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内乱
ウーゾイル共和国内乱 三
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ウーゾイル共和国の国土は西と東の地理的な条件が異なる。ルドフォア山脈がこの国をちょうどまん中から東西に分けるように走り、東は痩せた平地が広がり、西は山と森に埋め尽くされている。
当然、人々も拓けた東の平地へ流れ、痩せた土地でも育つ麦や西の土地の森から取れるきのこ類、はたまた植民地から輸入される香辛料などを食糧としている。西には森のなかにいくつかの村があり、都市化されつつある東の地方と違い、昔ながらの山岳信仰に基づき少数の住民が暮らす。工業化に欠かせない鉱石資源を採取する鉱山もいくつか存在している。
新聞が読める人も東の地方に集中している。
首都ロンアラスは、地図で見たらウーゾイル共和国の南東に位置していて、海へ注ぐセーヌ川が運河の役割を果たし、商業都市として栄えている。
ここから北へ進むとイノサンと言う都市がある。イノサンはかつて王政時代の都であり、歴代の皇帝が眠るカタコンブ・ド・イノサン(イノサンの地下墓地)もある。
そして、ここから西へ進路を変え、ルドフォア山脈を構成するア山の狭い山道を抜けると森に囲まれた村であるニロロにたどり着く。
数日前、王政復古主義者の邪な野望に、よく考えずに乗ってしまった青年二人が馬車に揺られ、この山道を抜けた。
「アンセルム。皇帝の遺体を盗むなんて、あいつら普通じゃないぞ。」
二台の馬車のうち後続の馬車にはアンセルムとカンタンだけが乗り込んだ。馬車を走らせる者に聞かれないようにカンタンがアンセルムに問いかける。
「そうだな。隙を見て逃げようか」
「そうしよう。やっぱアンセルムは恋人に会いたいよな」
恋人と言う響きにアンセルムは少し感じ入るものがあった。
「うん。帰りたい。今通ってるのはア山道だよな。馬車が止まったらやつらの目を盗んで引き換えそう」
それから何度か二人は逃亡のチャンスをうかがった。しかしだめだった。
王政復古主義者の仲間と思われる人間たちが行く道でボドワンたちが狙われぬように警護していたためだ。
けっきょく二人はボドワンたちとともにニロロ村に到着してしまった。
ニロロ村はボドワン一派に寝返ったウーゾイル兵が占拠していた。アンセルムとカンタンは民家に押し込められ軟禁状態に置かれた。
逃亡するのは困難になってしまった。しかしアンセルムは気落ちしなかった。
「カンタン、俺たちは何をしてでもロンアラスに帰るぞ。」
「とりあえず報酬をもらわないと意味がないよ。でもその話はあとまわし」
ボドワンたちは、ウーゾイル共和軍が自分達を討伐しにくることを先読みしていて、ゴーチエが統率する四十九人の部隊に気まぐれな傭兵であるツチラトを加え、これを迎え撃つ用意をしていた。
イノサンにおける事件から一週間後、オクタヴィアン率いる二〇〇人の討伐部隊が山道を抜けニロロ村の眼前に迫っていた。この討伐部隊の中には、バンジャマンを含む特殊部隊員も編入されている。
吹き矢のプロフェッショナルでもあるバンジャマンが、裏切り者たちの部隊を草陰から狙い撃ちするべく気配を消し村の南側から侵入を試みた。
影となり忍び寄る暗殺者を寸手で止めたのは、八本のナイフを操る戦士、ゴーチエであった。ゴーチエは寸胴の体で俊敏にバンジャマンに迫り、ナイフで威嚇した。
「バンジャマン。貴様は相も変わらず国家の汚れ仕事ばかり引き受けておるのか」
「ゴーチエどの、あなたもわたし同様、国家の暴力装置の歯車に過ぎません。それが、ご乱心なされたか」
ゴーチエが接近していたため、得意の飛び道具である吹き矢を封印し、素手でパンチを繰り出しながらバンジャマンはゴーチエの本意を糺す。
そのパンチの衝撃を頑丈な体で吸収しながらゴーチエは大笑いする。
「ご乱心だと?愛国心こそが、人間が抱く感情の中でもっとも気が触れている状態ではないか」
バンジャマンさま!ゴーチエさま!
加勢が加わり、混線状態に。木と草が生い茂り視界の不自由なため銃・火薬の使用ははばかられた。
ある者は殴り、ある者は剣を取る。
泥まみれの混線。ウーゾイル共和国内乱の火蓋が切って落とされた。
当然、人々も拓けた東の平地へ流れ、痩せた土地でも育つ麦や西の土地の森から取れるきのこ類、はたまた植民地から輸入される香辛料などを食糧としている。西には森のなかにいくつかの村があり、都市化されつつある東の地方と違い、昔ながらの山岳信仰に基づき少数の住民が暮らす。工業化に欠かせない鉱石資源を採取する鉱山もいくつか存在している。
新聞が読める人も東の地方に集中している。
首都ロンアラスは、地図で見たらウーゾイル共和国の南東に位置していて、海へ注ぐセーヌ川が運河の役割を果たし、商業都市として栄えている。
ここから北へ進むとイノサンと言う都市がある。イノサンはかつて王政時代の都であり、歴代の皇帝が眠るカタコンブ・ド・イノサン(イノサンの地下墓地)もある。
そして、ここから西へ進路を変え、ルドフォア山脈を構成するア山の狭い山道を抜けると森に囲まれた村であるニロロにたどり着く。
数日前、王政復古主義者の邪な野望に、よく考えずに乗ってしまった青年二人が馬車に揺られ、この山道を抜けた。
「アンセルム。皇帝の遺体を盗むなんて、あいつら普通じゃないぞ。」
二台の馬車のうち後続の馬車にはアンセルムとカンタンだけが乗り込んだ。馬車を走らせる者に聞かれないようにカンタンがアンセルムに問いかける。
「そうだな。隙を見て逃げようか」
「そうしよう。やっぱアンセルムは恋人に会いたいよな」
恋人と言う響きにアンセルムは少し感じ入るものがあった。
「うん。帰りたい。今通ってるのはア山道だよな。馬車が止まったらやつらの目を盗んで引き換えそう」
それから何度か二人は逃亡のチャンスをうかがった。しかしだめだった。
王政復古主義者の仲間と思われる人間たちが行く道でボドワンたちが狙われぬように警護していたためだ。
けっきょく二人はボドワンたちとともにニロロ村に到着してしまった。
ニロロ村はボドワン一派に寝返ったウーゾイル兵が占拠していた。アンセルムとカンタンは民家に押し込められ軟禁状態に置かれた。
逃亡するのは困難になってしまった。しかしアンセルムは気落ちしなかった。
「カンタン、俺たちは何をしてでもロンアラスに帰るぞ。」
「とりあえず報酬をもらわないと意味がないよ。でもその話はあとまわし」
ボドワンたちは、ウーゾイル共和軍が自分達を討伐しにくることを先読みしていて、ゴーチエが統率する四十九人の部隊に気まぐれな傭兵であるツチラトを加え、これを迎え撃つ用意をしていた。
イノサンにおける事件から一週間後、オクタヴィアン率いる二〇〇人の討伐部隊が山道を抜けニロロ村の眼前に迫っていた。この討伐部隊の中には、バンジャマンを含む特殊部隊員も編入されている。
吹き矢のプロフェッショナルでもあるバンジャマンが、裏切り者たちの部隊を草陰から狙い撃ちするべく気配を消し村の南側から侵入を試みた。
影となり忍び寄る暗殺者を寸手で止めたのは、八本のナイフを操る戦士、ゴーチエであった。ゴーチエは寸胴の体で俊敏にバンジャマンに迫り、ナイフで威嚇した。
「バンジャマン。貴様は相も変わらず国家の汚れ仕事ばかり引き受けておるのか」
「ゴーチエどの、あなたもわたし同様、国家の暴力装置の歯車に過ぎません。それが、ご乱心なされたか」
ゴーチエが接近していたため、得意の飛び道具である吹き矢を封印し、素手でパンチを繰り出しながらバンジャマンはゴーチエの本意を糺す。
そのパンチの衝撃を頑丈な体で吸収しながらゴーチエは大笑いする。
「ご乱心だと?愛国心こそが、人間が抱く感情の中でもっとも気が触れている状態ではないか」
バンジャマンさま!ゴーチエさま!
加勢が加わり、混線状態に。木と草が生い茂り視界の不自由なため銃・火薬の使用ははばかられた。
ある者は殴り、ある者は剣を取る。
泥まみれの混線。ウーゾイル共和国内乱の火蓋が切って落とされた。
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