上 下
5 / 8

第五話

しおりを挟む
1週間かかって、アンナマリーの熱は下がった。あまり食事が出来なかったから、胃に優しい食べ物から、ゆっくり食べ始める。
結局、リヒティルトは一度たりとも、見舞いに来なかった。
花のお見舞いすらない。

「お嬢様。実家に帰りましょう。そして白い結婚を理由に伯爵令息と離縁しましょう。」
ジーンは真剣だった。大事なお嬢様を任せるにはあまりに冷たい男だ。

「ジーン。あなたの気持ちもわかるけど、これは私の望みなの。リヒティルト様には迷惑をかけてしまうけど、結婚できて、私は幸せなの」
ジーンはまたため息をついた。

「それでは、今日はいい天気ですから、お庭が見えるように、カーテンを開けましょう」
ジーンがカーテンを開くと、庭にはリヒティルトがいた。1人ではない。
可愛いらしい侍女が一緒だ。

アンナマリーは落ち着いていた。
「まぁ、リヒティルト様のお家から来た子ね。リヒティルト様のお気に入りなのかしら。」
のんびりしたアンナマリーの言葉にジーンは頭を抱えたくなった。
伯爵令息は、誰でもいいのか?分別はないのか?

アンナマリーは、食堂へ移動した。食事の時間とはずれていたから、自分ひとりだけだ。
優しい料理長が、病み上がりのアンナマリーにちょうどいい量で、優しい味のスープを作ってくれた。それを、ありがたくいただいた。

それからも、アンナマリーとリヒティルトとの仲が進展することはなかった。
アンナマリーは細かいことは気にしなかった。
でも、舞踏会のパートナーだけは譲れなかった。
舞踏会の3ヶ月前から、リヒティルトにその日だけは、奥方として扱ってほしいと懇願した。

当日、アンナマリーは緊張していた。
リヒティルトが本当にエスコートしてくれるかは賭けだった。
アンナマリーにとっては一生に一度の。
「さぁ、僕の奥さん、出発するよ」



しおりを挟む

処理中です...