【完結】深く青く消えゆく

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7.ミッシェルは

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ミッシェルは現在、ミッシェルなりの花嫁修行を頑張っている。
「カエルは家庭料理かな?」
料理本の隅から隅まで読んでも書いていない。
「母さんが生きてたら、教えてもらえたかな?」
ミッシェルは今まで、母親というものがいたことがない。
「そっか、レオの母さんに聞いたら早いんじゃないか」
将来の母なのだ。何の問題もないだろうと、レオの家へ直行した。
「あら、ミッシェル。どうしたの?レオは鍛錬場よ」
「おばさんに用があるんだ」
「何かしら?」
「俺、料理は野営でしかやったことがないから、レオに美味しい料理を作れないんだ」
レオの母は、のんびりした性格だ。レオによく似ている。
「まぁ、もう花嫁修行してるの?いいわよ、さぁ入って」
レオの母マリアナはミッシェルをあたたかく迎えると、ふたりでキッチンに立った。
「カエルは家庭料理じゃないのか?」
ミッシェルの最初の質問にもマリアナは動じない。
「このあたりではカエルは野営以外では食べないと思うわ。他の国ならちがうかもしれないけど」

「そうなんだ。やっぱり母って何でも知ってるんだな」
「ミッシェルは熱心ねぇ。レオはね、ハンバーグやシチューが好きなのよ」
ミッシェルは、その日、レオの好物の作り方を学んだ。一回作れば、作れるようになる。ミッシェルは器用なのだ。そして、次は刺繍を習うことになった。
「うちもミッシェルも子爵だから、そんなに貴族らしくなくてもいいけれど、刺繍はできた方がいいわ」
「マリアナ母さんが言うなら、やるよ」
「いい子ね」
ミッシェルは頭を撫でられた。初めての体験だ。お母さんってすごいとミッシェルは思った。その目は少し潤んでいた。

「ミッシェル、今日のハンバーグ、ミッシェルが作ったんだって?」
ミッシェルは刺繍を習いながら、レオの家で夕飯を食べた。
「そうだ。どうだった?」
「美味しかったよ」
レオの目がキラキラ光っている。
「これ、何に見える?」
作り途中の刺繍を見せる。ハンカチの隅に小さな刺繍をしているところだ。
「犬に見える」
「正解」
ミッシェルは刺繍もすぐにマスターしていた。犬にしたのは、レオの性格が犬っぽいからだが、それは言わない。
「できたら、やるよ」
「本当?」
レオはうれしいことがたくさんあって、瞳がキラキラのままだ。

ミッシェルは失ったものは大きく、目標もなくなったと思うときもあった。だが、新たな目標、レオにふさわしい花嫁になるというのも悪くない。人生楽しんだもの勝ちだ。今日も明日もレオと素晴らしい一日を過ごそう。



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