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第四話

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アビゼルはファリナを得難い研究パートナーだと思うようになった。
難しい魔法だと思っていたものをファリナは簡単な魔法の積み重ねに変えて、アビゼルに提案する。
弟子というレベルではない。
とても13歳とは思えない。

アビゼルは人と長く付き合うのが苦手だ。
「俺を独り占めなんて、もったいないだろ」
なんて茶化しつつ、顔は真顔で、他人を心から愛したことがない。
恋愛についてだけではなく、友人はひとりもいなかった。
だから、ファリナと一緒に生活するのも最初は戸惑いがあった。顔には出さないけれど。
それがもう3年になる。
ファリナとミーと暮らして。
アビゼル・クォーツは不思議な気持ちになった。不思議だけど、不快なわけではない。

アビゼル・クォーツは侯爵家の四男だ。
クォーツ侯爵家は裕福で、歴史のある家だ。四男のクォーツには間違っても跡取りになることはない。だからなのか、自由に育てられた。
大きくなるにつれ、自分の立ち位置が見えてくる。
アビゼルは野心家ではなかったから、侯爵の地位に魅力を感じたことはなかった。
でも、侯爵だからこそ、寄ってくる人間は常に一定数いた。
特に女性からの熱い声がアビゼルに絡みつく。

15歳のアビゼルはまだ女たちを適当にあしらうことができなかった。
だから、知らずに一人の令嬢を好きになった。
「アビゼル様」
優しい声をした子爵令嬢だった。名前はもう覚えていない。
彼女に心からの忠誠を誓い、贈り物をし、たくさん会いに行った。
優しい笑顔にアビゼルは夢中になった。
その日アビゼルは子爵邸に忘れ物をした。
「ふふふ。ね。見たでしょう?私に夢中なの」
「うまくいくかもしれないな」
アビゼルは目の前で、愛する人と見知らぬ男が口付けするところを見てしまった。
何が起こったのかわからないまま、走って侯爵家の馬車に乗った。

馬車の中でアビゼルは震えていた。涙は出なかった。両肩を抱きしめて、震えを止めようとした。
悪い夢だったんだ。
何かの間違いであってほしかった。

あまりに様子のおかしいアビゼルを父が問い詰め、調査させると、とんでもない真実が発覚した。
子爵令嬢は、出入りの商人と恋仲で、妊娠中。
アビゼルとの子にしようとしていたのだ。
アビゼル・クォーツはこんなことがまだまだあって、今のような男に育ってしまった。

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