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第四章 世界中が敵
第205話 一か八かの戦い
しおりを挟む「あの10体が……最後の分裂体だ。」
全てのMPを使い、分裂体を生み出したロック。
しかし、今のS級魔族に対しては多少の時間稼ぎにしかならない。
1体、また1体と分裂体が消滅していく。
「このままじゃみんなやられる!
分裂体が残っているうちに、スキルを奪いに行くよ!」
「1人じゃ無理だよ、ロック!」
「そうだ!
みんなでやるぞ!」
「危険すぎる!」
「ロック、私たちは仲間でしょ?」
何度こんなやりとりをしてきただろう。
一緒に戦いたいというティナたちの願いは、ロックとの力の差が開くほどに、叶わなくなってきていた。
それでも、その気持ちはずっと変わらなかった。
「でも…。」
ミラが[ハイシールド]を全員にかける。
「これと【光輝の壁】があれば一撃で倒されることはないよ!
たぶん!
みんなで戦お!」
「ミラ…。」
「ロック。」
ティナがロックの手を握る。
「ティナ…。」
「とはいえ、俺たちは攻撃を2発受けたら死んじまうだろう!
ロックも【深淵の闇】があっても3~4発っていったところか。
ただ、相手は【バーサーカー】を使ってるから動きは単調だ。
遠距離攻撃でHPを削ろう。
接近を許したら俺とロックで相手する。」
「ファルクさんは2発もらったら死んでしまうんですよ!?」
「…大丈夫だ。
ティナ、ミラ、任せたぞ。」
「「任せて!」」
分裂体は残り3体となっていた。
ミラは魔力のチャージを始め、ティナが[武技]による矢を放った。
分裂体への攻撃のモーションを狙った矢だったが、いとも簡単に躱される。
「くっ!」
続けて矢を放つティナ。
当たりはしないが、分裂体へ攻撃する瞬間を狙っているので、分裂体も3体で踏みとどまれている。
とはいえ、相手はまだまだ余裕を持っている。
矢を躱しながら、ロックたちを睨む。
ターゲットをロックたちに定めたようだ。
「ウィンドストーム!」
魔力をチャージしていたミラが風の刃が荒れ狂う嵐を巻き起こした。
素早すぎる相手に対して、威力やスピードではなく範囲を選んだ。
直撃を避けるため、距離を取るS級魔族。
「【バーサーカー】使ってる割には動きが冷静だな…。」
非常に稀な例なのだが、今のS級魔族のステータスUP率は、【バーサーカー】よりもバフ・他のスキルの方が上回っている。
【バーサーカー】は力が1000であれば全ステータスが100%UP、つまり2倍となる。
その際に別のスキルのステータスUP率が2倍を超えていれば、自我を少し残すことができるのだ。
とはいえ、本当に少しだ。
敵味方の区別はできないが、ダメージを減らしたり、与えるダメージが大きくなるように行動できる程度のもの。
しかし、その差によりダメージを与えることができずにいた。
通常であれば攻撃を受けても構わずに戦い続ける【バーサーカー】。
【バーサーカー】が解除されるだけのダメージを与えれば勝機があった。
今の戦力差ではそれも分の悪い賭けであったが、遠距離攻撃が当たらないのであれば完全に勝ち目のない賭けとなる。
「スキルを奪いに行きます…!
【深淵の闇】なら数発は耐えられる。
モーションのない至近距離での【スキルスナッチ】なら避けられることもないはず…!」
「…援護する…。」
「ファルクさん…。」
ファルクと目を合わせるロック。
自分よりも死ぬ可能性が圧倒的に高い仲間を、敵の攻撃範囲内に入らせたくない。
その思いがどうしても消せないロックだが、覚悟の決まったファルクの目を見て、静かに頷く。
「私たちも援護するわ。」
「気を付けてね…!」
ティナとミラの言葉にも頷き、ロックはS級魔族へ接近した。
残る分裂体は1体となっていた。
魔法で一時的に分断されたため、S級魔族は狙いを分裂体へと戻していた。
そしてティナの矢を躱しながら、着実に分裂体を倒していたのだ。
最後の分裂体が攻撃を仕掛けた瞬間に合わせ、ロックも【スキルスナッチ】の射程圏内に入った。
分裂体の攻撃をあっさりと躱し、重い一撃を合わせるS級魔族。
その瞬間に、ロックはスキルを放った。
(【スキルスナッチ】!)
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