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愛国心の骸
「イカ中佐、いかがいたしましょうか」
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「さすがに慎重派ですな、イブ大佐は」
「いえ、当然の判断です」
マイマイタウンに置かれたギース陸軍の仮の司令部ではWW作戦の総括と第二次制圧作戦の方向性を決定するための会議が行われていた。
ロパット・タンシオ大将はWW作戦においてイブ・リガッコ大佐が自軍の被害が広がる前に撤退したことを「勇気ある撤退」としながらも、軍全体の甘さを認め作戦の立て直しを宣言した。
そして、どんな小さな情報でもいいから報告せよ、と締め括った。
「これが平和な国の軍隊の実力か…。作戦立案からやり直しか」
会議が終わり、休憩室でフク・ロウ参謀長が黒渕眼鏡をかけ直しながらぼやく。
「確かに私たちは甘かった。正規軍でもないクーデター分子があれほどやれるとはね」
イブ・リガッコ大佐がベレー帽の中にまとめた黒い長髪を下ろしながら感嘆の意を表す。
「かくれんぼ」と称されたCルート上の戦闘では小回りの効く民間の乗用車に軍用車が翻弄され、「針地獄」Bルートではトラウマを植え付けられた。
「針地獄で使われた針の破壊力は銃には劣る。あそこで死んだのは判断を誤り車を降りてめった刺しされた者のみ。車に乗っておれば命までは落とさなかった」
フク・ロウ参謀長が落ち着いた声で状況を分析する。
「たしかにあの針銃兵器は物理的な破壊力においては銃には劣る。しかし心理的な破壊力は強力だ。味方の身体が針でめった刺しにされる光景を見て恐怖に凍りついた者が多数いる。恐らくPTSDになって使い物にならない。まさに針の筵よ」
イブ・リガッコの口振りは合理主義に徹したものだったが、内心では恐怖を心に植え付けられた者たちに同情せずにはいられなかった。
フク・ロウ参謀長のもとには新たな作戦立案の材料としてトゥワイオ国内の何ヵ所かに配備された部隊からさまざまな情報が提供された。
提供された情報が少しでも作戦立案に活かされたら提供者には報酬が与えられると、太っ腹にもロパット大将が発案した。
そのため、報酬欲しさに「道すがら猫を3びき見かけた」などと言う些細にも程がある情報まで寄せられることになった。
おかげでフク・ロウ参謀長と部下たちは1425枚に及ぶ"些細な"情報を精査することになった。
その中にはジギー・ヨシダ伍長による「ハムンタウンの図書館にて、革命政府関係者を目撃。図書館が制圧作戦の要点となる可能性あり」と言う報告書もあったが参謀本部の徹夜作業による手違いでジギー本人の手に戻ってしまった。
「イカ中佐、いかがいたしましょうか?」
翌日、ジギーはイカ・メーシン中佐に相談を持ちかけた。
「ジギー君、その図書館の話だが君はどうしたらいいと考えてるのだ?」
部下にはリベラルな態度で接し意見を取り上げてくれるとの評価が高いイカ・メーシン中佐がジギーに具体的な算段について尋ねる。
「実はすでに図書館の内部に潜入を試みております。とは言ってもハムンタウン全体が警戒体制にあるとは言えず図書館に出入りするのも容易でありましたが。そこで見かけたのがニュマールと言う男の存在です」
「ニュマール?クーデターの共謀者で肉体派のベザルフに対して、こちらは頭脳派と言われているらしいな」
「そうです。ニュマールは革命政府のコンピュータのような存在なのです。そしてそのコンピュータを動かすプログラムのようなものがハムンタウンの図書館にあるのではないでしょうか」
「なるほど、やつらにしてみたら革命政府の支配を強化する際に図書館で得られる何らかの情報か知識が必要になると言うわけか。
それで、どうする?ニュマールをそこで殺すか?脳をつぶしても筋肉だけで生き延びるかもしれんぞ、あの革命政府の連中は」
「いえ、むしろ狙いは図書館そのものです。図書館を制圧してしまえば、彼らが欲しい何かと引き換えに交渉が可能になるのではないでしょうか?」
ジギー案の方向性はシンプルだった。そして戦闘ありきではなく交渉による平和的な解決の可能性も含むものだった。
イカ・メーシン中佐はこの案をぜひ実行したいと確信した。
問題は作戦立案に関わる参謀本部がパンクしてジギーの案さえも弾かれたことだった。
そこで、本格的な作戦立案をジギー本人が行い、フク・ロウ参謀長の承認を得てロパット大将に提出される運びになった。
「ふむふむ、いいぞ、うまく交渉に持ち込めば兵も死なせずに済むかもしれん!いいぞ、いいぞ」
基本的に人のいいロパット大将だった。この太っ腹大将の快諾を得て作戦は実行された。
そしてハムンタウンの図書館はイカ・メーシン中佐が率いる200人の部隊に無血制圧された。
「いえ、当然の判断です」
マイマイタウンに置かれたギース陸軍の仮の司令部ではWW作戦の総括と第二次制圧作戦の方向性を決定するための会議が行われていた。
ロパット・タンシオ大将はWW作戦においてイブ・リガッコ大佐が自軍の被害が広がる前に撤退したことを「勇気ある撤退」としながらも、軍全体の甘さを認め作戦の立て直しを宣言した。
そして、どんな小さな情報でもいいから報告せよ、と締め括った。
「これが平和な国の軍隊の実力か…。作戦立案からやり直しか」
会議が終わり、休憩室でフク・ロウ参謀長が黒渕眼鏡をかけ直しながらぼやく。
「確かに私たちは甘かった。正規軍でもないクーデター分子があれほどやれるとはね」
イブ・リガッコ大佐がベレー帽の中にまとめた黒い長髪を下ろしながら感嘆の意を表す。
「かくれんぼ」と称されたCルート上の戦闘では小回りの効く民間の乗用車に軍用車が翻弄され、「針地獄」Bルートではトラウマを植え付けられた。
「針地獄で使われた針の破壊力は銃には劣る。あそこで死んだのは判断を誤り車を降りてめった刺しされた者のみ。車に乗っておれば命までは落とさなかった」
フク・ロウ参謀長が落ち着いた声で状況を分析する。
「たしかにあの針銃兵器は物理的な破壊力においては銃には劣る。しかし心理的な破壊力は強力だ。味方の身体が針でめった刺しにされる光景を見て恐怖に凍りついた者が多数いる。恐らくPTSDになって使い物にならない。まさに針の筵よ」
イブ・リガッコの口振りは合理主義に徹したものだったが、内心では恐怖を心に植え付けられた者たちに同情せずにはいられなかった。
フク・ロウ参謀長のもとには新たな作戦立案の材料としてトゥワイオ国内の何ヵ所かに配備された部隊からさまざまな情報が提供された。
提供された情報が少しでも作戦立案に活かされたら提供者には報酬が与えられると、太っ腹にもロパット大将が発案した。
そのため、報酬欲しさに「道すがら猫を3びき見かけた」などと言う些細にも程がある情報まで寄せられることになった。
おかげでフク・ロウ参謀長と部下たちは1425枚に及ぶ"些細な"情報を精査することになった。
その中にはジギー・ヨシダ伍長による「ハムンタウンの図書館にて、革命政府関係者を目撃。図書館が制圧作戦の要点となる可能性あり」と言う報告書もあったが参謀本部の徹夜作業による手違いでジギー本人の手に戻ってしまった。
「イカ中佐、いかがいたしましょうか?」
翌日、ジギーはイカ・メーシン中佐に相談を持ちかけた。
「ジギー君、その図書館の話だが君はどうしたらいいと考えてるのだ?」
部下にはリベラルな態度で接し意見を取り上げてくれるとの評価が高いイカ・メーシン中佐がジギーに具体的な算段について尋ねる。
「実はすでに図書館の内部に潜入を試みております。とは言ってもハムンタウン全体が警戒体制にあるとは言えず図書館に出入りするのも容易でありましたが。そこで見かけたのがニュマールと言う男の存在です」
「ニュマール?クーデターの共謀者で肉体派のベザルフに対して、こちらは頭脳派と言われているらしいな」
「そうです。ニュマールは革命政府のコンピュータのような存在なのです。そしてそのコンピュータを動かすプログラムのようなものがハムンタウンの図書館にあるのではないでしょうか」
「なるほど、やつらにしてみたら革命政府の支配を強化する際に図書館で得られる何らかの情報か知識が必要になると言うわけか。
それで、どうする?ニュマールをそこで殺すか?脳をつぶしても筋肉だけで生き延びるかもしれんぞ、あの革命政府の連中は」
「いえ、むしろ狙いは図書館そのものです。図書館を制圧してしまえば、彼らが欲しい何かと引き換えに交渉が可能になるのではないでしょうか?」
ジギー案の方向性はシンプルだった。そして戦闘ありきではなく交渉による平和的な解決の可能性も含むものだった。
イカ・メーシン中佐はこの案をぜひ実行したいと確信した。
問題は作戦立案に関わる参謀本部がパンクしてジギーの案さえも弾かれたことだった。
そこで、本格的な作戦立案をジギー本人が行い、フク・ロウ参謀長の承認を得てロパット大将に提出される運びになった。
「ふむふむ、いいぞ、うまく交渉に持ち込めば兵も死なせずに済むかもしれん!いいぞ、いいぞ」
基本的に人のいいロパット大将だった。この太っ腹大将の快諾を得て作戦は実行された。
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