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愛国心の骸
データベース上の愛国心 1
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キャットテールタウンは「壁」で囲まれた町だった。
「壁」と言っても、全面を隙間なく囲まれているわけではない。他の町に続く道ぐらいは開けていたし、町の南側は海に面していて港もある。
むしろ見えない「壁」がこの町とギース王国とのあいだにあったと言えよう。
ジギー・ヨシダは、この隔離された寂れた町で育った。
母と祖母に連れられてこの町で暮らしはじめたのは3歳のころで、生まれた地のことは記憶にない。故郷について詳細を尋ねる前に母も祖母も逝った。
祖母がギース語でルビを振った「アメニモマケズ」と言う本だけが形見だった。
この町が「壁」で囲まれているのは、ここが移民の町だったためである。およそ100年ほど前、ギース帝国はある植民地を巡る戦争に負け、その後沸き起こった市民革命により立憲君主制に移行した。その余波でギースが帝国時代に植民地にしていた国が徐々に独立していった。
もとは各植民地との玄関口だったキャットテールタウンと言う港町にはかつての植民地から移民が押し寄せた。
奴隷の平和に甘んじていたギースの植民地は独立後に経済や政情の不安に襲われ新天地をギースに求めた人々もいた。
植民地を手放したギース本国においても、移民にまで社会保障を回す余力もなかったため、移民が押し寄せた町を「壁」で隔離するという差別的な政策が成され、ほとんど問題視されずに今日にいたる。
移民は国家から放置され、放置されたまま代を重ねた。この町には国籍を持たない無国籍者が多数いる。
国籍に関する手続きを担当するこの町の地方法務局も、国家的に放置された無国籍者たちには何も処置することができなかった。
国から与えられた責務をこなす能力に長けた「お役人」たちは、キャットテールタウンの地方法務局に回されることを「流刑」と呼んでいた。
国籍について相談する者は、この町にはあまりいない。
無国籍者として国から放置されたほうが、税金を払わなくて済む、それがキャットテールタウン人の平均的な考えだった。
キャットテールタウンの人間で、わざわざギース王国の国籍を取得しようとするのは軍人志望の人間ぐらいだった。
ギース王国は80年間の間、戦争に参加していない。貧しい者からすれば、軍人になることは決して「愛国心に燃えて入隊」と言うようなものではなく「キツいけど稼げる仕事」と言ったものだったのだ。
そして、ギース王国の軍人になるためにはギース王国の国籍を持っていることが条件だった。
ジギー・ヨシダも、どうせなら軍人になってお金を稼ぎたいと考えていた。家族を早くに亡くし、貧しい町で暮らすにはあまりに夢が無さすぎる。
とにかく、金を。
そんな一心でジギー・ヨシダも地方法務局で国籍取得の手続きをした。 確かに、そうしたはずだった。
ジギーは国籍を取得し、軍人になり、伍長になり、そして予想外にも戦争に参加する羽目になった。
それは、彼が戦争に行っているあいだの出来事だった。
落雷が地方法務局の建物に直撃、その時刻が深夜だったため人的被害はなかったが、コンピュータのデータベースに保管されていた住民データの大部分が消失してしまった。
ルーティンワーク以外はこなせない左遷官僚たちは必要な復旧作業を怠り、ついにキャットテールタウンに住民票をもつギース国民のデータを照会できなくなってしまった。
ジギー・ヨシダがせっかく取得したギース王国の国籍もデータベース上からは消失してしまったのだ。
「壁」と言っても、全面を隙間なく囲まれているわけではない。他の町に続く道ぐらいは開けていたし、町の南側は海に面していて港もある。
むしろ見えない「壁」がこの町とギース王国とのあいだにあったと言えよう。
ジギー・ヨシダは、この隔離された寂れた町で育った。
母と祖母に連れられてこの町で暮らしはじめたのは3歳のころで、生まれた地のことは記憶にない。故郷について詳細を尋ねる前に母も祖母も逝った。
祖母がギース語でルビを振った「アメニモマケズ」と言う本だけが形見だった。
この町が「壁」で囲まれているのは、ここが移民の町だったためである。およそ100年ほど前、ギース帝国はある植民地を巡る戦争に負け、その後沸き起こった市民革命により立憲君主制に移行した。その余波でギースが帝国時代に植民地にしていた国が徐々に独立していった。
もとは各植民地との玄関口だったキャットテールタウンと言う港町にはかつての植民地から移民が押し寄せた。
奴隷の平和に甘んじていたギースの植民地は独立後に経済や政情の不安に襲われ新天地をギースに求めた人々もいた。
植民地を手放したギース本国においても、移民にまで社会保障を回す余力もなかったため、移民が押し寄せた町を「壁」で隔離するという差別的な政策が成され、ほとんど問題視されずに今日にいたる。
移民は国家から放置され、放置されたまま代を重ねた。この町には国籍を持たない無国籍者が多数いる。
国籍に関する手続きを担当するこの町の地方法務局も、国家的に放置された無国籍者たちには何も処置することができなかった。
国から与えられた責務をこなす能力に長けた「お役人」たちは、キャットテールタウンの地方法務局に回されることを「流刑」と呼んでいた。
国籍について相談する者は、この町にはあまりいない。
無国籍者として国から放置されたほうが、税金を払わなくて済む、それがキャットテールタウン人の平均的な考えだった。
キャットテールタウンの人間で、わざわざギース王国の国籍を取得しようとするのは軍人志望の人間ぐらいだった。
ギース王国は80年間の間、戦争に参加していない。貧しい者からすれば、軍人になることは決して「愛国心に燃えて入隊」と言うようなものではなく「キツいけど稼げる仕事」と言ったものだったのだ。
そして、ギース王国の軍人になるためにはギース王国の国籍を持っていることが条件だった。
ジギー・ヨシダも、どうせなら軍人になってお金を稼ぎたいと考えていた。家族を早くに亡くし、貧しい町で暮らすにはあまりに夢が無さすぎる。
とにかく、金を。
そんな一心でジギー・ヨシダも地方法務局で国籍取得の手続きをした。 確かに、そうしたはずだった。
ジギーは国籍を取得し、軍人になり、伍長になり、そして予想外にも戦争に参加する羽目になった。
それは、彼が戦争に行っているあいだの出来事だった。
落雷が地方法務局の建物に直撃、その時刻が深夜だったため人的被害はなかったが、コンピュータのデータベースに保管されていた住民データの大部分が消失してしまった。
ルーティンワーク以外はこなせない左遷官僚たちは必要な復旧作業を怠り、ついにキャットテールタウンに住民票をもつギース国民のデータを照会できなくなってしまった。
ジギー・ヨシダがせっかく取得したギース王国の国籍もデータベース上からは消失してしまったのだ。
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