりもいなかった。
だから、ファリナと一緒に生活するのも最初は戸惑いがあった。顔には出さないけれど。
それがもう3年になる。
ファリナとミーと暮らして。
アビゼル・クォーツは不思議な気持ちになった。不思議だけど、不快なわけではない。

アビゼル・クォーツは侯爵家の四男だ。
クォーツ侯爵家は裕福で、歴史のある家だ。四男のクォーツには間違っても跡取りになることはない。だからなのか、自由に育てられた。
大きくなるにつれ、自分の立ち位置が見えてくる。
アビゼルは野心家ではなかったから、侯爵の地位に魅力を感じたことはなかった。
でも、侯爵だからこそ、寄ってくる人間は常に一定数いた。
特に女性からの熱い声がアビゼルに絡みつく。

15歳のアビゼルはまだ女たちを適当にあしらうことができなかった。
だから、知らずに一人の令嬢を好きになった。
「アビゼル様」
優しい声をした子爵令嬢だった。名前はもう覚えていない。
彼女に心からの忠誠を誓い、贈り物をし、たくさん会いに行った。
優しい笑顔にアビゼルは夢中になった。
その日アビゼルは子爵邸に忘れ物をした。
「ふふふ。ね。見たでしょう?私に夢中なの」
「うまくいくかもしれないな」
アビゼルは目の前で、愛する人と見知らぬ男が口付けするところを見てしまった。
何が起こったのかわからないまま、走って侯爵家の馬車に乗った。

馬車の中でアビゼルは震えていた。涙は出なかった。両肩を抱きしめて、震えを止めようとした。
悪い夢だったんだ。
何かの間違いであってほしかった。

あまりに様子のおかしいアビゼルを父が問い詰め、調査させると、とんでもない真実が発覚した。
子爵令嬢は、出入りの商人と恋仲で、妊娠中。
アビゼルとの子にしようとしていたのだ。
アビゼル・クォーツはこんなことがまだまだあって、今のような男に育ってしまった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

薫る袖の追憶を捨て、月光の君に溺愛される

あとりえむ
恋愛
名門の姫君・茜は、夫の高彬に蔑まれ、寂れた離れで孤独な死を迎えた…… けれど意識が途切れた瞬間、視界を埋め尽くしたのは命を削って輝く緋色の夕映え。 目が覚めると、そこは高彬との婚約が決まったばかりの十五歳の春に戻っていた。 「二度目の人生では、誰のことも愛さず、ただあの方の幸せだけを願おう」 茜は、かつて自身の孤独を救ってくれた「最推し」の東宮・暁を、未来の知識で密かに支えることを決意する。 執着を捨て、元夫に無関心を貫く茜。 一方、高彬は自分に興味を失った茜の価値に気づき、今更遅い後悔に狂い始めるが……。 「見つけた。お前は俺の、運命の番だ」 正体を隠して東宮を支えていたはずが、冷徹な暁に見出され、逃げ場のないほどの執着と溺愛を注がれることに。 平安の雅な風情の中で描かれる、逆転と救済の物語。 最後は、二人が永遠の契りを交わす和歌で幕を閉じます。

どうも、偽聖女です。ピースピースv(・ε・v)

東稔 雨紗霧
ファンタジー
「よくも今まで俺達を騙してくれたな、この偽聖女が!」 学園の中庭で魔力で三本の箒を操りながら日課の奉仕活動をしていると急にそう声高に罵倒された。 何事かと振り返ると一人の女性を背に隠し、第四王子、騎士見習い、伯爵家の三男坊がおり、口々にわたしを責め立ててくる。 一応弁明しておくけれども、わたしは今まで自分が聖女様だなんて我が敬愛する神の御名に誓って一言も言ってないし彼らが勝手にそう言っていただけだ。 否定しても「謙遜するな」とか「卑下するな」とか「控え目で素晴らしいな」とか言って話を聞こうともしないし本当にいい迷惑だった。

最愛が……腕の中に……あるのに……

#Daki-Makura
ファンタジー
最愛と結ばれたかった…… この国を最愛と導きたかった…… その願いも……叶わないのか……

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

処理中です...