ダークエース 国籍なき英雄

千田 陽斗(せんだ はると)

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愛国心の骸

針地獄とかくれんぼ

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 話はギース・トゥワイオ戦争へ戻る。
 地上部隊司令部は、赤道直下の南国トゥワイオに派遣されたギース陸軍第6師団へ、ベザルフ革命政府が仮の軍司令部を置くワイト・ホテルの制圧を命じた。
 現地における作戦行動の最高指揮官はロパット・タンシオ大将。
 
 その日の気温は25℃、南国の直射日光に歓迎された第6師団はマイマイタウンに司令部を置いた。
 プレハブの仮設司令室では上官クラスの軍人たちが現地で調達した珍しい葉巻を試していた。
 ロパット・タンシオ大将が司令室に到着したのは午後1時15分。
 ロパットはすぐさま現場で指揮を取る尉官クラスのメンバーを招集し作戦内容を発表した。

「現在、われわれが待機するマイマイタウンから制圧目標のワイト・ホテルがあるワイトシティまでは直線距離で28マイル。A,B,Cのみっつのルートから分散させた部隊が同時に進行。B-Cルートの合流地点でB部隊、C部隊は合流する。A部隊は目標を確認次第ワイト・ホテルの東側より攻撃、敵が東側の攻撃に対応しているところを今度は北側から目標に到着したB,C両部隊が叩く。最終的には挟み撃ち状態で目標を制圧。
なお作戦名はWW作戦、決行開始は明日午前9時00分とする」

 ギース兵は楽観していた。
 なあに、敵はたかたが2000人の私兵隊だろう。こちらはプロの軍人が5000人、さらに後方にはその10倍の兵がいるさ。
 その希望的観測は翌日、見事に裏切られた。

 舗装されたAルートとちがい、Bルート、Cルートは未舗装のオフロード、更に凸凹が激しくところどころに覇王樹サボテンが意地悪く顔を出す。
 後にBルートの戦闘は「針地獄」、Cルートの戦闘は「かくれんぼ」と呼ばれ記憶された。

「南国の道なき道か…。迷子になりそうだな」
 ぼやく歩兵たちを乗せたランドローバーの群れは砂と覇王樹の迷路をひた走る。
 何かが車体に当たったような音がした。
「小石だろう」
 砂のワイルド・ロードであれば小石のひとつやふたつ跳ねたとして不自然ではない。軍仕様のランドローバーならそれぐらいで故障なぞはしないだろう。
 そんな風に歩兵たちが慢心して欠伸をした瞬間とき、異変が起こった。
 ランドローバー隊の先頭を走る1台の車体が左方向に沈んだ。
 実は、ランドローバーの車体に衝突していたのは小石ではなくニードルで、その針は野性の覇王樹に似せた針銃兵器ニードルウェポンから発射されたものだったと判明するのは、Bルートを担当した部隊のランドローバーが悉く針でタイヤをパンクさせられてからのことであった。
 さらには、ランドローバーを降りた兵にまで無慈悲な覇王樹兵器の針攻撃は及び、負傷者は25名、死者は6名。部隊は足止めを食った。
「針地獄」の所以である。

 またCルートでは、落とし穴や複雑な地形を利用したベザルフ私兵隊によるゲリラ攻撃が部隊を襲った。
 私兵隊は民間の乗用車にバズーカ砲を搭載し、乗用車の小回りと地の利を活かした奇襲攻撃でギース兵を翻弄した。
 「まるでかくれんぼじゃないか」と冗談を飛ばす余裕はギース兵には与えれなかった。
 こちらはランドローバー対バズーカ車と言う格好の戦闘になった。
負傷者は3人、ランドローバーごとバズーカに吹き飛ばされ死んだ者が15名に及び、ついには武器弾薬の補給が切れて戦闘不能になり退却せざるを得なかった。

 これによりWW作戦の指揮を取るイブ・リガッコ大佐は、作戦そのものの継続が不可能と判断しAルートの部隊までも退却させた。
 第6師団は戦局の見通しが甘かったことを反省した。
 仮令、装備や兵力が劣ったとてホームグラウンドで地の利を活かせるほうが有利なのだ。
 
 いっぽうジギー・ヨシダ伍長は、本部隊が駐留するマイマイタウンから12マイル離れたハムンタウンでイカ・メーシン中佐の指揮のもと任に当たっていた。
 ハムンタウンは戦場ではなかった。しかしこの火の気のなさそうな町にベザルフ革命政府の関係者が出入りしているらしいとの情報が入った。
 これは確定情報ではなかったが、WW作戦の失敗により白紙に戻された制圧作戦のシナリオを書き直すためには、どんな小さな藁にでもすがりたいと言うのが司令部の考えだった。

「図書館か、私も本を読むのは好きだ。この国にはどんな本があるのだろう」 
 ジギー伍長はハムンタウンの偵察のため小部隊を指揮した。偵察中にたまたま見つけたのは図書館。 
 植民地時代の名残を残すギース風の外装は、少しだけジギーに懐かしさを覚えさせた。 

 その図書館にベザルフ革命政府の共謀者、ニュマールが出入りしていたのを見つけたのは偶然であった。
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