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第四話

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アンナマリーの高熱はなかなか下がらなかった。
3日過ぎても、まだ苦しんでいる。ジーンは後悔していた。力づくでもいいから、あんな寒い雨の日に大事なお嬢様を外に出したりしてはいけなかった。

「落ち込まないで。こんな熱くらい大丈夫よ。曲芸をしろって言われてもできるくらい元気よ」
アンナマリーは、微笑んだ。
ジーンは、アンナマリーの優しさに泣きそうになった。
「どうしてあの男がいいのですか?」
責める口調になってしまう。
「旦那様は、本当は優しい方なの。
私が小さい時にお会いしたことがあるのよ」

ジーンは、アンナマリーの幼い時を思い出そうとして、やめた。
「おしゃべりはここまでにして、ゆっくり眠ってください」
「はーい」
アンナマリーはニコニコとまた微笑んでみせた。
ジーンは知っている。アンナマリーは辛いときほど、ニコニコと笑ってくれる。
心配をかけまいと必死に。
ひとりにしてあげないと、苦しいのを隠して無理してしまう。
後でもう一度お医者さまを呼ぼう。

食べやすいものを用意しよう。
そう思いながら、廊下を歩いていたら、リヒティルトに会った。
おじぎをして、端に避けた。
どこかの女のところへ行くのだろう。
妻であるアンナマリーの苦痛も知らずに。ジーンは正直なところ、この男が嫌いだった。憎いと言ってもいい。

アンナマリーがなぜ、この男を選んだのか理解に苦しむ。
今だって、見舞いに行かないなら行かないで、せめて執事であるジーンに妻の様子を尋ねたっていいはずだ。リヒティルトはそれすらしない。
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