【完結】いつだって貴方の幸せを祈っております

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第二話

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ミーナは学生寮に帰って来ると、ルームメイトが戻ってくる前に、自分に治癒魔法をかけた。自分にはかけられない使い手もいるが、ミーナは簡単に治癒できた。魔力の量が多いからだろうか。
治癒魔法を使える人間は少ない。ノエルに明かしてもよかったのだが、せいぜい、
珍しいと思うくらいだろう。あの男は並の仕掛けでは落とせない。おそらくノエルの次にターゲットと決めている王太子より、難敵だ。ノエルのミーナを見る目。無機質で、最低限の紳士的な対応をする以外に心を揺らすことのない冷たい目。
「最高の敵ね」
ミーナは自分もノエルに負けないくらい冷たい目をしていることに気づいている。
「これは復讐であり、かつ、ただのゲームだわ」
口調も自然と変わってくる。ルームメイトが戻る前に普段のミーナに戻らなくては。
そう思いながら、ミーナは着替えを始めた。

「ねぇ、ミーナ!ノエル様にお姫様抱っこされたんだって?」
ルームメイトのハンナが興味深々で聞いてくる。ミーナは同性には嫌われていて、嫌がらせもよくされるのだが、ハンナはおおらかで、いつもニコニコ話しかけてくる。
「そうなんですぅ。びっくりぃ」
「そうよねぇ。ノエル様にお姫様抱っこなんて、私なら、気絶しちゃうわ」
ハンナは裕福な子爵の次女だ。みんなに好かれていて、婚約者との仲も良好だ。婚約者と思った瞬間、ミーナの胸の奥で鋭い痛みが走った。とっさにその痛みを抑え込み、いつもの口調で、ハンナとのおしゃべりに興じる。
「ノエル様はぁ、お優しくってぇ、紳士でしたぁ」
「そうよね!本当に素敵な方よね」

ミーナは男女で態度を変えることはない。男性にしか効果のないアプローチ以外は男女問わず、同じ口調、同じ態度だ。圧倒的に女性に嫌われているが、気にならない。目的の前には些細なことだ。目的のためにやっていることで悪評が立とうと、目的を達成できれば、なんの問題もない。ただ目的を邪魔する要素になるなら、話は別だ。
ミーナにはミーナなりのルールがある。婚約者のいる男性にはむやみに近づかない。フリーでフラフラしてるモテる男達を、練習相手にしたせいで、女性に嫌われているのだが、必要だったのだから、仕方ない。まぁ、ノエル相手にはむしろ無駄だったのではないかと思わないでもないのだが。
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