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憂うつな世紀のはじまり
墓暴き青年 六
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墓暴き隊が台車に乗せた聖なる木乃伊を運ぶのには慎重さが必要だった。
扉にぶつからぬよう、落とさぬよう、階段でへまをせぬよう、脱出には手間取った。
いっぽう、広間にてボドワンの身柄を拘束しようと部下たちを呼び寄せようとしたオクタヴィアンだったが…。
「ツチラトよ、よく来てくれた」
オクタヴィアンの部下は姿を見せず、かわりに現れた謎の男にボドワンが声をかける。
ボドワンにツチラトと呼ばれた長髪の男は、ゆらりと歩み寄ってきた。
「貴様、何奴?ここを見張るために動員した三十八人の私の部下はどうしたのだ?」
ツチラトは黒猫のようにしなやかに歩み寄り、薔薇の騎士は番犬のように威嚇した。
「三十八人だって?てっきり三十九人だと思ったよ。おれに二回斬られた兵隊さんでもいたのかな」
「な、なんと部下はすべてやられたのか?貴様もこの侵入者の仲間か、ならば…」
オクタヴィアンは薔薇の剣をいっきに抜き、月光にかざした。
すると今度はツチラトが、腰の鞘から剣をぬるりと抜き、その刀身を見せつける。ツチラトの剣の刀身は漆黒の色で、闇夜のなかで黒光りしている。
「これが、おれ専用の武器、ダーク・ソード、気障な薔薇野郎、怪我するぜ」
二人の剣士が、剣と剣を突き合わせ互いを牽制はじめたころ、墓暴き隊が脱出してきた。
「全員、馬車で逃げろ」ツチラトが皆に合図すると、ボドワンらは機械や遺体やらをまとめて、敷地の外に置いた馬車へと走った。機械と遺体を馬車になんとか積みこみボドワン、ダワジが馬車に乗る。アンセルムとカンタンも、ムサワージに促され馬車に飛び乗った。
「小癪な、待たれよ」オクタヴィアンは、逃亡しようとする不逞な輩どもを呼び止めようとしたが、自分よりも細身な剣士に動きを封じられる。
「邪魔をするな、邪悪な王政復古主義の協力者め」
薔薇の剣を振りかざしオクタヴィアンは上から怒りの一太刀を放つが、黒猫の騎士は剣舞のような動きで、しなやかにそれを交わした。
「なるほど、いい剣士だ。しかし、型にはまりすぎだな」戦いながらツチラトはオクタヴィアンの剣技を論評する。
「わたしの剣は正統な、愛国の剣、貴様のごとき反逆者にその精神を叩きこんでくれるわ」
「たまらないね。愛国だの国粋だと妄想じみた考えを押し付けられるのは…」
ツチラトは、何にも忠誠を誓わない自由の傭兵。今夜は雇い主のボドワンのために剣を振るっていた。
オクタヴィアンの大振りな剣を、何度か素早く避けながら、雇い主たちが馬車に乗り走り出したのをツチラトは目視で確認した。そして右脚を地面にこすり付けるように思いきり蹴った。
とたん、土煙がオクタヴィアンの視界をふさいだ。隙をつきツチラトも逃亡した。
「いいざまだ、愛国野郎。そのまま燃える愛国心の煙で、目がくらんでいれば良い。ハイ!」
ツチラトは彼の愛馬に跨がり、捨て台詞を吐きながら馬を走らせる合図を出した。報酬をまだいただいてない。ツチラトもボドワンたちを追った。
「くそ、どこまでも卑怯な悪党どもめ。小細工ばかり弄しおって!」
煙幕が晴れてオクタヴィアンの目が開いたころには、ボドワンらはすでに西へ逃亡していた。
「オクタヴィアン大佐、無事であられますか?」
オクタヴィアンの部下は、大多数がツチラトに暗殺されていた。生き残った数少ない兵が数名、傷を負いながらもオクタヴィアンのもとへ駆けつけた。
「完全にやられたな。命があるのは貴様たちだけか」
オクタヴィアンは、苦笑いした。
「そのようです。やつらは、西へ向かった模様です。追いかけますか」
「いや、深追いはよそう。あいつらにも油断ならない味方がいる。西か…」
深夜未明に起こったカタコンブ・ド・イノサンにおける、盗難事件(よりによって皇帝の遺体を!)は翌朝の新聞やラジオで、大々的に報道された。歴史上初のメディアが共同性を担保する社会が現出しつつあった。
軍部においても、この事件が議題に挙がっていた。犯人を逃がしたオクタヴィアン大佐の責任追求はひとまず保留(予測不能な事態のため)。かわりにオクタヴィアン大佐が指揮する特別部隊が編成され、逃亡した犯人と協力者たちを連行(生死は問わず)することが命ぜられた。
扉にぶつからぬよう、落とさぬよう、階段でへまをせぬよう、脱出には手間取った。
いっぽう、広間にてボドワンの身柄を拘束しようと部下たちを呼び寄せようとしたオクタヴィアンだったが…。
「ツチラトよ、よく来てくれた」
オクタヴィアンの部下は姿を見せず、かわりに現れた謎の男にボドワンが声をかける。
ボドワンにツチラトと呼ばれた長髪の男は、ゆらりと歩み寄ってきた。
「貴様、何奴?ここを見張るために動員した三十八人の私の部下はどうしたのだ?」
ツチラトは黒猫のようにしなやかに歩み寄り、薔薇の騎士は番犬のように威嚇した。
「三十八人だって?てっきり三十九人だと思ったよ。おれに二回斬られた兵隊さんでもいたのかな」
「な、なんと部下はすべてやられたのか?貴様もこの侵入者の仲間か、ならば…」
オクタヴィアンは薔薇の剣をいっきに抜き、月光にかざした。
すると今度はツチラトが、腰の鞘から剣をぬるりと抜き、その刀身を見せつける。ツチラトの剣の刀身は漆黒の色で、闇夜のなかで黒光りしている。
「これが、おれ専用の武器、ダーク・ソード、気障な薔薇野郎、怪我するぜ」
二人の剣士が、剣と剣を突き合わせ互いを牽制はじめたころ、墓暴き隊が脱出してきた。
「全員、馬車で逃げろ」ツチラトが皆に合図すると、ボドワンらは機械や遺体やらをまとめて、敷地の外に置いた馬車へと走った。機械と遺体を馬車になんとか積みこみボドワン、ダワジが馬車に乗る。アンセルムとカンタンも、ムサワージに促され馬車に飛び乗った。
「小癪な、待たれよ」オクタヴィアンは、逃亡しようとする不逞な輩どもを呼び止めようとしたが、自分よりも細身な剣士に動きを封じられる。
「邪魔をするな、邪悪な王政復古主義の協力者め」
薔薇の剣を振りかざしオクタヴィアンは上から怒りの一太刀を放つが、黒猫の騎士は剣舞のような動きで、しなやかにそれを交わした。
「なるほど、いい剣士だ。しかし、型にはまりすぎだな」戦いながらツチラトはオクタヴィアンの剣技を論評する。
「わたしの剣は正統な、愛国の剣、貴様のごとき反逆者にその精神を叩きこんでくれるわ」
「たまらないね。愛国だの国粋だと妄想じみた考えを押し付けられるのは…」
ツチラトは、何にも忠誠を誓わない自由の傭兵。今夜は雇い主のボドワンのために剣を振るっていた。
オクタヴィアンの大振りな剣を、何度か素早く避けながら、雇い主たちが馬車に乗り走り出したのをツチラトは目視で確認した。そして右脚を地面にこすり付けるように思いきり蹴った。
とたん、土煙がオクタヴィアンの視界をふさいだ。隙をつきツチラトも逃亡した。
「いいざまだ、愛国野郎。そのまま燃える愛国心の煙で、目がくらんでいれば良い。ハイ!」
ツチラトは彼の愛馬に跨がり、捨て台詞を吐きながら馬を走らせる合図を出した。報酬をまだいただいてない。ツチラトもボドワンたちを追った。
「くそ、どこまでも卑怯な悪党どもめ。小細工ばかり弄しおって!」
煙幕が晴れてオクタヴィアンの目が開いたころには、ボドワンらはすでに西へ逃亡していた。
「オクタヴィアン大佐、無事であられますか?」
オクタヴィアンの部下は、大多数がツチラトに暗殺されていた。生き残った数少ない兵が数名、傷を負いながらもオクタヴィアンのもとへ駆けつけた。
「完全にやられたな。命があるのは貴様たちだけか」
オクタヴィアンは、苦笑いした。
「そのようです。やつらは、西へ向かった模様です。追いかけますか」
「いや、深追いはよそう。あいつらにも油断ならない味方がいる。西か…」
深夜未明に起こったカタコンブ・ド・イノサンにおける、盗難事件(よりによって皇帝の遺体を!)は翌朝の新聞やラジオで、大々的に報道された。歴史上初のメディアが共同性を担保する社会が現出しつつあった。
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