アンデッド・ロイヤル

千田 陽斗(せんだ はると)

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憂うつな世紀のはじまり

墓暴き青年 四

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「なあ、アンセルム?この話って怪しい話じゃないのか?大丈夫か」
 作戦決行前夜、カンタンは、アンセルムを自宅に招いていた。高額な報酬を山分けにすると言うので、仕事を手伝うことにしたが、カンタンは依頼主のことを少し怪しんでいた。
「カンタンよ。君は鼻持ちならない金持ち野郎から真珠を盗み金に換えたこともあったじゃないか?そんな君が今回は、やけに消極的なんだな」
 アンセルムは、この日のために開けたワインをグラスに注ぎながら、友人をからかった。
 カンタンは窓の外の闇をぼんやり眺めている。
「真珠泥棒の話か。あの程度の悪さなら、どうってことないのさ。それに、病気の妹に薬を買ってやりたかったし。しかし…」 
 カンタンは、アンセルムと同様にスラム街で貧しく育った。この時代は、マルクスの予言ではないが、資本主義の矛盾は極まり貧富の差が著しく進んでいた。スラム街で生きるには、多少は手を汚す覚悟がなければいけなかった。詩人のようにロマンチックに愛を囁きお嬢さんを口説き落とすと言うアンセルムのような人間も、スラム出身の青年を婿に迎えてくれると言う優しいお嬢さんも、ずいぶん珍しい。
「アンセルムみたいに、綺麗な娘さんと結婚できるなんて、スラムのやつらにはなかなかないんだぜ。それだけでもハッピーなのに、こんな変な話にわざわざ乗らなきいけないんだい?」
「城だよ。」
「城だって?」
 詩人気取りのアンセルムは本心をはぐらかした。"城"とはなにを意味するのか?それはアンセルムしか知らない。

 そして翌日の夕刻、アンセルムとカンタンは、ボドワンたちと落ち合った。
 ボドワン、ダワジ、ムサワージの三人が二台の馬車を用意していた。
 ガナム、ククパスは別動隊として動くらしい。
 一台目の馬車には、ボドワン、ダワジ、ムサワージが乗り込み、さらに何かの機械が布を被せて積み込まれた。
 アンセルムとカンタンは二台目の馬車に乗りこんだ。目的地のカタコンブ・ド・イノサンの目前に到着したころには、すっかり日は沈んでいた。
 カタコンブ・ド・イノサンの回りは石壁で囲まれている。正門は、格調高い装飾が彫られた石造りの高い建造物で、奥に広間と地下墓地への通路ある。
「やはり、正門前の見張りをなんとかせねば」ボドワンらが即席の作戦会議を立てる。
「どうでしょう?この麻酔針を使ってみては?」靴職人で手先の器用なダワジが、麻酔薬を先端に塗り込めた自作の麻酔針を取り出す。
「よろしい。さっそく若者たちにやらせてみましょう」
 ムサワージはアンセルムとカンタンに、見張りの死角に忍び寄り針で首筋を刺して、麻酔で眠らせるよう指示した。
 アンセルムはあっさり、その指示を了解した。
「アンセルム、そこまでやるなんて聞いてないぞ。やっぱりヤバいって…」カンタンはアンセルムにしか聞かれないように耳打ちしたが、詩人きどりの青年は聞く耳をもたず。
「別に殺す訳じゃない。たぶんあいつらは盗賊なんだろう?あの墓からお宝を盗んでおしまいさ。そしたら報酬をいただいて知らん顔してりゃいい」 
 早足で目標に近づきながら、アンセルムは相棒に言い聞かせる。
 気配を消したアンセルムは影のように背後に立ち、見張りの者を見事に眠らせた。
「いいぞ。急いで中へ。あれを忘れるなよ」
 離れて様子をうかがっていたボドワンが命ずると、ダワジとムサワージは荷台から機械をおろし、カタコンブ・ド・イノサンの敷地内へ侵入した。
「アンセルム、カンタン、お前らもまだ仕事があるぞ。来い」ムサワージに促され青年たちも妖気漂いそうなその場所へ急いだ。
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