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「どうした?シャル。顔色がよくないぞ」
セリスが心配するのも無理はありません。私の屋敷での特訓はまったく意味がありませんでした。私なりにワガママに振る舞ってみたものの、紅茶のときのような大事な発見になってしまったり、浪費して困らせるはずのお父様やお兄様が大喜びで私の想像以上の高いドレスをたくさん買ってくれたり、どうにも悪役令嬢らしくなれなかったのです。セリスとの仲を崩すには浮気するしかない、と決めたものの、相手を選びかねていました。
「セリス殿下。あっ、申し訳ありません」
セリスの側近ユフィが部屋の扉を開けて、私がいるのを見て帰ろうとします。
「待て、何か大事か?」
セリスは2人でいる時間を邪魔されるのが大嫌いなので、珍しいことになりました。
ユフィは戻ってきて、真剣な顔で言いました。
「神殿が勝手に儀式を行い、聖女様が召喚されました」
そうです。その彼女がセリスの運命の愛のお相手です。私は早くセリスに嫌われなければなりません。簡単に嫌われる方法は他の男性と親しげにすることしか思いつきませんでした。そして、ユフィを見て思ったのです。ユフィに言い寄ろうと。身近な存在ですし、セリスのためになると説得すれば協力してくれるかもしれません。
「嫌ですよ。殺されちゃいます」
「だから、聖女様がいたら、大丈夫です」
「癒しの魔法が間に合わないスピードで抹殺されるにちがいありません」
「ちがいますの。セリスは聖女様に夢中になるのです」
「そんなわけないでしょう。あなたがいるかぎり、殿下はあなた一筋ですよ」
ユフィの協力は無理でした。今度の夜会で、悪役令嬢らしい服を着て、セリス以外の男性に近寄るしかありません。まだ悪役令嬢をぼんやりとしか理解できていませんが、できることとできないことがあります。婚約者のいる男性には近寄れません。あまり遊び慣れている男性も危険です。そこそこ誠実で、後腐れのない相手。なかなか思いつきません。そんな風にうまくいかない日々を過ごしていたある日、セリスが聖女様に会いに行くと言い出しました。あぁ、とうとうお別れなのかと涙が出そうになっているときに、セリスは
「シャルも一緒に来てもらえないか?」と言いました。
「ママー、ママー、どこー?」
幼い女の子の涙まじりの悲鳴のような声に胸が痛みます。
「シャル、あっちだ」
セリスと神殿にやって来て、聖女様に会うはずです。女の子を放ってはおけませんが、先に聖女様に挨拶しなくて良いのでしょうか?
セリスが心配するのも無理はありません。私の屋敷での特訓はまったく意味がありませんでした。私なりにワガママに振る舞ってみたものの、紅茶のときのような大事な発見になってしまったり、浪費して困らせるはずのお父様やお兄様が大喜びで私の想像以上の高いドレスをたくさん買ってくれたり、どうにも悪役令嬢らしくなれなかったのです。セリスとの仲を崩すには浮気するしかない、と決めたものの、相手を選びかねていました。
「セリス殿下。あっ、申し訳ありません」
セリスの側近ユフィが部屋の扉を開けて、私がいるのを見て帰ろうとします。
「待て、何か大事か?」
セリスは2人でいる時間を邪魔されるのが大嫌いなので、珍しいことになりました。
ユフィは戻ってきて、真剣な顔で言いました。
「神殿が勝手に儀式を行い、聖女様が召喚されました」
そうです。その彼女がセリスの運命の愛のお相手です。私は早くセリスに嫌われなければなりません。簡単に嫌われる方法は他の男性と親しげにすることしか思いつきませんでした。そして、ユフィを見て思ったのです。ユフィに言い寄ろうと。身近な存在ですし、セリスのためになると説得すれば協力してくれるかもしれません。
「嫌ですよ。殺されちゃいます」
「だから、聖女様がいたら、大丈夫です」
「癒しの魔法が間に合わないスピードで抹殺されるにちがいありません」
「ちがいますの。セリスは聖女様に夢中になるのです」
「そんなわけないでしょう。あなたがいるかぎり、殿下はあなた一筋ですよ」
ユフィの協力は無理でした。今度の夜会で、悪役令嬢らしい服を着て、セリス以外の男性に近寄るしかありません。まだ悪役令嬢をぼんやりとしか理解できていませんが、できることとできないことがあります。婚約者のいる男性には近寄れません。あまり遊び慣れている男性も危険です。そこそこ誠実で、後腐れのない相手。なかなか思いつきません。そんな風にうまくいかない日々を過ごしていたある日、セリスが聖女様に会いに行くと言い出しました。あぁ、とうとうお別れなのかと涙が出そうになっているときに、セリスは
「シャルも一緒に来てもらえないか?」と言いました。
「ママー、ママー、どこー?」
幼い女の子の涙まじりの悲鳴のような声に胸が痛みます。
「シャル、あっちだ」
セリスと神殿にやって来て、聖女様に会うはずです。女の子を放ってはおけませんが、先に聖女様に挨拶しなくて良いのでしょうか?
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