ダークエース 国籍なき英雄

千田 陽斗(せんだ はると)

文字の大きさ
2 / 20
愛国心の骸

国と国 

しおりを挟む
 ルナ暦2180年2月15日、ひとつの戦争が終結した。
 その戦争は、トゥワイオ共和国の内乱と言う名の落とし穴にギース王国が引き摺られる形で勃発した。
 トゥワイオ共和国は赤道付近に位置する常夏の国で、温暖な気候のおかげでフルーツ類の栽培がさかんである。
 この豊かな南国は、かつてギース王国の植民地であった。
 ちょうど150年前にあたる2030年、トゥワイオの独立を求める運動が実り「トゥワイオ共和国」が成立した。
 民衆が待ち望んだ自主独立!
 しかしトゥワイオ共和国とかつての宗主国との間には不透明で不平等な関係が残った。
 トゥワイオからギースにフルーツ類が輸出されるときだけ例外的に関税の存在は無視され、その結果としてトゥワイオ側に生じる不利益は、トゥワイオ農業省関係者への「便宜」として埋め合わせされた。
 とうぜん、トゥワイオのフルーツ農家は自分が作った作物をとても安く売らねばならず、収入は植民地時代と変わらぬまま低く抑えられてしまった。

 この既得権益構造を打破し、ギースと公正で対等な貿易関係を再構築すべくさっそうと現れた者たちがいた。
 「トゥワイオ自由経済連合」と名乗るその運動は、現実的で説得力のある改革案を断続的な草の根のデモ・署名活動でうったえ、数年のうちに支持を広げた。
 若き指導者であるレオ・サンドラと補佐役のシド・エベレストは理性的な改革派としてメディアでも人気を博した。
 鋭さを感じさせるその容姿とはうらはらに温和で理知的なレオ。
 レオの鋭さを中和するようなふんわりとした童顔のデータマンであるシド。
 この頭のきれるコンビが率いる改革運動は民主主義の王道を堂々と歩み始めたが、やがて不協和音が流れた。
強硬派ベザルフ・ド・ボンの独断である。
 ベザルフ・ド・ボンは頭より体を動かすのが得意な行動主義者であった。
 学生時代からさまざまな社会運動に参加、デモの呼び掛けや署名活動を積極的にこなした。
 彼が関わってきたのは、動物愛護から反核運動、大学の授業料値上げ反対運動まで多岐に渡る。
 肉体派の彼にはよくも悪くも思想的なこだわりがなく「運動と名がつくものならなんでも満足する男」と揶揄されてきた。

 レオはトゥワイオ農業省における既得権益の問題を深刻なものとして見ていた。
 常夏のトゥワイオを彩るフルーツ、そのフルーツを育てる農家の人々の満足な収入が保証されていないからだ。
 しかしながら、この状況は変えがたかった。
 抜け目のない官僚たちが幾重にも築いた金目の隠れ蓑を破壊するには、あまりに力が足りなかった。
 ベザルフの持つ強引さは、若く優しく理知的なレオたちにはなかった。
 当初、レオたちの運動に集まった学歴の高い若者たちは公民館の一室を借りては大人しく勉強会ばかりしていた。
 あのまま内向きの活動ばかりしていては外の世間へ支持を広げる望みはなかっただろう。
 そんな活動にも一定の成果はあった
 頭が柔らかく未来志向の若き者たちが熟考したそのアイデアは、この国の既得権益構造にくさびを打ち込む抜本的なものだった。
 この改革案を実現させるためにはベザルフと言うパワー・エンジンを搭載する必要性があると思われた。
 じっさい、ベザルフからデモや署名と言った行動論を学び推進力が増したこの運動の支持は拡大した。
 彼らのデモや演説は常に歓声で迎えられるようになった。

 運動が軌道に乗り、さらに本丸に食い込む段階にきた。
 国政選挙に改革派の議員候補を擁立する。

 しかしベザルフと言う名のパワー・エンジンはあらぬ方向へひとり先走っていった。

 ベザルフは秘密裏に私兵をまとめ上げ、議会へ武力を持って侵入したのだ。
「このまま民主的な運動を続けても改革は20年遅れる、ならば実力行使でいま改革しよう」
 それがベザルフの主張だった。
 ベザルフは銃をちらつかせ脅迫的に議会に解散を迫った。
政府首脳部の面々は、この国の民主主義の命脈より自分の命を優先させ、即座にこの非民主的な要求を飲んでしまった。
 かくして憲法に明記された手続きをふまない形で政権交代がなされ、一方的にベザルフ革命政府の樹立が宣言された。
 レオ、シドら穏健派グループは革命政府に名指しで政治運動の禁止を命じられた。
 為す術のない彼らは運動から手を引くしかなかった。

 かつての宗主国でありトゥワイオ国内に不法に旨味を握りしめているギース王国はこの事態を傍観しておられなかった。
 あくまで隠密行動としてギース軍がトゥワイオに投入されたものの、革命政府が臨時に司令部を置いたワイト・ホテル内にてギース軍のスパイ部隊の1人がベザルフ私兵隊に正体を掴まれ殺害された。

 この事件はベザルフ革命政府により世界に向けて発表された。
 ベザルフはギース王国がトゥワイオ内の権益隠しのために動くことを予測していた。
 自身の縄張りにおけるギース軍の不穏な動きを牽制するため、ギース軍スパイ部隊が侵入しこれをやむなく殺害したと宣伝した。

 ギース王国は国際秩序連盟の常任理事国でありその体面は保たねばならぬ、それが王国が貫いてきた外交態度だった
 体面と権益のため、戦争は是非とも回避したかった。
 しかしトゥワイオの内乱の最中に起こったギース軍の隠密行動が暴露されてしまった。
「なぜ、トゥワイオとは無関係なはずのギース王国が軍を出したのか」
「内政干渉ではないか」 
 国際社会は疑問を投げ掛けた。
 ギース王国は後付けで理由を急拵えして宣戦布告した。
「トゥワイオ共和国における内乱は長期的には我が国の安全にも影響を及ぼす可能性があると我々は考えた
これを予防するため我々ギース王国はベザルフ革命政府を武力を持って制圧する」
 我が国の安全?本当に守りたいのはもちろん別のものだった。

 全部で50万はくだらないギース軍と2000人程度のベザルフの私兵集団では勝負の行方は知れたものと思われたが、蟻地獄にはまったのはギース軍だった。

 ベザルフ側の地の利を生かしたゲリラ戦法は、プライドの高いギース兵を混乱させ大いに苛立たせた。

 さらにギース側に血の気を引かせたのは、ギース王国本土への爆撃予告である。

 ギース王国には1000年の王政の歴史と由緒正しき王宮がある。
 下手にベザルフ軍団の逆鱗に触れて自国の宝物を破壊されては困るとスノッブなこの王国は肝を冷やした。
 本土の安全面を気にしながらの戦争はギース国民やギース首脳部の気を揉ませた。

 王国内に充満したその緊張感は11日後、安堵のため息に変わった。
 ベザルフの代理人を名乗るニュマールと言う人物が降伏の申し入れの通信文をギース軍司令官あてに送ったのだ。

 この申し入れをギース軍最高司令部は二つ返事で承諾することになる。

 かくして泥沼に突入すると思われたギース・トゥワイオ戦争は早期に終結することになった。

 このとき戦争終結へのきっかけとなる作戦を立案したのが人呼んでダークエース、ジギー・ヨシダその人である。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

 【最新版】  日月神示

蔵屋
歴史・時代
 最近日月神示の予言本に不安を抱いている方もあると思うがまったく心配いらない。  何故なら日月神示では「取り越し苦労や過ぎ越し苦労はするな!」 「今に生きよ!」  「善一筋で生きよ!」  「身魂磨きをせよ!」  「人間の正しい生き方」  「人間の正しい食生活」  「人間の正しい夫婦のあり方」  「身も心も神さまからお借りしているのじゃから夜になって寝る前に神さまに一旦お返しするのじゃ。そうしたら身と心をどのようにしたらよいか、分かるじゃろ!」  たったのこれだけを守れば良いということだ。  根拠のない書籍や情報源等に惑わされてはダメだ。  日月神示も出口王仁三郎もそのようなことは一切言っていない。  これらの書籍や情報源は「日月神示」が警告する「臣民を惑わすものが出てくるから気をつけよ!」 という言葉に注目して欲しい。  今回、私は読者の皆さんに間違った解釈をされている日月神示を分かりやすく解説していくことにしました。  どうか、最後までお読み下さい。  日月神示の予言については、私が執筆中の「神典日月神示の真実」をお読み下さい。    

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

無用庵隠居清左衛門

蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。 第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。 松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。 幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。 この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。 そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。 清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。 俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。 清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。 ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。 清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、 無視したのであった。 そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。 「おぬし、本当にそれで良いのだな」 「拙者、一向に構いません」 「分かった。好きにするがよい」 こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。

処理中です...