アンデッド・ロイヤル

千田 陽斗(せんだ はると)

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内乱

ウーゾイル共和国内乱 一

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 ──心から愛する恋人のどんな気まぐれにも、目をつぶって飛び込んでしまうのが恋する人の常である。
 メモには古い作家の言葉が引用されていた。誰が誰の気まぐれに飛び込んだだろうか。それは誰にもわからない。
 
 パン屋の娘、ブランシュは、アーチ橋から河を眺めていた。首都ロンアラスに流れるセーヌ河ではときおり商船が行き、穏やかに時を奏でる。
 いつもの快活さを欠き、睫毛を伏せるブランシュに、男声の成分と女声の成分を両方ふくむ声が話しかけた。声の主は、薄化粧をした美青年にも、男装をした麗人にも見えた。
「失礼、君は毎日ここで河を見ているね」  
 ふいに話しかけられたブランシュは、無言でその人に挨拶した。もう一週間も顔を見せない婚約者フィアンセのことが気にかかって仕方がなかった。
 華美なウーゾイル共和軍の軍服に身を包んだその人はベルティーユ将軍。長身を丁寧に折り畳むようにお辞儀をすると、美男子のような容姿の女将軍はブランシュの隣に並び、同じく河を見た。短い髪が揺れる。
「私も、この河が好きだ。河をぼんやり眺めるのは気持ちが塞いでいるときと相場がきまっているが」
「待ち人来ず、河は流れる…」
 即興の詩のようにブランシュはその心を詠んだ。
「君が待つのは恋人か。私には分からぬ。恋とはかように悲痛なものか」
 ベルティーユに心を読まれたブランシュは、溢れそうな感情を目に浮かべた。
「あの人にここにいてほしい。小さな愛の炎を守るだけで良いのに。あの人は、何かを探して何処かへ…」
 絹のごとき柔らかさで、ベルティーユはブランシュを抱き寄せ、頬擦りをした。
「私には恋は分からぬ。しかし君の悲し気な顔を見たら放ってはおけぬ。手紙を寄越してくれ。それで君の気持ちが晴れるなら」 
「将軍さまに手紙なんて。大それたことを」
「いいんだ。女の軍人なんて珍しくて話しかける奴もいないんだから。なんでも話してくれ」
 ベルティーユは自嘲した。どういうわけか、ドレスより軍服に憧れる彼女は、周囲からも不思議がられていた。
 ベルティーユはこうも言った。
「私は私だ。着たいものを着る。したいことをする。女の身体として生まれたからなんだ?私はこの軍服が好きだ。近代ウーゾイル共和軍の創設者であるナポレオンには女装癖があった。そんなナポレオンのために誂えられた軍服が、私のような男女に似合わぬはずがなかろう」
 

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